研究領域 | 超軌道分裂による新奇巨大界面応答 |
研究課題/領域番号 |
23H03802
|
研究種目 |
学術変革領域研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20401143)
|
研究分担者 |
Le DucAnh 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50783594)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
57,980千円 (直接経費: 44,600千円、間接経費: 13,380千円)
2024年度: 19,370千円 (直接経費: 14,900千円、間接経費: 4,470千円)
2023年度: 19,370千円 (直接経費: 14,900千円、間接経費: 4,470千円)
|
キーワード | 超軌道分裂 / 酸化物ヘテロ界面 / スピントロニクス / 機能性デバイス / 分子線エピタキシー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、酸化物を中心とした材料系におけるヘテロ界面における特異な軌道分裂(超軌道分裂)を制御する科学を確立することにより、種々の高品質ヘテロ界面において、外場(電場・磁場など)による様々な巨大秩序応答を実現することを目標とする。さらに、このような新奇の物理現象を理解できる新しい電子軌道制御に関する学術分野を創成するとともに、 高効率デバイスの実現に結びつく新たな機能性を生み出すことを目標とする。他の研究班と共同研究を行うことにより、実際に界面で起きている現象を原子スケールで観測し、第一原理計算を用いて理論的に理解し、それらを実験にフィードバックすることにより、新現象や新材料系を開拓する。
|
研究実績の概要 |
2023年度の代表的な成果は下記の2点である。 SrTiO3基板上にエピタキシャル単結晶酸化物強磁性薄膜LaSrMnO3(LSMO)を成長し、我々のグループのナノ加工技術を用いて36 nm程度の領域にアルゴンを照射し、本来金属であるLSMOに対してナノスケールでの局所的な相転移を引き起こすことによって、半導体では実現が困難であった140%ものスピンバルブ比をもつスピントランジスタを作製することに成功した。酸化物を用いて半導体では実現が難しかった新たな機能性をもつデバイスを実現できる可能性を示している。将来的には、このようなナノスケールの相転移技術をさまざまな酸化物に適用することで酸化物の多様な物性を利用した新しいデバイスを創出できるものと期待される。本成果はAdv. Mater.誌に出版され、プレスリリースを行った。本領域研究では、スピン注入が高効率で実現できる界面がどのようなものなのか微視的に検討を進めていきたい。 従来、抵抗スイッチ効果は電界によってのみ制御がなされてきた。我々はFe/MgOからなる2層電極をもつGeのナノチャネルデバイスに対して、磁場を印加したところ25000%も抵抗が変化する抵抗スイッチ効果を観測した。さらに磁場により、スイッチ効果が増大することが明らかになった。抵抗スイッチ効果を磁場で制御できる新たな方向性を示す成果と言える。A03班との共同研究により、理論的に導電性フィラメントの構成要素としてMg欠損が極めて重要な役割を果たしていることが明らかになった。Mg欠損をこのような抵抗スイッチ効果の磁場依存性の実現に使えることは、今まで全く知られていなかった。酸化物中の陽イオンの欠損の有用性を意外な形で示すことができた点で、学術的な意義も非常に大きいと考えている。本成果はAdv. Mater.誌に出版され、プレスリリースを行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
共同研究が順調に進んでおり、特に昨年度はA02班佐藤グループおよびA03班福島グループとの共同研究を予定通りに進めることができた。予想外の成果も次々と生まれており、酸化物の超高品質界面を用いた高効率スピン注入と、スピントランジスタでは過去最高値である140%ものスピンバルブ比を得ることに成功し、Adv.Mater.誌に掲載するとともにプレスリリースを行った。このような単結晶の高品質界面でどのようにして高効率のスピン注入が実現されているのかを本研究領域で引き続き議論していくことは極めて重要である。また、A03班と共同で、過去30年間謎であった強磁性半導体の抵抗率の温度依存性の特異な振る舞いを、第一原理計算を利用して解明することに成功し、APL Materials誌に論文が出版され、プレスリリースを行った。さらに、A03班と共同で、Fe/MgO電極を有するGeナノチャネルデバイスにおいて、25000%にもおよぶ磁場で制御可能な大きな抵抗スイッチ効果を実現することに成功し、第一原理計算を用いて理論モデルを構築した。本成果はAdv.Mater.に掲載され、プレスリリースを行った。本グループの学生が、日本学術振興会育志賞、東京大学総長賞などを受賞しており、近年の成果が高く評価されていることが分かる。
|
今後の研究の推進方策 |
我々のグループでは、従来より分子線エピタキシー技術を駆使して高品質の酸化物ヘテロ界面や、金属/半導体多層膜などを作製し、巨大なスピン依存伝導現象を観測してきた。分子線エピタキシーは、超高真空中で原子を昇華または蒸発させて原子層一層一層を積層していくことにより、原子レベルで平坦な単結晶人工格子を作製する技術である。このような理想的な界面を利用することにより、様々な界面に隠されている新たな巨大外場応答現象を探索していく。具体的な研究計画は下記の通りである。 本年度は、さらに共同研究を加速させる。昨年度観測されたFe/MgO/Geにおける、Fe/MgO界面での強磁性近接効果による巨大磁気抵抗スイッチ効果に関して、より理解を深めるために、層構造の異なるヘテロ構造で同様の実験を進めていく。同時に、A03班福島グループと共同で、本現象の理論的な理解も進めていく。大きな外場応答が観測されているオールエピタキシャルのLaSrMnO3/SrTiO3界面試料を、昨年度、A02班佐藤グループに提供しており、走査透過型電子顕微鏡および電子エネルギー損失分光(EELS)その場観測技術を駆使して、これから電場磁場誘起巨大応答の原理をより詳細に調べることにより、これらの物理現象を理解し、さらに大きな応答が得られるかを調査する。分子線エピタキシーでは作製が困難な界面も存在するため、必要に応じて、永沼グループ(A01班)のスパッタ技術も併用することにより、新たな界面の作製を目指す。結晶成長の難易度に関しては、結晶成長の実験結果をA03班福島グループにフィードバックすることにより、より実現しやすい界面の理論予想を行う。さらに実験結果をもとに理論と実験の整合度を検証していきたい。本領域外の研究者とも積極的に連携することにより、共同研究の幅を広げていくことにより、分野の拡大に貢献したい。
|