研究領域 | アシンメトリが彩る量子物質の可視化・設計・創出 |
研究課題/領域番号 |
23H04871
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 紘行 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30566758)
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研究分担者 |
芳賀 芳範 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (90354901)
松平 和之 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (40312342)
石渡 晋太郎 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (00525355)
小手川 恒 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (30372684)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
187,720千円 (直接経費: 144,400千円、間接経費: 43,320千円)
2024年度: 35,620千円 (直接経費: 27,400千円、間接経費: 8,220千円)
2023年度: 50,440千円 (直接経費: 38,800千円、間接経費: 11,640千円)
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キーワード | アシンメトリ量子 / スケールシームレス / 交差相関 / 反転対称性の破れ / アシンメトリ量子物質 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、単一原子から複数原子集団までを対象とする広域的な物質開発を推進する。特に、アシンメトリ量子物質に特有のスケールシームレス性の実証と、新規かつ感受率の大きい交差相関応答材料の開発を通し、アシンメトリ物質科学のフロンティアを開拓する。多彩な物質の開拓と精密物性評価を通して、結晶構造や電子状態におけるアシンメトリを切り口とした分野融合研究の推進、戦略的物質探索手法の確立、非従来型交差相関応答の学理の解明、革新的な機能性材料の創成に貢献する。
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研究実績の概要 |
本研究では、単一原子から原子集団までを含む広域的な物質系を対象とし、アシンメトリ量子物質に特有のスケールシームレス性の実証を目指した物質開発を行った。その結果、広い空間スケール、多彩な物質系におけるモデル物質の開拓とアシンメトリ量子物性の観測に成功した。 原子スケールアシンメトリ量子物質の候補であるUTe2においては、溶融塩フラックス法によって超純良単結晶の育成に成功し、極低温熱伝導測定から超伝導ギャップの対称性に関する新たな知見を得た。より大きな空間スケールを有するアシンメトリ量子物質として、複数原子サイトにわたるクラスター多極子を内包する多彩な物質の開拓と物性評価に成功した。具体的には、金属反強磁性体NbMnP、TaMnP、Ce2Cu2Ge6における偶パリティ多極子に起因する異常ホール効果の観測、イリジウム酸化物Ca5Ir3O12における105 Kの電気トロイダル双極子秩序の確立、ブリージングカゴメ反強磁性絶縁体Li2Cr3SbO8の開発とボンドトロイダル双極子に基づく磁気光学効果の可能性など、発展性の高い多くの成果を得ることができた。数百nm程度の空間スケールを有するトポロジカル系としては、スキルミオン物質GdOs2Si2やトポロジカル半金属SrAuBiの開発に成功している。SrAuSi単結晶においては、温度誘起の極性-非極性構造相転移を見いだし、反転対称性の破れた極性相において2.4 Kの超伝導を発見した。さらに、臨界電流値の結晶厚み依存性から、この超伝導がトポロジカル表面状態で実現した非従来型の超伝導とである可能性を提案した。 並行して、多彩な物質系へアシンメトリ量子物質の概念を拡げることを試み、ウランを含むTsai型近似結晶の合成に初めて成功した。今後の物性評価により、正二十面体の頂点に配置したウランが示すアシンメトリ量子物性と交差相関応答の観測が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は学術変革領域研究(A)「アシンメトリ量子」の初年度である。当計画研究では5カ年の研究を進めるために重要な設備備品を初年度に導入した。極限水熱環境発生用高温高圧装置(北大)の設置によって、高温高圧環境下での局所非対称物質の開発を効率的に行うことが可能となり、新規スキルミオン化合物の開発などに成功している。また、UTe2純良単結晶の超伝導ギャップの圧力応答を調べるため、圧力セルを導入した(原子力機構)。さらに、X線管球の更新(阪大)、レーザードップラー振動計・デジタル変位計(九工大)、局所非対称性評価装置(神戸大)を導入し、既存のNMRとの連動により、研究目的の達成に必要不可欠な物質の局所非対称性の評価体制を構築した。 本計画研究では、アシンメトリ量子物質のスケールシームレス性に立脚した分野融合の推進と、より広い物質系にアシンメトリ量子の概念を拡げることを目的としている。これらの目的に対して、物質開拓は順調に進んでいる。「研究実績の概要」に記したように、原子スケール(~0.1 nm)で特徴付けられるアクチノイド系、より大きな空間スケール(1~10 nm)を有するクラスター多極子系、10~100 nm程度の空間スケールを有するトポロジカル系において、多彩なモデル物質の開拓に成功し、異常ホール効果等のアシンメトリ量子に基づく交差相関現象、特異な超伝導特性なども観測され始めている。 また、典型的な金属間化合物に留まらず、酸化物や水酸化物等の絶縁体、アクチノイド準結晶など、幅広い対象にアシンメトリ量子物質の概念を拡げられつつある。これは当計画研究の目的に沿うものであり、その達成に向けて重要なスタートを切ったと考えている。実際、24本の論文発表、7件の招待講演、4件のプレスリリース、関連研究を含めて5件の受賞実績があり、これらは研究が順調に進んでいることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
当計画研究の目的「アシンメトリ量子物質のスケールシームレス性の検証と分野融合研究の推進」を達成するために、より広範な物質系において物質開発を行うことが重要である。高温高圧合成や水熱合成、ブリッジマン法やフラックス法などの手法を駆使し、アシンメトリ量子の発現条件を満たす局所構造を有する遷移金属、希土類、アクチノイド、分子性化合物等の物質群を開発する。また、磁化・比熱 ・局所構造歪み等のバルク物性とNMR・NQRによるミクロ物性の評価を通し、原子からメゾスケールに亘るスケールシームレスなアシンメトリ量子物性と新機能性を開拓する。 新規アシンメトリ量子物質を効率よく開拓するには、極限条件にアクセスする必要がある。そのため、2024年度には既存の高圧合成装置(阪大)を高度化し、11 GPa、1500 ℃の条件下で物質探索を行う環境を整備する。また、アクチノイド用熱分析装置(原子力機構)を設置し、新規ウラン化合物の開拓を加速する。 2023年度の研究では、アシンメトリ量子物質物質の開拓を進め、0.1 nmから数100 nmにわたる空間スケールを有するモデル物質の開拓に成功した。一方で、他の計画研究と連携したアシンメトリ量子の可視化への取り組みや、マテリアルインフォマティクスの実証実験は不十分である。2024年度は、計画研究「量子ビームによるアシンメトリ量子物質のミクロ解析」、「精密物性測定 によるアシンメトリ量子物質の新機能開拓」と協力して量子ビーム実験や交差相関計測による可視化実験を強力に推進し、さらに「アシンメトリ量子物質の基礎理論と設計」との共同研究により理論予想されたアシンメトリ量子物質の合成を試み、マテリアルインフォマティクスの実証にも寄与する形で効率的な新物質開拓を行いたい。これらの共同研究を推進するため、対面やオンラインでのミーティングを開催し、議論を深める方策である。
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