研究領域 | 冬眠生物学2.0:能動的低代謝の制御・適応機構の理解 |
研究課題/領域番号 |
23H04941
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
桜井 武 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60251055)
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研究分担者 |
砂川 玄志郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (70710250)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
185,120千円 (直接経費: 142,400千円、間接経費: 42,720千円)
2024年度: 35,750千円 (直接経費: 27,500千円、間接経費: 8,250千円)
2023年度: 38,480千円 (直接経費: 29,600千円、間接経費: 8,880千円)
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キーワード | 冬眠 / 視床下部 / 低代謝 / 睡眠 / 休眠 |
研究開始時の研究の概要 |
マウスの視床下部視索前野の一部の小領域に存在する特定の神経細胞群(Qニューロン)を興奮性操作するとマウスの体温と酸素消費が長時間にわたり著しく低下する。この状態(QIH)を引き起こす神経科学的メカニズムを明らかにし、真の冬眠や、睡眠の制御システムとの関連性・類似性を探る。このことを通して生理的な適応状態である能動的な低代謝状態における神経回路のふるまいを睡眠や体温の制御システムとの関連から統合的に俯瞰し、脳の作動モードを大幅に変える機構を明らかにする。また、QIH中の基本的な脳機能を解明し、従来研究が困難であった冬眠中の脳機能を模した能動的低代謝における脳機能を明らかする。
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研究実績の概要 |
Qニューロンの下流ニューロンの同定を目指し、視床下部背内側核(DMH)のターゲットニューロンを特定しようと試みているが、技術的な問題に遭遇している。TRAP2ではCreを利用していることから、Qニューロンのターゲット細胞をより正確に同定するために、Qrfp-flpマウスを作成た。一方、ファイバーフォトメトリーを使用してQニューロンの活動の変化を明らかにした結果、Qニューロンは暑熱環境やホットプレートによる刺激で興奮することが確認され、体温が上昇する際に体温を下げて正常を保つ役割に関与している可能性が示唆された。実際にQニューロンを除去したマウスでは、暑熱環境下での体温上昇が顕著に増大し、体温調節に異常が観察された。これに基づき、TRAP2マウスを使用して興奮したニューロンをAVPeおよびDMHでラベルし、再活性化により体温低下を引き起こす神経細胞群を特定した。現在、これらのニューロンの化学的特性を分析中である。さらに、前年度に開発したhOPN4dCを用いた光誘導QIHを利用し、6日間の連続QIHと1日の回復サイクルを用いて2か月以上の冬眠様状態を維持する実験に成功した。睡眠や記憶、老化への影響も現在分析中である。 一方、ハムスターの冬眠誘導条件として、餌の種類、寒冷曝露の体重など検討している。 また、タンパク質の構造予測AIを応用してハムスターの脳血管関門を通過しやすいAAVセロタイプを開発した。末梢血管からのAAV投与で大脳皮質から脳幹にかけての感染が認められた。ハムスターの代謝状態を非侵襲に推定するために、酸素消費量をミリ波レーダーで取得した時系列体動データから深層学習を用いて推定するアルゴリズムを開発した。今年度はマウスの酸素消費量を推定したが、今後はハムスターへ展開を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直接Qニューロンの下流に相当するDMHのターゲットニューロンの同定に想定外の難航が見られている。その反面、各種生理的条件下でのQニューロンの活動変化を明らかにすることができた。また、前年度に開発したhOPN4dCを用いた光誘導QIHを用いて、6日間連続のQIHと1日の回復サイクルにより2か月以上連続して冬眠様状態を維持することに成功しており、今後QIHによる冬眠様状態が様々な生理的状態にどのような影響を与えるかを明らかにするために大きな進展を見ている。また、ハムスターを用いた解析にも若干の遅れは見られるものの冬眠誘導条件などを明らかにしつつあり、進展している。
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今後の研究の推進方策 |
① QIH誘導メカニズムの解明:Qrfp-FlpマウスをTRAP2マウスに掛け合わせ、Fos-TRAP法によりQニューロン刺激後のDMHのターゲットニューロンのラベルと操作を試みる。 ② QIHが生理・神経機能にもたらす影響の解明:OPN4dCの開発により、QIHが睡眠や記憶に及ぼす影響についての検討が順調に進んでいる。冬眠様状態が睡眠負債や記憶にどのような影響を与えているかを明らかにし、OPN4dCによるQIH誘導が睡眠、記憶や自律神経系にもたらす影響を解明する。QIH導入後の睡眠状態や、断眠後のQIHが睡眠にもたらす影響を脳波睡眠解析により解明する。記憶に関しては、文脈による恐怖条件付けや水迷路学習後のQIH導入を行い、解放後の想起テストを実施する。 ③ Qニューロンのトランスクリプトーム解析:すでにほぼ解析が終わっており、Qニューロンに発現する受容体を同定した。そのリガンドによるQIH誘導を試みており、有力な候補物質を見出している。しかし、効力に関しては、DREADDによるQIHよりもかなり弱いため、さらに有力な因子の検索を行っている。今後は、介在ニューロンやグリアにも着目し、間接的にQニューロンに影響を及ぼす因子も含めて検討を行っていく。 ④ハムスターの効率的な冬眠誘導条件(給餌、光、温度条件など)をもとめる。 A03清成班が作成した遺伝子改変ハムスター(Qrfp-iCre、R26-hM3Dqハムスター)を用いて、ハムスターのQニューロンが冬眠にどのように関与しているか評価する。 ⑤冬眠を誘導したハムスターを体温・代謝状態によるステージに分けて脳サンプリングを行い、全脳FOSマッピングや、視床下部視索前野の1細胞遺伝子発現解析を行う。冬眠中、中途覚醒、覚醒の3状態を高い精度で予測するために、機械学習モデルを作成する。
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