研究概要 |
食品中に、調理中に形成される発がん物質であるヘテロサイクリックアミンは、そのほとんどが肝細胞がんを引き起こす。このヘテロサイクリックアミンにより引き起こされたラットの肝細胞がんでのH,K,Nーras遺伝子の活性化を、PCR法で検討した。用いた試料は、いずれもすでに組織学的に肝細胞がんであることが確認された、パラフィン包埋フォルマリン固定標本である。組織学的にがんであることが確認された部分よりPCR法により各々H,K,Nーras遺伝子を増幅し、選択的hybridization法により、12、13、59、61番目のコドンの突然変異を解析した。 その結果、2ーaminoー3ーmethylimidazo〔4,5ーf〕qunoline(IQ)で誘発された肝臓がん22例中、変化のあったものはHーrasで13番に3例、Kーras、Nーrasでは変化は認められなかった。さらに、2ーaminoー3,8ーdimethylimidazo〔4,5ーf〕quinoxalineで誘発されたものでも、17例につき検討し、Hーras,Nーrasに変化は認められず、唯一Kーrasの13番に1例だけ変化が認められたのみであった。以上の如く、ヘテロサイクリックアミンによるラットの肝臓発がんでは、ras遺伝子が活性化されることは必要条件ではないことが明らかとなった。 マウスにおける肝臓がんでは、多くの化合物でras遺伝子の活性化が発がんと強く結びついていると報告されている。今回の結果だけでは動物種の違いか、化合物の違いかが明らかではないが、ヘテロサイクリックアミンのラットにおける肝臓発がんのメカニズムは、多くのマウスのものと異なることが明らかとなった。現在、ヘテロサイクリックアミンによるマウスの発がんにつき、検討中である。
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