研究領域 | 尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて |
研究課題/領域番号 |
23H04851
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 毅 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (90195719)
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研究分担者 |
前川 健一 創価大学, 文学研究科, 教授 (20422355)
竹下 悦子 (牧角悦子) 二松學舍大學, 文学部, 教授 (40181614)
菊地 達也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40383385)
清水 正之 聖学院大学, 大学院研究科, 客員教授 (60162715)
松井 佳子 神田外語大学, 外国語学部, 教授 (60255180)
小倉 紀蔵 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80287036)
中村 元哉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80454403)
犬塚 悠 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80803626)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
48,360千円 (直接経費: 37,200千円、間接経費: 11,160千円)
2024年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
2023年度: 9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
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キーワード | 尊厳 / アジア / 日本 / 思想 / 概念 / 人間論 / イスラム |
研究開始時の研究の概要 |
学術変革領域全体の研究目的の一環として、文化横断的で真に普遍的な尊厳概念を構築するためこれまで不在であった非欧米圏の尊厳概念史を構築し提案する。世界各地の多様な「尊厳に相当する概念」の実相を明らかにするが、それは 欧米圏の「尊厳」を加えた、より高次元の「尊厳」を追求するという学術的独自性と創造性を備える。そのために本班が戦略的に中核的関心を置くのが「人間」の再検討である。
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研究実績の概要 |
本計画研究A03班では「非欧米圏」における「尊厳に相当する概念」の思想史的考察と現状分析を実施し、計画研究A02班と連携しながら欧米圏に対抗できる非欧米圏の概念史を構築することを目的としている。5年間にわたる研究計画においてその初年度にあたる本年度は、非欧米圏の概念布置における「人間」論を具体的に問題提起することで世界哲学史の練り上げに貢献する初歩的作業を進めた。 2023年7月1日開催の第1回研究会では、中国近代における「科学と人生観論争」について議論を行った。この論争は西洋近代科学の全面的受容に対して張君バイが異論を提起したことに始まるもので、人間の意志や行為が科学によって説明可能かどうかが争点であった。報告では、張君バイ本人のほかに唐君毅と周作人を取り上げ、法学・哲学・文学それぞれの立場から中国近代における人間観を考察した。 2023年9月9日開催のシンポジウムでは、欧米での尊厳概念の歴史的考察を担当するA02班と非欧米圏の伝統文化の尊厳概念とその近代的変容を担当するA03班が合同で、尊厳概念史の諸問題について共通認識を構築すべく、それぞれの立場から人間論の比較思想的な分析を行った。A02班からのヨーロッパの尊厳概念について3名の報告を学び、A03班からはイスラム教、日本思想、近代日本文学における尊厳概念について議論を行った。 2023年12月10日開催の第2回研究会では、従来行われてきた東アジアの儒教的・道徳的人間観念にもとづく尊厳概念の追求ではなく、そのような「正統派」的な議論からははみだす人間観について考察を行った。 最後にA03班では、すでに2024年度5月に2つの国際シンポジウム(18日および31日)を開催することを予定して準備を進めており、以上の成果を活かして東アジアの尊厳概念についての論文集を出版する計画を始動させている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
7月1日開催の第1回研究会によって20世紀前半の中国における「人間」論の様相を理解・共有することができた。今後の課題としては、これについて他の研究分担者がおのおの(中国に対する)日本・朝鮮といった国家的特性や(儒教に対する)仏教・イスラムといった他宗教の視点から評価をする形で共同研究を進めるための基礎が築かれた。この日の成果は論文として整理したうえでA02班・A04班など他の班にも情報提供していく。 9月9日開催のシンポジウムではA02班との共同開催による相互議論により欧米圏における「尊厳」概念史のこれまでの研究状況を把握・共有することができ、さらには非欧米圏における「尊厳に相当する概念」研究の基盤を整えるための諸問題を認識することができた。 12月10日開催の第2回研究会報告では、緩和ケア病院の院長による「日本的な看取り」とは何かという現場からの思索が紹介され、またニーチェの「総合的人間」という概念がいかに日本群島文明のアニマシー(生命感覚)と方向性を同じくしているかが分析された。研究分担者の小倉紀蔵は、カントと対比してその尊厳論を嫌ったニーチェの人間論は「強い」価値や精神を否定し「弱い」方向へと疾駆する、人間の生んだ「高い価値」とは無縁な総合的人間であると従来から主張しており、この指摘を非欧米圏のさまざまな思想遺産において実証的に検証して「総合的人間」という概念を定式化していくことを通して欧米圏と非欧米圏の両者の地平を拡大してゆくための基礎が築かれた。A01班およびA02班との連携やこれらの個別的な研究をどのように統合して非欧米圏の「尊厳」概念史の構築に供するかなどを今後の課題として認識した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初計画にほぼ沿う時程表による研究遂行を行う。2024年はまず5月18日に第68回国際東方学者会議におけるシンポジウムパネルで近代日本における尊厳概念の転移について議論する。ここで犬塚・前川の2名が発表することで、昨年度からメンバー9名全員がシンポジウムでの研究報告をひととおり終える。 5月31日には、昨年7月1日の研究会を承けるかたちで、20世紀後半以降の台湾における尊厳概念について、台湾からの研究者たちを招聘して研究会を催し、韓国・日本の現状と比較するなどして非欧米圏としての東アジアにおける尊厳をめぐる諸問題に対する認識を、班内で共有しつつその深化に努めていく。 昨年来のこれらの成果をまとめた論文集を2024年度中に作成・刊行する予定にしている。 また、昨年来の課題である他班との情報交流・意見交換について、その方策を総括班の指導を仰ぎながら工夫し、学術変革領域全体の共同研究として進展させていく。
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