研究領域 | 超軌道分裂による新奇巨大界面応答 |
研究課題/領域番号 |
23H03804
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 幸生 熊本大学, 半導体・デジタル研究教育機構, 教授 (80581991)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
22,360千円 (直接経費: 17,200千円、間接経費: 5,160千円)
2024年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2023年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
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キーワード | 界面 / 電子顕微鏡 / 原子配列 / 電子状態 / その場観察 |
研究開始時の研究の概要 |
薄膜/基板界面などの異相界面において発現する、微小な刺激で得られる巨大な応答(巨大界面応答(CIR))のメカニズムを解明することを主な目的として、界面の精密原子位置解析ならびに電子状態測定を、原子分解能電子顕微鏡および分光法で行う。静的な状態での測定だけでなく、申請者が得意とする電場を印加しながら測定する「その場観察」法との併用で、原子位置や電子状態の変化についても解明する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は高精度原子分解能走査透過型電子顕微鏡法(STEM)を、本学術変革領域研究で主な対象物質となるMRAM/FeRAM等に応用可能な酸化物薄膜に適用した局所構造解析を中心として研究を進めた。一例として、強誘電体(圧電体)Pb(Zr,Ti)O3の組成変調超格子膜における局所結晶構造解析を行った。各層の厚さが4nmである、Pb(Zr0.65,Ti0.35)O3/Pb(Zr0.30,Ti0.70)O3超格子において、Pb(Zr0.65,Ti0.35)O3層では正方晶的構造の形成、Pb(Zr0.30,Ti0.70)O3層ではc軸の短い正方晶的構造の形成、また、超格子膜全体に渡り強誘電秩序の微細化が確認された。これらはいずれも通常では想定されない超格子特有の構造であり、原子分解能観察に基づいて初めて明らかになったものである(Sato et al., J. Mater. Sci., in press.)。また、Hf0.5Zr0.5O2のナノ粒子において、常誘電相である単斜晶相の形成がサイズ効果と直接の関連があることも、高精度原子分解能STEM観察から明らかにした(Noguchi et al., J. Ceram. Soc. Jpn., in press.)。加えて、A01班の永沼と共同でLaAlO3基板上のBiFeO3膜について局所構造解析を行い、従来知られていない新規の結晶相の存在が明らかとなった(Sato et al. Submitted.)。 また、電場印加下での高分解能STEM観察およびEELS測定のテストも行い、実験が可能であることを確認した。令和6年度以降に行う薄膜や薄膜基板界面の電場印加下での原子配列および電子状態解析に適用していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた「電場印加その場電子顕微鏡法」、「高精度原子分解能STEM法」、「電子エネルギー損失分光法(EELS)」の融合は順調に進んでおり、試料作製のノウハウ構築、試料ホルダーの導入、測定手順の構築などを終えてテスト実験が済んでおり、今年度以降、薄膜や界面等への適用に準備が整った。 それに加えて、高精度原子分解能STEM法を薄膜やナノ粒子に適用することで、当初計画では予想されていなかった材料科学上の知見が得られ、順次、論文投稿へと進めることができた。研究成果の例は上記の「研究実績の概要」にて説明しているため、詳細は割愛するが、Pb(Zr,Ti)O3組成変調超格子における特異な結晶相の形成および強誘電秩序の微細化の発見、Hf0.5Zr0.5O2ナノ粒子の常誘電相形成におけるサイズ効果の発見、BiFeO3膜における新規結晶相の発見などがそれにあたり、2報の学術論文がアクセプトされており、1報が査読中である。 これらの研究成果などにより、複数の国際学会での招待講演を含む多数の学会発表を行ったほか、研究代表者(佐藤)は米国セラミックス協会から「Richard M. Fulrath Award」を授賞された。 今年度の研究に向けてすでにA01班の大矢(東京大学)にて作製された(La,Sr)MnO3/SrTiO3/(La,Sr)MnO3のトンネル接合素子について、高精度原子分解能STEM観察、EELS測定、電場印加その場電子顕微鏡観察を進めており、初期の結果が得られつつあるなど、研究の進行は想定以上である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に、「電場印加その場電子顕微鏡法」、「高精度原子分解能STEM法」、「電子エネルギー損失分光法(EELS)」を融合させるため、試料作製のノウハウ構築、試料ホルダーの導入、測定手順の構築などを行い、テスト実験を終えた。今年度は、これらの手法を各種薄膜や界面に適用していく。本手法については、今年度もより手法の高度化を進める予定であり、具体的には、EELS測定におけるtemplate matchingの適用による信号/ノイズ比の向上などを行う予定である。 すでに、A01班の大矢(東京大学)が作製した(La,Sr)MnO3/SrTiO3/(La,Sr)MnO3のトンネル接合素子について、実験を始めており、電場印加による上部(La,Sr)MnO3における電子状態(磁化)変化の直接計測を試みる。得られた精密原子配列や電子状態については、A03班の福島(産総研)らに提供して、第一原理計算との比較検討を行うことでより精緻な原子配列・電子状態ならびにそれらの電場応答を解明する。それらの知見に基づいて、超起動分裂による巨大外場応答の発現メカニズム解明を試みる。 また、昨年度、A01班の永沼(東北大学)と共同でBiFeO3の新規結晶相を発見するに至った。この新規結晶相から期待される物性はまだ検証されていないため、第一原理計算を用いて新規結晶相のエネルギー的安定性や電子状態、強誘電性や強磁性発現の可能性などについて検討を行いたい。
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