研究課題
特別研究員奨励費
本研究により新たに合成されたフラーレン二量体(C_<121>(異性体二種:C_s対称のものとD_<2d>対称のもの)、C_<122>、C_<122>H_4)について、二量体中の2個のフラーレンケージのπ共役系間に電子的な相互作用があるのかを研究するために分光測定および電気化学測定を行った。分光測定の結果、これらの二量体では光による励起は一方のフラーレンケージのみで起こり、他方のフラーレンケージから影響を受けたり分子全体にわたる励起を生じたりはしないことがわかった。また、C_<121>(C_s異性体)の励起状態の分光測定より、励起一重項状態および励起三重項状態は、ともに一方のフラーレンケージに局在化していることがわかった。一方、還元電位測定では二量体が還元されると電子は二量体全体ではなく一方のフラーレンケージに入り、次の還元では他方のフラーレンケージに入ることがわかった。このとき、2番目に入る電子と1番目には行った電子との相互作用により、第2還元電位は第1還元電位に比べて負の方向にシフトした。このような電子間相互作用によるシフトは2個のフラーレンが比較的長い分子鎖で結合された二量体では生じないものである。しかし、これらの二量体で見られた第1還元電位と第2還元電位の差はRh_6クラスターで架橋されたフラーレン二量体で報告されているものと比べ非常に小さく、フラーレンケージ間の相互作用が小さいものであることを示している。また、還元電位の差は第1・第2、第3・第4、第5・第6の3つの組で見られ、この順に大きくなっていることからクーロン斥力の寄与が大きく、電子が一方のフラーレンケージから他方に非局在化する寄与は小さいと考えられる。以上より、本研究で合成された二量体においてはフラーレン間の電子的相互作用が小さいため、一般的なフラーレン誘導体とあまり性質が変わらないと考えられる。
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