研究概要 |
1989年および1990年度の現地調査による資料の整理・分析を行った結果,つぎのような研究成果を得ることができた。 1,チャック・レ-ク第1地点からは,細石刃31点,細石刃核5点,削器5点等を含む石器計328点が出土した。これらの石器はほとんどが生活面と思われる遺構に集中しており,当時の生活形態を窺うに足る重要な資料である。 2,チャック・レ-ク第3地点は,遺物こそ少ないがウチムラサキガイ、ヌノメアサリ等の貝が2mも堆積した貝塚で,層序も明確に把握できた。 ^<14>C年代からみて,従来の調査の空白部分を埋める良好な資料として注目される。 3,ポ-ト・アリス洞穴は最初の試掘によって,骨器1点と ^<14>C年代とが確かめられただけで,それ以上の情報は今後の調査にまたなければならない。 4,ウォ-ム・チャック集落址については,今世紀まで居住されていた集落が構築される以前に遡り、約700年前と1300年前頃の2時期にわたりおそらくサケ漁を目的とした集落が存在したことが確認された。トレンチ各区のサケを主体とする魚骨や貝の分析は,過去の生業の形態やリズムを知る上に貴重な資料である。 5,ハンタ-・ベイ貝塚は,チャック・レ-ク第3地点に匹敵する良好な斜面貝塚であり,層序と年代が確実な30数点の文化遺物を発掘によって得ることができた。花粉分析の結果,千数百年ないし2千年前頃のハンタ-・ベイの環境は現在と変わりがないことがわかった。 6,以上に要約したように,1987年度以降3回にわたる現地調査の結果,ヘケタ島やプリンス・オブ・ウェ-ルズ島には,約8000年前の細石器の時代から,ポ-ト・アリス洞穴の時代を経て,海洋適応をとげ,回遊魚や貝類の捕採に依存する人々がごく最近まで継続的に居住していたことが判明した。しかし,近い過去の歴史を知るためには,考古学資料よりも民族誌資料や文献資料の採用が不可欠である。1989,1990年度にかけて我々の調査団が菟集できたことを列挙すると, (1)現在当該地域に居住するトリンギット族およびハイダ族の古老8名から,古老たちが今でも鮮明に記憶している文化,とくに生業を中心に情報を入手したこと。 (2)古考たちが記憶しているヘケタ島の過去に関する情報は,我々の観察結果と適合することと,必ずしも適合しないこととがあり,今後の検討を必要とすること。 (3)プリンス・オブ・ウェ-ルズ島南部のクリンクヮン,B.C.州北西部のクサ-ン,ヘインズに近いクラックワン等,現あるいは元集落を歴訪して,この地域の北西インディア諸部族に関する比較資料を得たこと。そして, (4)ロシアにつつぎ,北米北西海岸に進出したイギリス,アメリカの影響により,原住民の伝統文化が交易等を通じて変貌した過程を知るために現地の文献資料を菟集したこと。 以上の4点が主な成果として挙げられる。 7,上記の1〜6にまとめた研究成果は,現場で作成した写真,実測図,表などを織りこんで,今年度内に研究報告書“Heceta Island,Southeastern Alska(2)"として刊行の予定であり,現在最終校正の段階に入っている。同報告書には,吉田邦夫他による ^<14>C年代に関する論文,金子浩昌による動物遺体の分析,研究協力者沖野慎二による花粉分析の成果も関連論文として含まれている。 8,ただし,1992年の報告までに遂行しえなかった研究もいくつが残されている。1990年度にチャック・レ-ク第地点やハンタ-・ベイから採集された魚骨や貝類の分析,同じく両遺跡から出土した骨角器の脂肪酸分析の結果などが,本年度内に完了できなかった作業として挙げられる。オルソン教授を中心とする文献研究もいぜんとして続行中であり,今後の研究成果はまた別の機会に発表する予定である。
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