計画研究
学術変革領域研究(A)
本研究課題では、細胞社会において、ECM の生化学的・物理的パラメータが、分子・細胞レベルの振る舞いにどのように影響を及ぼし、如何なる相互作用を惹起しながら、より上位のマクロレベルの組織の構造や機能、特性と関連しているのか、という学術的な問いに答えるため、数学・物理学で記述される数理モデルを知識制約として取り入れた次世代の深層学習技術を核として、細胞外情報システムのダイナミクス・ゆらぎ・相互作用のモデリング・シミュレーション技術を開発する。最終的に、細胞外環境・細胞・組織レベルの情報をシームレスに繋ぎ、ECM が関わる高度な生命現象の科学的発見・理解に資する解析基盤として確立する。
本年度は、細胞間コミュニケーションの解明に向けた基盤となるモデリング技術の開発に着手し、シミュレーションデータおよび実データを用いて開発技術の有効性を検証した。以下に、主要な研究進展について述べる。1.深層生成モデルによる細胞間コミュニケーション推定技術DeepCOLORの開発:シングルセルトランスクリプトームデータと空間トランスクリプトームデータを深層生成モデルにより統合解析することで、各細胞の空間的な位置関係と、細胞間のコミュニケーションに関与する分子を推定する技術であるDeepCOLORを開発した。2.DeepCOLORを用いた早期大腸がんにおける腫瘍微小環境の解析:DeepCOLORを早期大腸がんの腫瘍微小環境解析に適用した結果、腺腫-癌の境界部および癌に近接する腺腫の領域において、腫瘍上皮細胞と制御性T細胞が共局在していることが明らかになった。さらに、MDKおよびSDC4の発現が制御性T細胞の移動を促進し、免疫寛容環境の形成に関与していることが示唆された。これらの解析技術を実データとシミュレーションデータで検証した結果から、モデルの推定精度と限界を探るとともに、A02班で蓄積される細胞外マトリックス(ECM)の生化学的・物理的パラメータとその細胞外情報システムへの影響に関する知見を考慮して、次年度以降に拡張すべきモデルのコンポーネントを明確にした。本研究の成果は、細胞間コミュニケーションの解明に向けた新たな解析技術の確立と、早期大腸がんにおける腫瘍微小環境の理解に貢献するものである。今後は、これらの知見を基に、より精緻なモデリングと解析を進めることで、細胞間コミュニケーションの機構解明と、がんの診断・治療法の開発に寄与することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、シングルセルトランスクリプトームデータと空間トランスクリプトームデータを統合解析するための新たな手法を確立することができた。この技術は、細胞間コミュニケーションの解明に向けた重要な基盤となるものであり、研究の大きな進展といえる。また、開発したDeepCOLORを実データに適用することで、早期大腸がんにおける腫瘍上皮細胞と制御性T細胞の共局在や、MDKおよびSDC4の発現が免疫寛容環境の形成に関与していることが示唆された。これらの知見は、がんの進展メカニズムの理解に貢献するものであり、研究の目的に沿った成果が得られている。
上記の成果を踏まえ、今後の研究推進方策として以下の点が考えられる。1.DeepCOLORの更なる改良と適用範囲の拡大:開発したDeepCOLORについて、より多様なデータセットを用いて検証を行い、モデルの頑健性を高める。また、大腸がん以外の癌種や他の疾患への適用を進めることで、手法の汎用性を確認する。さらに、空間的な情報に加えて、時間軸を考慮したダイナミクスなモデリングへの拡張を検討する。2.他のオミクス解析技術との統合:シングルセルトランスクリプトームデータと空間トランスクリプトームデータに加えて、シングルセルプロテオミクスやメタボロミクスなどの他のオミクス解析技術で得られたデータを統合することで、より多面的な細胞間コミュニケーションの理解を目指す。また、イメージング技術との組み合わせにより、細胞の形態的情報も取り入れたモデリングを行う。3.他の研究グループとの共同研究の推進:国内外の関連研究グループとの共同研究を積極的に進め、モデリング技術の向上と生物学的知見の深化を図る。また、がん研究以外の分野への応用可能性についても探る。これらの方策を通じて、細胞間コミュニケーションの理解を深化させ、がんをはじめとする様々な疾患の診断・治療法の開発に貢献することを目指す。また、本研究で開発された技術を領域内に広く共有し、関連分野の発展に寄与する。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 図書 (2件)
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