研究領域 | 炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04907
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大井 貴史 名古屋大学, 工学研究科(WPI), 教授 (80271708)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
145,990千円 (直接経費: 112,300千円、間接経費: 33,690千円)
2024年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
2023年度: 36,920千円 (直接経費: 28,400千円、間接経費: 8,520千円)
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キーワード | ラジカル / 分子触媒 / 水素原子移動 / 選択的分子変換 / 光レドックス触媒 |
研究開始時の研究の概要 |
天然に豊富に存在する多彩な物質を炭素資源として活用するためには、有機分子に遍在するC-H結合の直接的な変換法の開拓、ならびにそれら変換反応の制御を担う触媒の創製が必須となる。本計画研究では、主として水素原子移動から進行するラジカル反応の開発に焦点を当て、C-H結合切断と続く結合形成を制御するための触媒・方法論を開拓することで、官能基を必要としない化学合成を確立する。具体的には、酸化剤を必要としないアクセプターレス脱水素型クロスカップリングや、飽和炭化水素の脱水素反応によって生成するオレフィンを標的とした選択的分子変換反応を実現する。
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研究実績の概要 |
可視光を駆動力とする水素原子移動(HAT)を脱水素型分子変換の起点として利用し、反応制御に必要な方法論及び触媒を開発することを目的とする本研究では、まず、ラジカルの長寿命化にもとづくC(sp3)-H間でのアクセプターレス脱水素型クロスカップリングによりC-C結合の構築が可能であることを実証した。光レドックス触媒の存在下、適切なHAT触媒を用いることで一方のラジカルのホモカップリングが抑制され、2種の異なるC(sp3)-H結合の開裂と選択的なクロスカップリングが進行することを見出しており、実際の機構解析実験においても水素ガス(H2)の生成を確認している。 また、C(sp3)-H結合の選択的な切断を指向した新奇HAT触媒としてアクリジニウムアミデートを設計・創製した。本触媒は窒素原子上の置換基を変更することで窒素中心ラジカルの立体および電子的な性質を容易に改変することが可能であり、不活性C-H結合を効率的に変換できることを見出した。さらに、開発したHAT触媒を用いることで脱水素反応による飽和炭化水素化合物群の不飽和炭化水素への効率的な変換も達成しており、これら一連の成果をドイツ・ミュンスター大学との国際協創研究として投稿済みである。 一方、ラジカルカチオンとオレフィンとの結合形成を鍵とした選択的オレフィン官能基化反応の開発において、オニウムイオンを触媒前駆体とすることでラジカルジカチオンの発生が可能であると考え、初年度は主にカチオン性の有機分子触媒の創製に取り組んだ。電気化学測定により所望の活性種生成の可能性を示唆する知見が得られており、次年度以降の研究に展開できることが見込まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C-H結合間での副生成物を生じない選択的なクロスカップリングは依然として挑戦的な課題であるが、可逆的HATによるラジカルの長寿命化という戦略のもと本研究に取り組み、適用可能な基質に課題を残すものの新しい方法論を構築するに足る進展があった。 協創研究により開発に至った新規HAT触媒は、可視光励起により単独でHAT能を発揮することができる。特に、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)中で特異なHAT活性を示すという知見を得ており、触媒構造の多様性のみならず溶媒効果との協働的な作用による選択性の制御が可能であることを示唆する結果と言える。また、脱水素型反応にも有効な本触媒は、本研究の目的である新たな方法論の開拓に資する触媒機能を有していると言える。 一方で、申請書に記載したオレフィンの不斉変換反応を指向した触媒創製に関しては、依然として触媒作用の発見には至っていないため、遅れていると言わざるを得ないが、上記の知見をもとにラジカル発生法の変更や分子構造の再設計を行う予定である。 以上より、今後の展開につながる基礎を初年度の研究で確立できたため上記の判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
仮説として掲げていた可逆的HATによるラジカルの長寿命化の可能性と選択的クロスカップリングへの展開を切り拓く成果を得た。この知見を踏まえ、今後はさらなる適用範囲の拡大を指向し、利用する基質のC-H結合の結合解離エンタルピーに応じた種々のHAT触媒の探索を中心に行う。 新規HAT触媒と脱水素反応の開発に関しては、窒素上の置換基の変更によるC-H結合切断の位置制御を試みたが、選択性に有意な差が見られなかった。今後は、さらなる構造修飾と選択性との相関を精査すると同時にアクリジニウムイリドの設計といった原子の変更も視野に入れた新たな触媒システムの構築に取り組む。また、計画班員との協創研究を推し進めることで一連の触媒の機能を活かした脱水素反応の開発も行う。 オレフィン官能基化を実現するためのオニウム塩の一電子酸化にはより高い酸化力を有する酸化剤が必要であるという初年度の知見をもとに、光触媒の再検討を行うとともに電気化学的な手法による一電子酸化を試みる。また、ヘテロ原子の種類や組み合わせの変更といった触媒構造の見直しを図ることで、ラジカルジカチオンの発生とアルケンとの反応に必須な要素に関する理解を深める。
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