研究領域 | 炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04910
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
丸岡 啓二 京都大学, 薬学研究科, 研究員(特任教授) (20135304)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
104,910千円 (直接経費: 80,700千円、間接経費: 24,210千円)
2024年度: 14,430千円 (直接経費: 11,100千円、間接経費: 3,330千円)
2023年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
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キーワード | グリーン触媒 / HAT触媒 / ラジカル触媒 / 光照射 / 選択的有機合成反応 / 再生可能エネルギー / 光 / 光酸化還元触媒 / ラジカル反応 / アルキルシリルペルオキシド / アミノアルコール / リンイリド / 精密合成反応 |
研究開始時の研究の概要 |
炭素資源としての有機化合物に含まれる様々なC(sp3)-H結合をピンポイントで精密に分子変換できれば、これまで、あまり有効利用されてこなかった数多くの有機化合物を活用できることになり、有機合成化学はじめ関連領域に大きな波及効果をもたらすことが期待される。本研究では、再生可能エネルギーとして光を選び、各種の水素原子移動(HAT)触媒を精密に分子設計する。具体的には、既に本研究室で見出された酸素原子由来の有機ラジカル触媒や、新たに窒素原子や硫黄原子由来のラジカル触媒を分子設計して、原子の性質や構造の違いに基づくユニークなHAT触媒としての可能性を探るとともに、精密ラジカル変換反応の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、再生可能エネルギーとして光を選び、各種の水素原子移動(HAT)触媒を精密に分子設計するとともに、選択的な電子移動に基づく精密ラジカル変換反応の開発を目指している。まず、アルキルシリルペルオキシドを利用する反応において、遷移金属触媒のみならず、光酸化還元触媒を用いてもアルキルラジカルが効率良く発生することを見出した。この知見を環状アルキルシリルペルオキシドに適用することにより、開環生成物が得られた。特に、マイケルアクセプターを共存させると、炭素鎖を延長させることができ、官能基を有する開環生成物が得られた。既に、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)構造を基本骨格とする触媒を一電子酸化することで生じるジカチオン性アミニウムラジカルは、炭化水素がもつ強固なC(sp3)-H結合を容易に引き抜く程の強力な水素引き抜き能を有することを見出している。これらの特徴を活用し、脂肪族アルコールの高効率C-H官能基化に取り組むことにより、脂肪族アルコールの適用例が極めて少ないイミンへのラジカル付加反応を試み、有用ビルディングブロックである1,2-アミノアルコールの簡便かつ高効率な合成手法を確立した。一方、ホルミル基によって安定化されたリンイリドに可視光レドックス触媒である4CzIPNを作用させると、対応するアシルラジカルがHAT触媒を用いずに発生することを見出した。詳細な反応機構解析の結果、反応系中に存在するリンイリド自身が水素引き抜き能を有することが判った。そこで、種々のリンイリドをHAT触媒として用い、テトラヒドロフランのC-Hアルキル化反応を行ったところ、目的のC-Hアルキル化体の生成を確認し、その収率は用いるリンイリドの構造に大きく依存することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、再生可能エネルギーとして光を選び、各種の水素原子移動(HAT)触媒を精密に分子設計するとともに、それらを活用する選択的な電子移動に基づく精密ラジカル変換反応の開発を追求した。各種のアルキルシリルペルオキシドを利用する反応において、遷移金属触媒のみならず、光酸化還元触媒を用いてもアルキルラジカルが効率良く発生することを見出し、各種のアクセプターとの合成変換反応に適用可能なことが判り、合成的に有用な幾つかの成果を得ている。また、他のHAT触媒として、DABCO構造由来の触媒を一電子酸化することで生じるジカチオン性アミニウムラジカルは、炭化水素がもつ強固なC(sp3)-H結合を容易に引き抜く程の強力な水素引き抜き能を有することを見出している。これらの特徴を活用し、脂肪族アルコールの高効率C-H官能基化に取り組むことにより、脂肪族アルコールの適用例が極めて少ないイミンへのラジカル付加反応を試み、合成的に有用な1,2-アミノアルコールの簡便かつ高効率な合成手法を確立した。一方、ホルミル基によって安定化されたリンイリドに光酸化還元触媒を作用させることで、水素原子移動反応剤・求核的炭素ラジカル・求電子的炭素ラジカルという三つの性質を有する多機能性ラジカル前駆体として振る舞うことを明らかにした。これらの性質を逐次的に発現させる条件を確立し、ラジカル反応における分子連結素子として利用することで、異なる二種類のアルケンとリンイリドを連結するワンポット連続光触媒反応を開発した。今後は、理論計算を行っている研究グループとの共同研究を行い、複数の触媒を駆使する反応系の理論計算による個々の触媒反応の遷移状態の解析を進めることによって、研究の更なる進展へとつなげていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
[1] DABCO骨格を有するアンモニウム塩型HAT触媒の触媒性能評価:DABCO構造を基本骨格とするアンモニウム塩型HAT触媒は、安価な試薬から容易に調製でき、置換基を変えることで多様な誘導化が可能である。これを光照射下、一電子酸化することで生じるジカチオン性アミニウムラジカルは、炭化水素がもつ強固なC(sp3)-H結合を容易に引き抜く程の強力な水素引き抜き能を有する。今後は、市販で入手容易なDABCO誘導体としてのRZETA或いはその誘導体を新規HAT触媒として、各種の官能基化された炭化水素化合物の選択的C-H官能基化反応を試み、官能基選択性に加え、触媒活性の評価を行いたい。 [2] ホスホニウム塩型HAT触媒の創製と触媒性能評価:本研究室では、すでにホスホニウム塩型の触媒が光触媒の存在下、HAT触媒として機能することを見出している。これらの合成的な応用として、今後は各種のアミノ酸合成に応用するとともに、ホスホニウム塩の構造や置換基効果などを詳細に検討し、このアミノ酸合成に最適なHAT触媒を設計したい。また、脂肪族アルコールやアミン類の高効率C-H官能基化に取り組み、標的とする分子変換として、イミンへのラジカル付加反応に着目し、有用ビルディングブロックである1,2-アミノアルコールや1,2-ジアミン類の簡便かつ高効率な合成手法を開発したい。 [3] ジアミン由来のモノアンモニウム塩型HAT触媒の創製と触媒性能評価:市販の入手容易な各種のジアミン化合物を出発として、モノ(α-ナフチルメチル)アンモニウム塩に変換し、これを光照射下、一電子酸化することで生じるジカチオン性アミニウムラジカルを新たなHAT触媒として活用し、選択的有機合成反応の開発に取り組みたい。さらに、これらのHAT触媒を用いて、多官能性化合物の段階的な官能基化反応の開発を目指したい。
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