研究領域 | 細胞外情報を統御するマルチモーダルECM |
研究課題/領域番号 |
23H04936
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長山 雅晴 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (20314289)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
90,090千円 (直接経費: 69,300千円、間接経費: 20,790千円)
2024年度: 16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
2023年度: 22,880千円 (直接経費: 17,600千円、間接経費: 5,280千円)
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キーワード | ECM-多細胞統合モデル / 力学相互作用 / 生化学相互作用 / 形態形成モデリング / 数理モデリング / 数値シミュレーション / ECM-多細胞統合モデル |
研究開始時の研究の概要 |
胚発生やがんなど、立体組織・器官の三次元的な構造変化を伴う生命現象には、ECMと細胞の間の力学的な相互作用が重要である。本研究では、このような立体組織内部における細胞-ECM間の相互作用を解明するため、ECMと多細胞の三次元動態を統合的に解析できる数理モデルを構築し、組織内部の力学相互作用および生化学相互作用を数理モデルに取り入れることによって「ECM-多細胞統合モデル」を開発する。そのモデルを皮膚の毛包等に適用し、器官形成メカニズムを解明する。さらに、数理モデルに含まれるECMの各種パラメータを数理モデル上で変化させることで、ECMのマルチモーダル情報の制御機構の理解に挑む。
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研究実績の概要 |
胚発生やがんなど、立体組織・器官の三次元的な構造変化を伴う生命現象には、ECMと細胞の間の力学的な相互作用が重要である。本研究では、このような立体組織内部における細胞-ECM間の相互作用を解明するため、ECMと多細胞の三次元動態を統合的に解析できる数理モデルを構築し、組織内部の力学相互作用および生化学相互作用を数理モデルに取り入れることによって「ECM-多細胞統合モデル」の開発を目指している。 2023年度は、藤原(A01)と共同で毛包形成を理解するための数理モデリングに取り組み、上皮細胞-基底膜-ECM(間充織)の数理モデルを構築した。間充織内でプラコード直下に集合する線維芽細胞からのシグナル伝達を仮定し、そのシグナル伝達によって基底膜の局所伸張性向上や真皮の局所的力学特性の変化を導入することによってシリンダー構造を再現した。基底膜や真皮の力学特性の変化に加えて、シグナル伝達によるプラコード期から毛芽期までのプラコード直上の基底細胞分裂抑制効果によって、毛包陥入が開始されることが示された。さらに、毛芽期から毛包形成期においては、シグナルによる基底細胞分裂の活性化や基底膜のリモデリングを仮定することで、筒状の毛包が形成されることを数理モデリングから示すことができた。初期陥入時における基底細胞分裂抑制仮定は実験データからも支持されている。また毛包形成時の基底膜リモデリング仮定も、基底膜リモデリング抑制実験では長い毛包が形成されないことから、必要な仮定であるとわかった。2023年度は数理モデリングによって毛包形成の十分条件を提示することができ、発生生物実験によって支持されている条件もあることから、毛包形成メカニズムを理解する理論的基盤の構築ができたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラックボックスとなっているECMの役割を明確にするため、藤原(A01)と共同で毛包形成を理解するための数理モデリングに取り組み、上皮細胞-基底膜-ECM(間充織)の数理モデルの構築を行った。その結果、毛包形成メカニズムの十分条件を与えることに成功し、毛包形成時にECMが担う役割を明らかにすることができた。「ECM-多細胞統合モデル」の構築に向けて順調に成果を得ることができた。これによって次年度から他の器官形成に対応できるように、基盤となるより一般的なECMモデルの構築に取りかかることが可能となった。その第一歩としてECMである基底膜や真皮組織のリモデリングに対する数理モデル化に取りかかる。真皮における局所力学特性の変化を実験から明らかにする手法の開発は、その基盤となる基礎実験がほぼ完了し、次年度から本格的にECMの力学特性の計測に取りかかることが可能となった。 今年度はマルチモーダルECM共催セミナー、札幌非線形現象研究会、応用数理研究会,北陸応用数理研究会も予定通り開催することができ,情報交換や研究交流も十分行うことができた.以上のことから,当初の研究計画と比較して概ね順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
三次元組織内部の力学測定法の確立し,毛包形態形成を再現するECM―多細胞相互作用モデルを構築する。そのモデルを乳腺や血管形成体形成に応用するためにECMにおける組織のリモデリングモデルを構築する。 【1】ECM―多細胞相互作用モデルの構築 今年度に引き続き、立体組織内部におけるECM-細胞間の力学相互作用を解明するため、多細胞とECMの三次元動態を統合的に解析できる独自の数理モデルを構築する。それと同時にECM-細胞間の生化学相互作用も取り込んだ数理モデルを開発する。これまでに開発した上皮細胞-基底膜-ECM(間充織)の数理モデルを拡張することによって開発を進めている。今年度は藤原(A01)と共同で毛包形成を理解するための数理モデリングに取り組み、様々な相互作用にシグナル伝達による力学特性の変化を取り込むことによってシリンダー構造を再現した。次年度は毛包形成のレテスコープモデルを完成させるために,細胞運動に細胞選別モデルやアポトーシスモデルを導入して、今年度中に毛包形態形成モデルの最終提案を行う。この数理モデルを基盤としてオミクスデータ解析(A03島村)やECMの定量的タンパク質発現情報(A03大槻)をベースとして、細胞間あるいはECM-細胞間の生化学的相互作用効果を取り入れECM―多細胞相互作用モデルの構築を進める。 【2】三次元組織内部の力学測定法の確立 ECMのマクロな構造や生化学的・物理的特性が形態形成に及ぼす影響は毛包形成モデルを構築する段階で本質的であることがわかった。その物理的変化を計測することは数理モデルを構築するために非常に重要である。そのため、代表者は藤原、奥田准教授(金沢大学)と共同して、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた押込試験法により、組織表面の張力やヤング率を計測する手法の開発を今年度に引き続き継続する。
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