研究領域 | 炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04904
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
斎藤 進 名古屋大学, 学際統合物質科学研究機構, 教授 (90273268)
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研究分担者 |
Jung Jieun 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (60801008)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
80,210千円 (直接経費: 61,700千円、間接経費: 18,510千円)
2024年度: 18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
2023年度: 25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
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キーワード | 水素 / 水 / 分子光触媒 / 半導体光触媒 / 有機合成 / 光還元反応 / 二酸化炭素 / 炭素-炭素結合形成 / 炭素-酸素結合形成 / H2とH2O / 光触媒 / 1電子移動 / C-H官能基化 / 人工光合成 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでH2やH2O (HO- + H+)を,光エネルギーと触媒によって活性化し効果的に用いる有機合成は極めて狭い範囲に限られてきた。本計画研究では金属錯体触媒(均一系・分子触媒)や金属酸化物半導体触媒(不均一系・固体触媒)に光を付し,クリーンなH2やH2Oを水素源・電子源(1電子還元剤)として用いる未到の還元法や有機合成法の開発に挑戦する。
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研究実績の概要 |
[水素と光と分子触媒を用いる還元反応の開発] (PNNP)Ir錯体を水素(H2, 4-10 atm程度)存在下、可視光を用いて40-90℃の反応温度で活性化し、得られた触媒活性種を用いて様々なカルボニル化合物の水素化を調べた。その結果、ケトン、アルデヒド、およびエステルの水素化が良好に進行し、相当するアルコールをいずれの場合も得ることに成功した。本触媒系はカルボニル基質の嵩高さに敏感であり、大きな置換基をもつケトンやエステルでは反応の進行が遅かった。また芳香族エステルの水素化は非常に円滑に進行したのに対して脂肪族エステルの水素化は低収率に留まった。 さらに本光水素化法をCO2(1-2 atm)の還元にも適用した。その結果、ほぼ同じ反応条件下、イオン液体を共存させることで高い触媒回転数(TON)でギ酸が生成した。反応容器が小さく、CO2の容積が少ないため反応の進行とともにCO2の分圧は極端に下がっていると考えているためまだTONが向上する余地があると思われる。 [水と光と半導体触媒を用いる人工光合成法の開発]当グループでは以前にH2Oと光、Ag担持チタニア(Ag/TiO2)触媒を用いる炭素-炭素結合形成反応を報告している。その際H2Oはヒドロキシルラジカルへ(HO・)と活性化され様々なC-H結合を均等開裂して水素原子を引き抜きその結果生じる炭素中心ラジカルをオレフィン化合物に付加させることに成功した。この方法を利用して同様に炭素中心ラジカルを発生させ、さらにH2ガス発生を促す別の半導体触媒を加えることで、H2O分子とニトリル分子、およびオレフィン分子との三成分連結反応が進行することを見出した。現在、この方法の基質適用範囲を調査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した通りの二種類の光触媒反応「水素と光と分子触媒を用いる還元反応の開発」「水と光と半導体触媒を用いる人工光合成法の開発」が予定通りの反応形式で進行することをすでに証明できたからである。 前者については、計画に掲げていたエステル還元だけではなく、CO2の光還元においてこれまで当該分野で汎用されてきた犠牲試薬を用いる必要がないことを証明し、また世界で最も温和と言ってもよい反応条件下でギ酸に変換できたことは特筆すべきである。触媒活性種がどのような構造であるかも各種分析でほぼ明らかにし、「触媒前駆体から触媒への光を用いる活性化と、それに続く、熱的なCO2水素化」という新たな学術に基づくCO2変換触媒反応を提案できた。元来、(PNNP)Ir錯体は光だけでなく熱に対しても頑健な触媒であることが明らかなため、実用化や社会実装にまで拡張できる確かなポテンシャルを今回改めて証明できた。 後者については、太陽光照射下、水を電子源および水素源として用いる三成分連結反応(三成分には水分子も含む)に基づく新たな有機合成反応を実現したことによって、従来にない有機合成志向型の人工光合成法を提案できた点は高く評価できるのではないかと考えている。 現在両者とも初期的な反応開発と基質適用範囲の調査が終わった段階であり、まだ1年余りを経過した段階にも関わらず、遅かれ早かれ十分に論文としてまとまるレベルにまで到達する目処も立ってきている。特許性も高い。
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今後の研究の推進方策 |
[水素と光と分子触媒を用いる還元反応の開発] 今後、脂肪族エステルの光水素化が低収率となった理由を解明し、より多くのエステル化合物に適用できる還元法へと発展させたい。CO2の光還元においては触媒回転数をより向上させるためにこれまでの小さな反応容器(50 mL)からより大容積(200-1000 mL程度)のものへと変えて、H2圧も少し高めに設定してこれまでにない穏和な条件下でCO2からギ酸を合成する実用的な方法へと発展させる。さらに固体担持型分子触媒(Heterogenized Molecular Catalyst)を合成し、同様に光触媒活性能を調査するとともに回収と再利用の可能性を調べ、実質的には触媒回転数が100万を超えるような頑健な触媒システムへと展開したい。 [水と光と半導体触媒を用いる人工光合成法の開発]初期的な検討におけるproof-of-conceptは終わったため、今後は基質適用範囲の拡大と反応機構の調査および提案、そしてそれらの知見に基づき論文執筆に取り掛かり完成と投稿にまでこぎつける。さらにH2形成を伴う本人工光合成反応で進行したニトリル類のC-H結合官能基化過程に基づきインドール類のC-H活性化に基づくH2発生型のC-C結合形成反応へと展開する。
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