研究領域 | 動的な生殖ライフスパン:変動する生殖細胞の機能と次世代へのリスク |
研究課題/領域番号 |
23H04953
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中馬 新一郎 京都大学, 医生物学研究所, 准教授 (20378889)
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研究分担者 |
渡部 聡朗 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 専門職 (40715405)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
130,520千円 (直接経費: 100,400千円、間接経費: 30,120千円)
2024年度: 22,230千円 (直接経費: 17,100千円、間接経費: 5,130千円)
2023年度: 39,520千円 (直接経費: 30,400千円、間接経費: 9,120千円)
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キーワード | 生殖 / 幹細胞 / ゲノム / 変異 / エピゲノム / 精子形成 / 生殖細胞 / 次世代 / 霊長類 |
研究開始時の研究の概要 |
ライフ時間進行に伴い増加する精子幹細胞の突然変異は次世代の異常の原因となる。本研究計画では精子幹細胞のゲノム変異を抑制する分子基盤とその機能変容が精子形成や次世代に与える影響を解明する。研究代表者はマウスを用いて、DNA損傷計測の技術開発、精子幹細胞株のCRISPRスクリーニング、遺伝子改変モデル作出と次世代を含む表現型解析、を行う。研究分担者は、生殖ライフスパンの長い霊長類(マーモセット)を用いて、霊長類の精子幹細胞の動態の理解と霊長類のゲノム恒常性の維持機構の解析、に取り組む。これら研究により精子幹細胞のゲノム恒常性を支える成立基盤の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
精子幹細胞を起点とする精子形成過程では体細胞系譜と比べて各種変異原に対するゲノム変異量及び変異パターンが異なる事が想定されるが詳細は体系的に明らかとなっていない。2023年度はduplex seqの一種であるnanoseq(Abascal F et al., Nature, 2021)の技術導入を行いマウス精子形成過程における低頻度変異の直接的な計測が可能である事及び代表的な変異原に対するゲノム変異量及び変異パターンを解析した。また近交系マウスと比べてゲノム多型の多いJF1マウス系統を導入しJF1由来卵子及び近交系C57BL/6由来精子を用いたIVFによる産仔作出を行った。全ゲノムシークエンスによるde novo変異のtrio解析及びゲノム多型を用いたハプロタイピングを実施する為のワークフローを構築しJF1多型の有効性を確認した。 霊長類精子幹細胞の動態を理解するために、(1) シングルセル解析と(2) BrdUパルスラベリング解析をマーモセットにおいて行った。(1)シングルセル解析においては、マーモセット精巣から精子幹細胞をFACSで濃縮してsubpopulationを同定し、それぞれのマーカー抗体を作製もしくは入手し、目的とする抗原を認識しているのかを検討した。異なる精子幹細胞のsubpopulationを検出できる抗体を3種類同定した。(2) BrdUパルスラベリング解析は、マーモセットにBrdUを二週間投与し、その間に分裂を行った精子幹細胞をラベルし経時的に精細管をサンプリングした。(1)で同定した各populationに特異的な抗体を用いてBrdUラベルされた精子幹細胞がsubpopulation間をどのように移動するのかを調べた結果、マーモセットの精子幹細胞は各subpopulationを順次移動し、特定の周期で元の状態に戻ることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画においてゲノムDNAの損傷部位や変異量及び変異パターンの計測は重要な技術基盤となる。研究代表者はゲノムDNAの2重鎖切断部位を計測するENDseqを導入し必要細胞数の微量化などの至適化を行った。また細胞集団中の低頻度のDNA変異量及び変異パターンを計測するnanoseq技術を英国サンガー研究所との共同研究により技術導入した。更に生殖細胞を介した次世代ゲノムの効率的な変異解析の為にゲノム多型の多いJF1マウスを用いた産仔作出及び全ゲノムデータのトリオ解析及びハプロタイプ解析のパイプラインを構築した。これらは次年度以降の各種ゲノム解析の土台となる。 研究分担者は当初はマーモセット精子幹細胞の動態を理解するために遺伝子改変マーモセットを作製してパルスラベル解析を実施す予定であった。しかし、23年度に実施したBrdUのパルスラベル実験においてその目的を達成することができた。BrdUで精子幹細胞動態の解析ができた大きな要因として、精子幹細胞系が当初の予想を超えて秩序だったものであることが挙げられる。他方でシングルセル解析については、各subpopulationの特徴や、精子幹細胞の状態遷移に関わっていることが予想される分子の解析などは次年度にまわすことになった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 2024年度はマウスに各種変異原を投与して精巣及び様々な体細胞組織の時系列サンプリングとnanoseqによる低頻度変異解析を実施し精子形成過程におけるゲノム変異の特性計測を行う。また精子幹細胞と体性幹細胞を高純度にソーティングした後にnanoseq解析を実施し精子幹細胞のゲノム変異応答の特徴抽出に取り組む。 (2) 各種変異原を投与した近交系マウスから凍結精子の時系列サンプリングを行いIVF実験により次世代F1個体を作出する。F1個体とFO雌雄親の全ゲノム解析及びハプロタイピングにより各種変異原が次世代ゲノムのde novo変異量や変異パターンに与える影響を計測する。次世代変異に影響を与える可能性の有る低分子化合物等を各種変異原と併せてマウスに投与して次世代ゲノムの詳細な解析を進める。 (3) scRNA-seqの解析を進めて、精子幹細胞の状態遷移に関わる分子機構を明らかすることを目指す。マーモセットで明らかにした精子幹細胞の動態が他の霊長類で保存されているのかを明らかにするために、カニクイザルを用いてBrdUのパルスラベリング解析を実施する。進化の過程で精子幹細胞の分裂頻度を変化させることで、一世代毎の変異頻度を調節しているのではないかという仮説を考えている。この仮説を検証するために精子幹細胞の分裂頻度と変異頻度をマウス、マーモセット、カニクイザルで明らかにするという、チャレンジングな課題に取り組む。マーモセットの分裂頻度に関しては、明らかになった周期性とBrdUラベルされた染色体の減少を評価することで算出を目指す。変異頻度に関しては、年齢の異なる複数の個体から精子を採取し、各精子ゲノムに含まれる新規変異をnanoseq法で同定することでこれまでの報告よりもより正確な値を算出することを目指す。
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