研究概要 |
炭素-炭素結合を協奏的に形成する反応を触媒する酵素(macrophomate synthase)の立体構造解析に成功した。得られた立体構造から、このステップはDiels-Alder反応の可能性が極めて高くなった。Diels-Alder反応は、シクロヘキセンを合成する有機化学上極めて重要な反応である。この反応を触媒する酵素の立体構造は世界初のものであり、Nature誌で発表した。活性部位は巧妙に設計されており、より効率的にDiels-Alder反応を進行させるための戦略を見ることができる。基質を導入した活性部位の構造及び、変異実験や反応中間体の絶対配置に関する情報を組み合わせ、1)より活性化した基質を用いること、2)水素結合によって反応性を大きく上昇させること、3)生成物阻害を回避する構造変化を伴うこと、4)柔軟性に富んだループ領域をもっていることなどを具体的に明らかにした。この活性部位は、新たな化合物を作るための、抗体触媒を設計する上で非常に重要な情報となるものである。 三員環アミノ酸ACC(1-aminocyclopropane-1-carboxylate)を分解できる特殊な酵素ACC deaminase(yACCD;酵母Hansenula saturunus由来)の結晶構造を、分解能2.0Åで精密化した。立体構造および構造情報から予測した反応機構を、J.Biol.Chem.誌上に発表した。この反応機構を検証するために変異体を9種類作製した。活性消失が確認された変異体のうち、K51T, Y295FとACCを結合させた複合体の結晶化に成功し、反応中間体構造を得た。反応中でビタミンB6は基質と結合し、回転することで反応に最適な立体環境を提供する。活性残基Lys51はACCのメチレン側鎖からプロトンを引き抜くモデルを提唱することができた。これはビタミンB6酵素では初のものであり、進化の多様性を表すモデルと言える。論文投稿中である。また、超高度好熱古細菌P.horikoshiiにおいてACCDとアサインされた遺伝子(PH0054)がコードする蛋白質の、ACC存在下での構造解析にも成功し、大きなドメイン変化が観察できた。ACCD活性の発現は当初の予想以上に厳密な環境制御を要している。論文投稿準備中である。
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