計画研究
学術変革領域研究(A)
本研究課題では、細胞社会において、ECM の生化学的・物理的パラメータが、分子・細胞レベルの振る舞いにどのように影響を及ぼし、如何なる相互作用を惹起しながら、より上位のマクロレベルの組織の構造や機能、特性と関連しているのか、という学術的な問いに答えるため、数学・物理学で記述される数理モデルを知識制約として取り入れた次世代の深層学習技術を核として、細胞外情報システムのダイナミクス・ゆらぎ・相互作用のモデリング・シミュレーション技術を開発する。最終的に、細胞外環境・細胞・組織レベルの情報をシームレスに繋ぎ、ECM が関わる高度な生命現象の科学的発見・理解に資する解析基盤として確立する。
本年度は、ECM‐細胞外情報システムの数理記述という本計画書の目的に沿って、一細胞レベルでの遺伝子発現ダイナミクスを扱う深層生成モデルを開発し、取得済みデータとシミュレーションデータで妥当性を検証した。以下に主要な研究進展を示す。1.mRNA スプライシング・分解速度推定技術 DeepKINET の開発:シングルセルRNAシークエンス(scRNA-seq)データに RNA 速度モデル と 深層生成モデル を組み合わせ、各遺伝子のスプライシング速度・分解速度を一細胞解像度で同時推定する新規手法 DeepKINET を開発した。モデルは変分自己符号化器(VAE)を核とし、未観測の前駆 RNA→成熟 RNA 過程を確率的に復元することで、従来困難であった転写後制御の定量化を実現した。2.細胞系譜情報を統合する LineageVAE の開発と連携scRNA-seq と DNA バーコード系譜追跡データを統合し、観測不能な祖先細胞状態と過去の遺伝子発現ネットワークを推定する LineageVAE を開発。マウス造血・リプログラミング系で未分化段階の転写因子カスケードを再構築し、DeepKINET が示した転写後制御のタイミングと合致することを確認した。これにより、転写制御と転写後制御を時間軸上で統合的に理解する枠組みを確立した。これらの成果は、計画書が掲げる 「ECM パラメータの介入が細胞状態遷移に与える影響を多角的に解析する」という目標に直結し、今後の器官形成・自己組織化モデル(A01)やデザイナーマトリックス評価(A03-2)への応用基盤となる。 次のステップとして、空間トランスクリプトームを加えた条件付き生成モデルを構築し、ECM による細胞制御のシミュレーション技術へ発展させる予定である。
2: おおむね順調に進展している
年度当初に掲げたコア課題が予定どおり完了し、DeepKINET と LineageVAE の2本の解析パイプラインを実装できた。また、本成果を基盤とする論文2報(Genome Biology, Bioinformatics)が既にオンライン掲載され、領域目標である「海外への迅速な情報発信」を1年前倒しで達成した。これらの点から、当初計画したマイルストーンを概ね達成し、次年度以降の拡張課題に移行する準備が整っているため、進捗はおおむね順調と判断できる。
今後は、今年度確立した DeepKINET と LineageVAE を核にして、細胞外マトリックス(ECM)の物性が時間・空間・階層を超えて遺伝子発現ダイナミクスに及ぼす影響を定量化できる統合プラットフォームへ発展させる。まず、A02 班が取得している 10 μm 解像度の空間トランスクリプトーム切片に粘弾性や架橋度などの局所 ECM パラメータを重ね合わせ、空間座標を条件変数として組み込んだ空間条件付き VAE を構築する。これにより、組織内の ECM 勾配に応答してスプライシング速度や分解速度がどのように分布するかを四次元(時間×空間×遺伝子×ECM)で可視化し、ECM 操作による転写後制御ホットスポットの出現を予測できるようになる。続いて、A01・A03 が測定する プロテオームを加えた多階層オミクス統合モデルを設計し、転写活性、転写後制御を縦断的な潜在変数で結びつける。ここでは ECM パラメータを外生因子として各階層に結合させ、物理刺激からエピゲノムを経由して細胞機能に至る因果パスを推定する。最終的に、ECM 物性を操作して細胞を意図的にデザインするための数理・情報基盤を完成させ、再生医療やがん微小環境の制御へ応用可能な具体的指針を提示することを目指す。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 4件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 1件、 招待講演 17件) 図書 (2件)
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