研究領域 | アシンメトリが彩る量子物質の可視化・設計・創出 |
研究課題/領域番号 |
23H04868
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柳澤 達也 北海道大学, 理学研究院, 教授 (10456353)
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研究分担者 |
小林 達生 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 教授 (80205468)
井澤 公一 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (90302637)
木俣 基 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20462517)
橘高 俊一郎 中央大学, 理工学部, 准教授 (80579805)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
187,200千円 (直接経費: 144,000千円、間接経費: 43,200千円)
2024年度: 33,280千円 (直接経費: 25,600千円、間接経費: 7,680千円)
2023年度: 42,770千円 (直接経費: 32,900千円、間接経費: 9,870千円)
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キーワード | アシンメトリ量子 / 精密物性測定 / 交差相関応答 / 多極子 / FIB微細加工 |
研究開始時の研究の概要 |
固体結晶では、電子状態の非対称性 (アシンメトリ) が、 多種多様な機能物性を生み出す。例えば空間反転対称や時間反転対称が破れると電気的・磁気的秩序が誘発され、両方が同時に破れると電気と磁気が絡み合った複合的な自由度「アシンメトリ量子」が誘発され、交差相関とよばれる新機能が現れる。 本研究は精密マクロ物性測定の観点からアシンメトリ量子の秩序の形成や集団励起にアプローチし、電流・熱流・歪み・磁場などの様々な外場に対する多彩な交差相関応答の大きさ(感受率)および形・方向(異方性)を定量化・可視化する。これにより、アシンメトリ量子の概念を確立することで物質科学に学術変革をもたらす。
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研究実績の概要 |
精密マクロ物性測定の観点から、アシンメトリ量子物質における多彩な交差相関応答を定量化・可視化することを目標に以下の研究を行なった。 らせん型の結晶構造を持つアシンメトリ量子物質の典型例である単体Teにおいて、非相反抵抗率が高磁場で飽和、減少することを見出し、その異常がフェルミ面のリフシッツ転移によって説明できることを示した。また、時間反転対称性の破れた超伝導状態が期待されるUTe_2において、ドイツ・ドレスデンのグループとの国際共同研究を行った。 局所反転対称性の破れた擬カゴメ型構造を持ち、低温で2つの異なる磁気構造を示す反強磁性金属HoAgGeの磁場下非線形横伝導率を評価し,フェリ/反強磁気トロイダル秩序相におけるドメイン制御可能であることを明らかにした.また,UNi_4Bにおける非相反伝導の試料内場所依存性を調べることにより強トロイダル秩序のドメインの存在に関する知見を得た.非クラマース系PrRh_2Cd_20における非フェルミ液体の異常な圧力効果を見出した. HoAgGeと同様の擬カゴメ型構造を持つURhSnの超音波測定を行い、本系が54 Kで示す非磁性の相転移に伴い、結晶対称性を低下させる弾性モードでの顕著なソフト化を観測した。異なる対称性の弾性モードの応答と比較することで、四極子感受率の観点から秩序変数の対称性を特定することに成功した。 橘高が自作した超高感度キャパシタンス式膨張計を用いて重い電子系超伝導体CeCoIn_5のc軸およびa軸方向の試料長変化をbc面内回転磁場中でそれぞれ測定し、c軸方向の上部臨界磁場近傍で異方的な試料長変化を伴う超伝導内部相転移が起きていることを報告した(Phys. Rev. B)。また、PrIr_2Zn_20の磁場角度分解比熱・エントロピー測定から、比較的狭い磁場・磁場角度範囲で磁場誘起多極子秩序相が存在する実験的証拠を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間反転対称性の破れた超伝導状態が期待されるUTe2について、ドイツ・ドレスデンのグループとの国際共同研究で、微細加工した試料を用いた高精度な電気伝導測定を70 Tまでのパルス磁場中で行い、40 T以上での磁気偏極相で出現する磁場誘起超伝導状態で、ホール抵抗が著しく抑制されることを見出した。また、UTe_2においては強磁場下の超音波測定も遂行した。ドイツ・ドレスデン強磁場研究所、ならびに東京大学物性研究所のパルス磁場を用いて、磁場角度変化にともなって現れる起超伝導状態における横波弾性定数C_55の巨大弾性応答を観測し、本系の磁場誘起秩序に伴う格子不安定性の存在を明らかにした。また、縦波弾性定数C_11において、中間温度領域に存在する臨界終点近傍で超音波吸収が急激に増大する臨界現象の観測に成功した。 擬カゴメ化合物URhSnにおいて、相転移における弾性異常とともに、秩序相内のみに存在する超音波分散を発見した。その周波数依存性の現象論的解析と、対称性の議論から、当該の動的応答はRhイオンの非調和振動を捉えていると結論した。同時並行で計画研究A01の田端らによって行われていた共鳴X線散乱実験の結果や、最近、日本原子力研究機構の徳永らによって報告されたSn-NMRなどのミクロ実験と整合する結果であることがわかっている。 初年度の装置開発の進捗状況として、大阪大学では走査型磁気顕微鏡システムの可動ステージ(粗動、微動)の制御部の構築を完了した。北海道大学では同軸線内蔵二軸ゴニオ回転プローブを導入し、低温・強磁場下での動作チェックを行い、当初の予定通り立ち上げが完了した。 2023年8月30・31日に北海道大学で計画研究A01と合同のトピカルミーティングを開催し、全国から60名の参加者があった。以上の研究成果は当初研究実施計画を着実に実施した結果であり、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は東北大学金属材料研究所に高出力収束イオンビーム (FIB) 加工装置およびスパッタリング成膜装置を導入する。FIB加工装置を用いて計画研究C01、C02、D01の物質開発グループが合成したアシンメトリ量子物質の微細加工と素子作製を行う。例えば計画研究C02の小手川が最近見出した空間反転対称性と時間反転対称性を同時に破る反強磁性金属NbMnPにおける反強磁性ドメインの電流制御などを行う。 大阪大学では走査型磁気顕微鏡システム構築と実空間磁化イメージングに向けたシステムの最適化を引き続き行う。 α-Mnの圧力誘起弱強磁性相における非相反電流効果探索に向けて、高圧実験の準備を引き続き行う。また、磁気トロイダル物質に対し、熱流など電流とは異なる外場を印加したときの交差応答の検出を試みる。 熱測定の観点からもアシンメトリ量子が活性となる物質を研究する。例えば、エントロピー・比熱・磁歪・熱膨張などを回転磁場中で測定し、新奇秩序相の可視化を目指す。例えば、多極子スキルミオン秩序の可能性が期待されるPrIr_2Zn_20の磁場誘起秩序相の秩序変数解明に取り組む。 北海道大学で立ち上げを完了した同軸線内蔵二軸ゴニオ回転プローブをヘリウム再液化装置付きのPPMS-14Tに搭載し、アシンメトリ量子物質の超音波測定を行い、交差相関応答の多角化を図る。本装置は、オープンファシリティとして学内外の共用設備として開放する予定である。また、ドレスデン強磁場研究所・東京大学物性研究所との共同研究を引き続き行いパルス強磁場下の物性測定を行う。これらの測定には計画研究C01の鬼丸・清水や、公募研究班メンバーの育成した単結晶試料を用いる。 令和6年度の後半に東北大学で計画研究A02と公募研究の研究交流を眼目とするトピカルミーティングを行う。
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