研究概要 |
MoMuLV-LTR/RET-MEN2Aトランスジェニックマウスに発生した耳下腺癌および乳癌より樹立した細胞株を用いて、これらの癌における細胞形態・分化度の違いを生むメカニズムを明らかにするため主要なシグナル伝達系因子の活性化・接着分子の関与について検討を行ってきた。ウエスタンブロッテイングおよび免疫沈降の手法ではシグナル伝達系因子の活性化は細胞の形態や分化度によって変化が認められなかったが、接着分子の発現には差が認められ、分化度の低い細胞株ではE-cadherin、β-catenin、γ-cateninの発現および複合体形成の低下が明らかとなっていた。今回はこれらの細胞株より抽出したmRNAを用い、TAKARAのIntelliGene^<TM>Mouse CHIP Set Iを用いてマイクロアレイにより分化度の異なるMEN2Aトランスジェニックマウス由来耳下腺癌細胞株・乳癌細胞株の分化度のことなる細胞株間の遺伝子発現の差を検討した。耳下腺癌の細胞株で分化度の違いにより2倍以上の発現差が認められた遺伝子は23同定され、この中で低分化株で発現が有意に高かった遺伝子が10、高分化株で発現が有意に高かった遺伝子が13であった。一方乳癌細胞株で分化度の違いにより2倍以上の発現差が認められた遺伝子は23同定され、この中で低分化株で発現が有意に高かった遺伝子が8、高分化株で発現が有意に高かった遺伝子が15であった。細胞株の発生母組織によらずに分化度の違いによる発現上昇、低下が共通してみられた遺伝子は8(thymosin beta 10,Fibroblast growth factor receptor 4,Heat responsive protein12,Enoyl CoA hydratase, Peptidylprolyl isomerase A, Caspase 6など)同定された。発現差を示した遺伝子の中で低分化株で発現が有意に高かったものはcell death repressor、プロテアーゼ、細胞接着因子などがみられた、高分化株で有意に発現が高かった遺伝子にはDNA修復、apoptosisに関与する遺伝子がみられた。これらの遺伝子が腫瘍の発生、分化度とどのように関連しているかは今後のさらなる検討が必要である。
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