研究領域 | 尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて |
研究課題/領域番号 |
23H04858
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 茨城キリスト教大学 |
研究代表者 |
柳橋 晃 茨城キリスト教大学, 文学部, 准教授 (00867377)
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研究分担者 |
片山 勝茂 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (10450008)
伊藤 博美 椙山女学園大学, 教育学部, 教授 (50410832)
松塚 ゆかり 一橋大学, 森有礼高等教育国際流動化機構, 教授 (80432061)
藤井 基貴 静岡大学, 教育学部, 准教授 (80512532)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
47,450千円 (直接経費: 36,500千円、間接経費: 10,950千円)
2024年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2023年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | 教育による尊厳の社会実装 / 学校における尊厳の意識 / 道徳・市民教育 / 防災(災害)教育 / 子どもの尊厳とケア / 道徳教育 / 市民教育 / 子どもの貧困 / 災害(防災)教育 |
研究開始時の研究の概要 |
新たな社会統合の理念として「尊厳」が注目されている。ドイツでは「尊厳」の概念史が学校カリキュラムに組み込まれ、欧米の介護者教育では「尊厳」の尊重が重視されている。しかし、日本では教育基本法等で「個人の尊厳」が掲げられているものの、道徳や公共等のカリキュラムにおいて「尊厳」は未だ適切に取り上げられていない。本研究では、学校における「尊厳」の意識を統計・調査によって分析し、海外との比較検討を行い問題点を析出する。そして、学校カリキュラム・災害(防災)教育・市民教育への具体的改善案を提示することで、「尊厳」を社会実装してゆく。また、子どもの「尊厳」問題を析出し、その保障方法を提示する。
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研究実績の概要 |
令和5年度の研究計画にもとづき、オンラインで分担者と令和5年度の研究計画を確認し、ワークショップに招聘する報告者を決定した。7月に研究代表者が論文「カントの道徳哲学と道徳教育思想における実例の位置づけ」で令和4年度日本道徳教育学会賞を得たため、『日本道徳教育学会会報』(第79号)にて「教育による尊厳の社会実装」について広報し、研究協力を仰いだ。 ワークショップに関しては、9月に濵谷佳奈氏(中央大学)を報告者として招聘し、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州(以下、NRW州)の州憲法と学校教育法における「尊厳」の意義、及び、NRW州の中等教育段階での宗教科と倫理・哲学科における「尊厳」の学習を確認した。令和6年1月には柏木智子氏(立命館大学)を報告者として招聘し、子どもの貧困について確認した。子どもの貧困は、物質的剥奪のみならず関係的剥奪や社会的機会の剥奪という複合的困難を引き起こすため、絶対的弱者である子どもの尊厳の保障が喫緊の課題であることが確認された。2回のワークショップを通じて、研究協力の関係を得ると共に、C班の研究遂行に欠かせない大きな手がかりを得た。 出版物に関しては、分担者の藤井はRAの鵜飼と共に、公民科目「公共」における「人間の尊厳」の扱いを明らかにするために「人間の尊厳」に関する公文書等を検討し、論文「高校公民科『公共』における『人間の尊厳』の取り扱い」((1)および(2))にまとめた。また、藤井は、防災(災害)教育に関する論文も多数執筆し、災害時における尊厳の保障を論じた。令和6年の3月に代表者の柳橋と分担者の片山は、スイスの教育哲学者ヨハネス・ギージンガーの「カントにおける尊厳と教育」を翻訳し、訳者解題を付け、中間研究成果の論文集である『問いとしての尊厳概念』に掲載した。その作業を通じて、ドイツ語圏の教育哲学における「尊厳」の理解を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の達成度に関して、おおむね順調に進展しているとした理由としては、以下が挙げられる。 2回のワークショップを通じて、研究報告から大きな手がかりと学問的刺激を得た。第1回目のワークショップでは、自他国の法律や教育実践における「尊厳」を調査するために必要とされる視角について理解を深めた。第2回目のワークショップでは、子どもの尊厳がどのような点で毀損されやすいのか、及び、子どもに特有な尊厳の毀損の形式について理解を深めると共に、子どもの尊厳に対するケアの意義について活発な討議を行なった。第2回目のワークショップについては、C班以外からも多数の教員と学生の参加があり、問題を共有すると共に、研究協力のネットワークを形成した。 代表者の柳橋と分担者の片山が、スイスの教育哲学者ヨハネス・ギージンガーの「カントにおける尊厳と教育」を翻訳し、訳者解題を付け、中間研究成果の論文集である『問いとしての尊厳概念』に掲載した。分担者の藤井は、公民科目「公共」における「人間の尊厳」の扱いを明らかにした論文を2本執筆し(RAの鵜飼との共著)、防災(災害)教育に関する論文を5本執筆した(共著含む)。 分担者の伊藤は、「尊厳とケア:関係を観点として一考察」を日本デューイ学会第66研究大会で発表し、「尊厳」の保障に対する「ケア」の意義を明らかにしつつある。 分担者の松塚と特任助教の孟は、介護・医療の分野で「尊厳」が明瞭に使用されていることから、当該分野で行われたアンケート調査を参考に、学校における「尊厳」の意識のされ方を明らかにするアンケート調査の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策に関しては、次の5方策を行う。 1.ワークショップ・研究会などを定期的に開催することで内外の研究者(特に、論文集に執筆依頼を予定する研究者)との学問的交流を推進し、研究代表者・研究分担者・特任助教・RAらの知見を深めて研究課題の具体化に取り組む。そして、それらを適宜論文集に編集して中間研究成果を刊行し、相互に議論内容を共有してゆく。 2.「教育による尊厳の社会実装」を具体的に遂行するため、代表者と分担者が各研究課題についての研究を進める。この成果を適宜論文集に編集して中間研究成果を刊行し、相互に議論内容を共有してゆく。 3.「教育による尊厳の社会実装」を具体的に遂行するため、それを遂行する主要な場である学校において「尊厳」がいかに意識され、理解されているのかについてアンケート調査を行う。それによって、「尊厳」がカリキュラム、教育実践のどのような点で意義を発揮すべきなのか、及び、教育に関する法律と制度のどのように反映されるべきなのかを明らかにする。 4.教育学関連の各学会で「教育による尊厳の社会実装」に関するシンポジウム、ラウンドテーブルなどを企画し、本研究の成果を周知し、学術的交流を深める。それと共に、各学会員に「教育による尊厳の社会実装」の意義を周知し、協力を呼びかける。 5.学術界における「尊厳」に関する既存研究の構造と発展の傾向を計量書誌学的分析によって解明することで、世界環境における尊厳学協会・ネットワークを支える資源を提供する。
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