研究領域 | マクロ沿岸海洋学:陸域から外洋におよぶ物質動態の統合的シミュレーション |
研究課題/領域番号 |
22H05208
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 大 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70736040)
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研究分担者 |
有働 恵子 東北大学, 工学研究科, 教授 (80371780)
横尾 善之 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (90398503)
東 博紀 国立研究開発法人国立環境研究所, 地域環境保全領域, 主幹研究員 (60414398)
羽角 博康 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (40311641)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
92,170千円 (直接経費: 70,900千円、間接経費: 21,270千円)
2024年度: 22,230千円 (直接経費: 17,100千円、間接経費: 5,130千円)
2023年度: 21,710千円 (直接経費: 16,700千円、間接経費: 5,010千円)
2022年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
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キーワード | 海洋循環 / 河川流出 / 土砂 / 栄養塩 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の河川は平常時と大量出水時で淡水・土砂・栄養塩類の流出量が大きく変動する。大量出水の観測は限られるため、それが海洋の水動態と生態系に及ぼす影響は未知といえる。本研究は、広域河川モデルCaMa-Flood を基盤として、水文地形データや地理情報データを活用し、土砂および栄養塩類の広域生産・輸送モデルを開発する。出水時水質観測や衛星海色観測で検証較正を行い、日本全域を対象とした淡水・土砂・栄養塩類の流出量シミュレーションを実現し、海洋マルチスケールモデルと組み合わせることで、河川大量出水が沿岸域と外洋に及ぼす短期的/長期的な影響を評価する。
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研究実績の概要 |
本年度は広域土砂動態シミュレーションに向けたモデル開発とデータ整備に重点的に取り組んだ。全球河川モデルに土砂スキームを結合し、タイムステップ管理を見直して広域を高効率で計算できるよう改良した。土砂生産スキームとしてRUSLEモデルを用い、全国の2006~2022年の年土砂侵食量を1kmメッシュの空間解像度で計算した。これとSDR式から求めた年平均土砂生産量の推定値と年平均実測ダム堆砂量を比較し、土砂生産量の妥当性について確認した。土砂粒径分布の見積りに向け、河床変動モデルの上流端における流入土砂量とその粒径分布の変化が下流への影響について感度分析を行った。 土砂動態シミュレーション検証のため、阿武隈川の岩沼水位観測所地点で平常時と出水時の河川流量Q・浮遊土砂輸送量L・浮遊土砂の粒径分布を測定してLQ式および浮遊土砂濃度と濁度の関係式を作成した。炭素・窒素・リン・シリカの存在形態別の濃度も測定し、それらの輸送量も推定した。さらに、同地点における濁度等の常時観測を開始した。また、衛星観測のみから土砂濃度を推定する新たなアルゴリズムの構築に取り組んだ。 栄養塩流出量の推計に向けたデータ整備にも着手した。日本全国の栄養塩類の発生負荷量を算定するため、水質汚濁物質排出量調査(環境省)の調査票に記載されている約2万4千件の特定事業場の位置を特定した。それに国土数値情報の流域メッシュを重ねて集計を行い、全国109一級水系流域における特定事業場由来のCOD・TN・TP発生負荷量を明らかにした。 さらに、沿岸海洋モデルを用いた陸域影響評価も進めた。日本域河川シミュレーション出力を日本周辺全海域高解像度モデルの境界条件として適用した数値実験を実施した。この数値実験結果に基づき、日本海側河川が津軽海峡を通過して太平洋側沿岸地域に及ぼす影響に着目して、遠隔地域の河川水が沿岸海域に及ぼす影響を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画前半の中心課題となる陸域からの土砂フラックス推定に向けた研究開発が順調に進んでいる。広域河川モデルへの土砂輸送スキームの結合に目処がたち、土砂輸送シミュレーションが実施できるようになった。また、モデルを駆動するための土砂生産量データも最新のRUSLEモデルを用いて高解像度で推計することができた。粒径分布を考慮したシミュレーションが海洋モデルと結合する際の課題として残っているが、河川内の土砂濃度と粒径分布の観測を、阿武隈川流域で平水時・洪水時ともに実施できたことで、これまで観測ベースではほとんど分かっていなかった洪水時の河川土砂動態を明らかにするための基礎的データが揃った。また、当初計画にはなかったが衛星観測データのみから土砂濃度を推計する手法のプロトタイプができ、広域でモデル推定の土砂フラックスを検証できる可能性が見えてきた。 栄養物質についても各種統計資料の収集が進み、全国約2万4千件の特定事業場からのデータを収集することで109一級水系の負荷量推計が完了した。これを基本データとして特定事業所以外からの負荷量を推定していくことで、日本全国をカバーする栄養物質負荷データを構築する目処がたった。 河川モデルと海洋モデルの結合も順調に進んでおり、今年度は研究プロジェクトで開発した淡水フラックスデータを用いて日本周辺全海域高解像度モデルを駆動することに成功した。今後は淡水以外にも土砂フラックスデータを結合できるように開発を継続していく。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、陸域から海洋への土砂フラックスの広域データ整備に取り組む。これまでに開発した河川土砂輸送スキームと、RUSLEによる広域土砂生産データを組み合わせ、河川における土砂輸送シミュレーションを実施する。この結果を整理し、海洋モデルの境界条件となる土砂フラックスデータ初版を開発する。 より高精度な土砂データの創出にむけて、土砂生産モデルの高度化と検証データの整備に取り組む。RUSLEモデルを時間変化を計算可能なモデルに修正して時系列データを構築し、出水時の採水による流砂観測結果と比較する。また、新たに開発したリモートセンシングによる土砂濃度推定手法の精度評価を行い、広域土砂シミュレーションの検証に活用できるか検討する。 陸域から海洋への栄養物質フラックスの推定に向けて、発生負荷量データベースの広域展開に取り組む。国勢調査、経済センサス、農業センサス、土地利用等の統計資料を収集し、特定事業場以外の施設や事業所、農地、市街地など面源由来の発生負荷量を算定する。特定事業場由来も含めて集水域ごとに集計を行い、日本全国の沿岸域への負荷量を明らかにする。さらに2023年度末に着手した阿武隈川の岩沼水位観測所地点における土砂観測を水質項目を含むように拡張し、濁度・溶存有機物濃度・電気伝導度の連続観測を行い、浮遊物質濃度と濁度の関係式を利用して、毎時の浮遊物質濃度の経時変化を推定する。また、毎時の粒径別の浮遊物質濃度の経時変化を推定する。 海洋モデルとの結合については、2023年度に開発した高解像度河川海洋モデルに粒子追跡手法に基づく低次生態系過程を導入し、基礎生産に利用される栄養物質の起源を特定できる数値モデルを構築する。これを用いた日本周辺全海域シミュレーションを通して、日本沿岸海域で利用される栄養物質の供給における河川と外洋の相対的寄与に関する予備的評価を実施する。
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