研究領域 | 炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04906
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤塚 守 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (40282040)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
80,340千円 (直接経費: 61,800千円、間接経費: 18,540千円)
2024年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
2023年度: 37,440千円 (直接経費: 28,800千円、間接経費: 8,640千円)
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キーワード | 半導体光触媒 / レーザーフラッシュホトリシス / 反応中間体励起状態 / 電子移動 |
研究開始時の研究の概要 |
光を用いた触媒反応の研究において、光照射による反応活性種生成とそれに起因する化学反応のダイナミクス解析が触媒反応の高効率化に不可欠である。本計画研究では均一系および不均一系光触媒反応をピコ秒からミリ秒領域の時間分解分光で検討することで、(1)エネルギー状態を制御した均一系電子移動反応の開発と、(2)不均一系半導体光触媒反応の高効率化に取り組む。以上の研究を遂行することで、グリーン触媒科学における高効率な光触媒反応の開拓に寄与する。さらに、本学術変換領域の他の研究グループとの協創研究を展開する。
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研究実績の概要 |
一般に光誘起電子移動反応は化学的に安定状態の物質を光励起することで検討されているが、ラジカルアニオンなどの反応中間体を光励起することで生成する励起反応中間体は中性種の励起状態より高い酸化還元電位を示すことから、広範な反応への応用が期待される。以上の観点より我々は、ラジカルアニオンおよびラジカルカチオンの励起状態を過渡吸収測定により直接観察し、分子内電子移動反応を検討してきた。一方、ジアニオンの励起状態の検討例はほとんどないが、ラジカルアニオン励起状態より高い反応性が期待される。したがって本研究では電子受容体として広く使用されているフラーレンC60に注目し、C60 dianionの励起状態を直接観察するとともに、C60とイミドを連結したdyadを用いC60 dianion励起状態の電子移動反応を検討した。 本研究ではtrimethylhydroquinone (TMHQ)にtetrabutylammonium hydroxideを加えることで調製した還元剤を用いてC60を還元し、C60 dianionを生成した。C60 dianionに対しフェムト秒レーザーを照射することで得られた過渡吸収スペクトルでは、励起状態 (S1) 生成に由来するブリーチングおよび吸収が1 ps未満で確認され、高振動励起状態 (S0hot) に緩和することが確認された。 還元剤を用いて生成したC60 dianion -NDI radical anionに対しC60 dianionを選択的に励起すると、S1状態生成が確認された後C60 radical anionに由来する吸収が確認されたことから、C60 dianionの励起状態からNDIradical anionへの電子移動が起きたことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度においては、上述したようにフラーレンを用いて化学還元によるジアニオン生成を達成し、さらにフェムト秒レーザー励起により、励起状態の失活過程の詳細を明らかにすることに成功した。さらにダイアッド分子を合成するとともに、ジアニオン励起状態からの電子移動を観察することにも成功していることから、本件に関しては所期の研究計画を達成したといえる。本研究はすでに論文としてJ. Phys. Chem. A誌に掲載されている。C60ジアニオンの励起状態寿命が短いことから、その電子移動収率は低いものにとどまったため、「おおむね順調に進展している」という評価となったが、研究二年度においては他のジアニオン励起状態の検討を行うことを計画しており、効率の向上も達成されるものと予想される。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度に引き続き、反応中間体である有機化合物のラジカルイオンや二価イオンおよび高原子価金属錯体の励起状態および励起状態からの電子移動を検討することで、均一系光触媒反応に有益な電子移動系を開発するとともに安定中性状態からの電子移動との差異を明らかにする。 (1) ラジカルイオンや二価イオンおよび高原子価金属錯体の励起状態物性の解明。ラジカルイオンや二価イオンの励起状態を直接観察し、寿命等の諸物性の制御因子(エネルギーギャップ、軌道対称性など)を明らかにし、その制御方法を検討する。本学術変換領域の他の研究グループとの恊創研究により高原子価金属-オキソ錯体の光励起状態の酸化反応に寄与する励起状態を特定し、その効率化を図る。 (2) 二価イオン励起状態からの電子移動過程の解明。二種の機能性分子をスペーサーで結合したダイアッド分子を合成し、化学還元によりジアニオン状態を生成し、ジアニオン励起状態からの電子移動過程を検討する。ダイアッド分子を用いることで電子移動過程も可能であることから、一連の電子移動過程を電子移動理論に基づき比較することで、電子状態の電子移動への影響(「最低励起状態」 vs. 「励起ラジカルイオン」 vs. 「励起二価イオン」)を明らかにする。 (3) 金属錯体を用いたした均一系光触媒反応の検討。本学術変換領域の他の研究グループが開発したPNNP配位子をもつ金属錯体を用いたCO2還元反応およびルテニウム錯体をメディエーターとしたCO2還元反応に本申請者の超高速分光を適用することで反応機構を解明するとともに、両グループの金属錯体配位子に励起ラジカルイオンや二価イオンの高い酸化還元能力を適用することでCO2還元などの均一系触媒反応の構築を図る。
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