研究概要 |
Ph^1転座に伴うbcr/abl fusion遺伝子に由来するP210^<bcr/abl>(P210)蛋白はチロシン・キナーゼ活性を有し、慢性骨髄性白血病(CML)の病因や急性期への進展との関係が注目される。われわれはP210機能の細胞内調節、特に分化に伴う抑制機構を明かにするために、抗ホスホ・チロシン抗体および抗abl抗体を用い、CML細胞株K562のP210を分離し、細胞内のホスホチロシン・フォスファターゼ活性(PTPase)およびチロシン・キナーゼ阻害活性(PTKーI)を検討した。 1.抗体の作製:抗ホスホ・チロシン抗体はホスホチラミンーKLH複合体を、抗abl抗体は合成ペプチド(SerーAspーGluーValーGluーLysーGluーLeuーGlyーLys)ーチログロブリン複合体をそれぞれ家兎に免疫し作製した。これらの抗体はいずれもK562細胞のP210を特異的に沈降させた。 2.PTPase活性:K562細胞より抗ホスホ・チロシン抗体にてP210蛋白を分離し、in vivoあるいはin vitroでチロシンをリン酸化させ、細胞中のPTPaseの基質とした。PTPaseは慢性期CML細胞、正常好中球に認められたが、CML細胞株K562,RMー10,Pl90^<cーabl>を発現するMR87や正常リンパ球には認められず、細胞分化にともなうP210のチロシン・キナーゼの抑制との関連が示唆された。このPTPaseはZn^<2+>でのみ阻害され、Na_3VO_4,NaF,PNPP,EDTA等では影響されなかった。また膜PTPaseであるCD45に対する抗体にても中和されなかった。 3.PTKーI活性:K562細胞より抗abl抗体にてP210蛋白を分離し、immune complex kinase assayの阻害により、PTKーIを測定した。PTKーI慢性期CML細胞、正常好中球の他にK562,RMー10,MR87にも認められたが、この活性は細胞可溶分画によるATP分解の可能性を否定できず、更に検討を要する。 成熟顆粒球PTPaseのP210キナーゼ抑制への関与が示唆される。
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