| 研究領域 | 個体の細胞運命決定を担うクロマチンのエピコードの解読 |
| 研究課題/領域番号 |
24H02320
|
| 研究種目 |
学術変革領域研究(A)
|
| 配分区分 | 補助金 |
| 審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
|
| 研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
立花 誠 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 教授 (80303915)
|
| 研究期間 (年度) |
2024-04-01 – 2029-03-31
|
| 研究課題ステータス |
交付 (2025年度)
|
| 配分額 *注記 |
197,340千円 (直接経費: 151,800千円、間接経費: 45,540千円)
2025年度: 29,510千円 (直接経費: 22,700千円、間接経費: 6,810千円)
2024年度: 79,690千円 (直接経費: 61,300千円、間接経費: 18,390千円)
|
| キーワード | 性分化 / 栄養 / 代謝 / Sry |
| 研究開始時の研究の概要 |
ほ乳類のXY生殖腺が精巣へと分化するためには、ヘテロクロマチン化されていた性決定遺伝子Sryがユークロマチン化される必要がある。申請者は、独自の研究により、エピゲノム制御酵素の補因子を産生する栄養代謝経路がSryの発現制御に重要な役割を担うことを見出した。本研究では、精巣分化を促すのに必要なSryのクロマチン高次構造を“性分化エピコード”と捉え、糖、脂質、アミノ酸の代謝経路、および鉄の取り込み経路が、いつどのように性分化エピコードを構築するのかを明らかにする。本研究は、ほ乳類の性の成立機構に外部環境が重要な役目を担うことを分子レベルで実証する。
|
| 研究実績の概要 |
独自に開発した生殖腺体細胞を精製する技術を用い、生殖腺の精巣化を担う細胞(受精後11.5日のXY生殖腺体細胞)の遺伝子発現解析を行った。その結果、この生殖腺体細胞では代謝関連遺伝子の発現が極めてユニークなプロファイルを示すこと、すなわち糖と脂質代謝によるアセチルCoAの産生、アミノ酸代謝によるα-ケトグルタル酸(α-KG)の産生、鉄の代謝による二価鉄(Fe2+)の産生につながる経路の律速酵素の遺伝子群が、他の細胞種に比べて有意に高発現していることを見出した。アセチルCoAはヒストンアセチル化、α-KGとFe2+はDNAとヒストンの脱メチル化の酵素反応に必須の補因子である。近年の研究により、細胞内代謝経路の活性化がエピゲノム制御を介して様々な組織・器官の機能に深く関わっていることが明らかになりつつある。これらの研究成果を考慮しつつ、申請者らが新たに見出した性決定期の胎仔生殖腺体細胞の特徴的な遺伝子発現プロファイルの意義を解釈した結果、母体からの栄養供給が胎仔の細胞代謝を介し、Sryのエピゲノムを変動させる可能性が浮き彫りになった。このような知見を踏まえ、まずは細胞内への鉄に取り込みについてメインの機能を担っているトランスフェリン受容体(Tfrc/TFR1)の機能とマウス性決定との関わりを明らかにする研究を展開した。TFR1のタンパク質発現を調べたところ、E11.5日の胎児の組織のなかでは、胎盤、肝臓、そして生殖腺体細胞で性決定を担う細胞であるNR5A1高発現細胞(NR5A1-high細胞)で高く発現していた。このような知見を踏まえ、Tfrc/TFR1を欠損したマウスを樹立し、生殖腺の性分化の表現型解析を行った。
|
| 現在までの達成度 |
現在までの達成度
2: おおむね順調に進展している
理由
Tfrc/TFR1の全身性の欠損マウスは、受精後約8日から9日程度で死亡する。このため性決定おける機能を調べるためには、条件的KOマウスを樹立する必要があった。そこで、Tfrc遺伝子の第3エキソンを、Cre-loxPシステムによる組み換えで欠失するようにデザインしたマウス(Tfrc-cKOマウス)を樹立した。Creのドライバーには、WT1_Cre-ERT2マウスを用いた。このマウスでは、Cre-ERT2がWT1プロモーター依存的に発現する。これにタモキシフェン誘導体である4OHTを腹腔投与すれば、CRE-ERT2を核移行させ、その結果loxPの組み換えを誘導することが可能である。生殖腺体細胞特異的Tfrc-KOマウスを樹立し、その性分化の表現型を解析したところ、XY個体35のうちで6個体がメスに性転換していた。また、1個体が一部性転換した個体(卵巣と精巣ひとつずつ)であった。このことから、性決定期の生殖腺体細胞におけるトランスフェリン受容体の欠損は、生殖腺のオス化を妨げることが明らかになった。続いて、SRYの発現解析を行ったところ、生殖腺体細胞特異的Tfrc-KOマウスでは野生型のおよそ約半分にまで発現が低下していることが明らかになった。次に、TFR1の欠損と、Sry遺伝子座のH3K9脱メチル化を担う酵素である、KDM3Aの機能との関連について検証した。生殖腺のH3K9me2の免疫染色を行ったところ、それに近接する中腎細胞と同程度のレベルにまで亢進していることが明らかになった。これらの研究結果は、トランスフェリン受容体が無くなることで、細胞内の鉄量が減少し、その結果、酵素反応に二価鉄が必須の酵素であるKDM3AによるH3K9me2の脱メチル化が阻害されている可能性が示された。
|
| 今後の研究の推進方策 |
以上の結果から、トランスフェリン受容体による鉄の取り込みは、マウスのオス化に非常に重要な役目を担うことが明らかになった。興味深いことに、性決定期の生殖腺で鉄を欠乏させると、Kdm3aをはじめとする、酵素活性に鉄を必須の補因子とするエピゲノム酵素群の発現が上昇することが明らかになった。今後はこれらのフィードバックメカニズムを明らかにしていきたい。Kdm3aの活性化には転写因子HIF1aが関与することが分かっており、また、鉄欠乏はHIF1aタンパク質の分解を抑制し、安定化することが分かっている。このため、これらのエピゲノム酵素群の遺伝子発現の活性化には、HIF1aが簡素している可能性を考えており、この点について検証していく予定である。トランスフェリン受容体は、鉄の取り込みに重要な機能を担っているが、それを補う取り込み経路の存在も示唆されている。その一つがフェリチンの取り込み経路である。フェリチンの取り込み経路に含まれる分子である、Scara5/SCARA5や、Ncoa4/NCOA4の発現を調べてみた結果、両者ともにNR5A1-high細胞で顕著に高いことが分かった。今後は、これらフェリチン取り込み経路の性決定における役割、フェリチン取り込み経路そしてトランスフェリン受容体に要る経路との関係ついても、遺伝学的手法で検証していきたい。
|