研究領域 | クオリア構造学:主観的意識体験を科学的客観性へと橋渡しする超分野融合領域の創成 |
研究課題/領域番号 |
23H04831
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田口 茂 北海道大学, 文学研究院, 教授 (50287950)
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研究分担者 |
石原 悠子 立命館大学, グローバル教養学部, 准教授 (40846995)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
56,680千円 (直接経費: 43,600千円、間接経費: 13,080千円)
2024年度: 11,570千円 (直接経費: 8,900千円、間接経費: 2,670千円)
2023年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
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キーワード | 現象学 / 媒介論 / 日本哲学 / クオリア / 意識 / 圏論 / 身体性 / 感情 / エナクティヴ・アプローチ / 遊び / 生態的心理学 |
研究開始時の研究の概要 |
本計画班は、哲学における現象学と近代日本哲学の知見、認知科学におけるエナクティヴ・アプローチの知見を生かしつつ、知覚・感情クオリアの多面的な媒介関係を明らかにする。第一に知覚クオリアが他の様々な知覚クオリアや感情クオリアなどによって媒介されて成立するという点を現象学的に分析し、クオリアの媒介構造に関する基本的仮説と理論的予測を提供する。第二に知覚・感情クオリアが身体性によって根本的に条件づけられていることを明らかにする。第三に知覚クオリアと感情クオリアがどのような仕方で相互に媒介しあっているかを解明する。
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研究実績の概要 |
2023年度は、クオリアの媒介構造を明らかにするための理論的基盤形成に資する研究を進めた。クオリアを実体論的・本質論的に捉えるのではなく、多様な現象の間の相互的な媒介関係の内にこそ、「クオリア」と呼ばれる現象が姿を現わすという点を、様々な角度から明晰化する研究を行った。とりわけTaguchi (2023) How to Become Conscious of Consciousnessでは、意識という現象が本質的に媒介的現象であることを具体的な例を挙げつつ明示し、媒介論的方法の科学的意義についても論じている。分担者・石原はS. Tainerとの国際共著により著書Intercultural Phenomenology: Playing with Reality (2024)を上梓し、現象学的エポケー(判断停止)を現実との「遊び」的な関わりと捉え、そこにおいて現実がよりよく自らを明らかにするということを論じている。これはクオリア構造の探究においてもベースとなる現実観を提示している。 クオリア的な現実経験の解明に際し、数学における「圏論」が果たす役割についても、様々な角度から研究を進めた。とりわけ時間論、自我論,自律性などについての研究を進めている。時間論に関する成果は、Taguchi&Saigo (2023) Front. Psychol.14に発表した。これは、現象学的時間論に見られる錯綜した構造を圏論の「モノイド」によって矛盾なく表現するということを可能にしている。石原も土谷グループのSteven Phillipsと連携し圏論的な現象学理解について精力的に研究を進め、成果が出つつある。 クオリアにおける身体性の役割については、田口(2023)『科学』で総論的な論考を発表した。博士研究員の染谷昌義と協力して、生態学的心理学とクオリアとの関係についても研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クオリア構造の現象学をめぐる基礎的な理論研究については、相当程度進捗している。主観的経験の基礎を成す時間意識の構造について、圏論的な解釈の道筋を描くことができたほか、生命にとっての基礎現象であり主体性の本質的契機である「自律性」についても圏論的な解釈を整備した。クオリアの身体性による媒介についても、総論を発表したほか、身体性を重視する生態学的心理学の研究を、日本での第一人者ともいえる博士研究員の染谷昌義と進めており、「クオリアと生態学的心理学」というこれまでほとんど研究されてこなかった新しい分野について研究が進捗している。分担者石原による「遊び」的な観点からの現実の本質についての研究も、クオリア構造の現象学を解釈していく際に基礎的な視点を与える成果と言える。クオリアの感情による媒介に関しては、やはり生態学的心理学からアプローチできる部分があると考えられるほか、感情そのものを媒介論的に捉え、その圏論的な定式化を整備することに着手している。石原の遊び的な現実との関わりも、現実経験におけるある種の根本感情と見なすことができ、そこから、ハイデガー的な「根本気分」の思想をも参照しつつ、現実経験における根本的な感情クオリアについて論究していく道筋も開かれつつある。 以上より、当初計画した研究は順調に展開しており、いくつか新しい着眼点が得られ、更なる研究の道筋が描かれつつあることから、おおむね順調、部分的には予想以上の進捗が得られている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、圏論的な現実経験の構造をさらに追究するなかで、クオリアの身体性による媒介、感情による媒介を、圏論的形式化と結びつけていくことが求められる。それぞれの研究は現状では、緩くつながりながら、おおむね独立して行われているが、今後はメンバー間の相互連携も密にしていくことにより、各研究の相互作用をより高めていく方策を工夫していきたい。そのために、今年度は「遊び」に関するワークショップを分担者石原、RA宮﨑を中心に企画し、メンバー間(学術変革領域研究A当該プロジェクトの他グループのメンバーも含む)の相互交流・議論の活性化に繋げていきたい。博士研究員・染谷の生態学的心理学研究と、分担者石原・RA宮﨑の「遊び」研究との連携・相互作用も高めていく。昨年度よりミーティングの回数を増やし、議論の活性化を図る。 今年度はエストニアのタリン大学で行われる国際ワークショップや中国・中山大学珠海キャンパスで行われる国際学会に参加し、海外連携についても拡大する方向で進めていきたい。
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