| 研究領域 | 尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて |
| 研究課題/領域番号 |
23H04855
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| 研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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| 配分区分 | 補助金 |
| 審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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| 研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
後藤 玲子 帝京大学, 経済学部, 教授 (70272771)
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| 研究分担者 |
稲原 美苗 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (00645997)
鈴木 晴香 (日笠晴香) 岡山大学, ヘルスシステム統合科学学域, 准教授 (50724449)
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| 研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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| 研究課題ステータス |
交付 (2025年度)
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| 配分額 *注記 |
62,140千円 (直接経費: 47,800千円、間接経費: 14,340千円)
2025年度: 12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
2024年度: 12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
2023年度: 9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
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| キーワード | ケイパビリティ(潜在能力) / 尊厳 / 当事者 / 正義理論 / 医療・介護・福祉 / 人間の尊厳 / 当事者研究 / 臨床現場 / 尊厳へのケイパビリティ / 尊厳尊重義務違反 / 出入り自由なケイパビリティ / マイノリティ当事者 / 生きられた経験 / 現象学的アプローチ / 医療・ケアの意思決定 / 障害者ケア / 認知症ケア / 臨床精神医療 / 個人の尊厳 |
| 研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、ケイパビリティ理論・生命倫理学・現象学などの理論的知見と、精神・身体障害者・認知症患者の尊厳に関する調査を反照させることにより、より包括的な福祉経済政策を提言することにある。具体的には、医療・介護・福祉の現場において第一に「倫理的グループ」(互いの境遇に等しく関心を寄せ、等しく尊重する)の概念を鍵として、脆弱性をもつ人々の「尊厳ケイパビリティ」を測定し、評価する方法を理論的・実証的に解明する。第二にケアする人々とケアされる人々の関係性にもとづく「相互的ケイパビリティ(reciprocal capability)」を測定し、評価する方法を理論的・実証的に開発する。
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| 研究実績の概要 |
人間の尊厳は不可侵の絶対性をもつ,毀損されることも比較秤量されることもない.この言明は尊厳尊重義務の崇高性を喚起すると同時に,尊厳尊重義務違反を糾弾し,個々人が受けた測り知れない被害を測り,社会的に補償することの重要性をも喚起する.B03班の目的は介護や医療,福祉などの臨床場面,ならびに病と障害当事者の生活場面において出現する尊厳問題に着目し,学問の方法的枠組と福祉国家のあり方を批判的に精査することにある. 後藤は,「尊厳へのケイパビリティ」概念を措定して、尊厳尊重義務違反の事実と尊厳をも含む個人のケイパビリティを測る方途を探った.ケイパビリティとは「本人が選ぶ理由のある生」の機会集合を指す.その大きさは資源と資源利用能力により規定される.その不足は資源の社会的移転を要請する根拠とされる.本年度は,(家庭,学校,職場,施設,病院,国境などの)「内と外を自由に出入りする」個人のケイパビリティ(=「本人が選ぶ理由のある生」の機会集合)を測定する方法の定式化に努めた.ポイントは,人間行動の双対性に着目しつつ,1)尊厳を含む機能リストの選定,2)自由概念の再定式化,3)当事者アイデンティティの概念化にある. 稲原は、マイノリティ当事者(障害当事者とその家族)の「生きづらさ」や「尊厳」について、「生きられた経験」に注目し、現象学的アプローチを使って明らかにした。当事者性の高い参加者を集めた哲学カフェを企画運営し、対話のなかで構築されていくコミュニティのあり方、そこで得られた語りから尊厳を捉え直す。 日笠は、認知症を有する人の「尊厳」がどう捉えられ、それをどう尊重するかについて、主に医療・ケアの意思決定の文脈において検討した。生命倫理学における先行研究の理論を検討し、家族や医療・ケアの専門職者らとの意見交換を行うことで、意思決定において認知症を有する人の尊厳を尊重するあり方を考察した。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は,専門の異なるメンバーが互いの関心に応じて,シンポジウムやセミナーを企画したり,フィールド調査を進めたりすることにより,今後の研究に大きく弾みをつけた.主たる研究成果は次の2つにまとめられる.1)A.センのケイパビリティ・アプローチ,障害学と現象学,認知症と生命倫理学などの包括的な理論的・実践的枠組みが,大まかに共有されることにより,尊厳学研究とそれに基づく福祉経済政策の立案に関して.より総合的で奥行きのある構図を得た.2)研究者自身が内包するさまざまな当事者性を積極的に生かしつつも,その立ち位置の偏りに相互自覚的であるための研究技法がいくつか考案され,共有されつつある. これより自由と平等に関する新たな視座を得た.自己のケイパビリティへの関心を,利用能力は同様でタイプの異なる個人(あるいは同一タイプで達成水準の異なる)個人への関心へと拡張する可能性,さらには,自分の選んだ最適点以外の選択肢の善さへの関心を,自分の選んだ最適点以外の選択肢を実際に選んでいる他の人々への関心へと拡張する可能性を探った. 個人が「評価する理由のあるさまざまな生き方」をそこそこ善いものとする活動は、他の人々が「実際に達成しているさまざまな生」をそこそこ善いものとする活動と無縁ではない.現実には,しばしば矢印は逆向きであり,当事者運動への参加を通して,自己のケイパビリティが認識される.自己のケイパビリティを,「他のいずれからも支配されない」&「他のいずれをも支配しない」点の集まりとして認識する<自由の観点>と,自分たちグループ内の「最も不遇なタイプの最大化」を要請する<平等の観点>との間にも内在的関係がある.前者は「個人の主体性」の意識と関連し,後者は「個人のグループ意識(アイデンティティ)」と関連する.これらの仮説を文献等でより緻密に検証する次年度からの課題として残された.
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| 今後の研究の推進方策 |
1.「尊厳へのケイパビリティ」という操作的概念を措定して、尊厳尊重の義務違反の事実を特定し,尊厳をも含む個人のケイパビリティを測定する方途を探る.特に,1)尊厳を含む機能リストの選定と集計方法の探究,2)自由と平等の内在的関係を捉える命題の定式化,3)個人・グループ・位置越境的なアイデンティティの概念化. 2025年5月に国際セミナー「経済学の先端研究に規範的評価をどのように取り入れるか?」を開催する. 2.マイノリティ当事者の「生きづらさ」や「尊厳」について、「生きられた経験」に注目し、関係性、身体性、状況性、脆弱性、主観性を主要な特徴とするフェミニズム的な枠組み,ならびに,現象学的アプローチを使って明らかにする。生と死の関係に対する私たちの理解と対応を、社会やコミュニティから疎外された個人、そしてより広範な人々に対して、どのように再構成できるか,障害のある女性の尊厳や人権の回復と、倫理の確立に向けて必要な事柄について問題提起を行い、尊厳学としての研究と実践のあり方を構想する. 3.認知症を有する人の「尊厳」がどう捉えられ、それをどう尊重するかについて、主に医療・ケアの意思決定の文脈において検討する。とりわけ医療・ケアの受け手が「自律的ではない」と判断される認知症状態などの場合に、意思決定において「その人」にとっての益や害がどのような内容として捉えられているかを検討することにより、「その人」の尊厳やそれを尊重するあり方についての多様な捉え方を把握する。 アウトリーチとしては以下を予定する.①「福祉有償運送」(障害者・要介護者など交通弱者対象)から「ライドシェア」への移行政策の批判的検討(福祉事業NPO法人と利用者市民).②当事者性の高い参加者を集めた哲学カフェの企画運営(特別支援学校の在校生と卒業生の保護者を対象)。③Dipex-Japan「健康と病の語り」データベース分析.
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