研究概要 |
当該研究は表記課題のもとに,1989年〜1991年の3年間にわたりスピッツベルゲン島において行われた。その間,同島の中央部5地域の野外調査を行った。それらはFestningen,Skansen,Kapp Wijk,Skansbukta,Trygghamnaの諸地域である。調査は1)ペルム紀〜三畳紀にかけての環境の時空変化,2)ペルム系の生層序の確立,3)石炭系とペルム系の境界の状況,の3点に重点をおいて行った。そのために各地域において,1)500分の1(時には200分の1)の地質柱状図の作成,2)地層を構成する堆積岩標本の採集,3)層準毎に腕足類・こけ虫・珊瑚・二枚貝・巻貝・有孔虫などの化石採集を実施した。 室内研究においては,採集した堆積岩の薄片製作,検鏡を行い,その結果を野外観察に加えて8本の地質柱状図を作成した。ついで,各種化石試料の剖出,薄片製作,鑑定,写真撮影を行い,地質柱状図を用いて,各地域毎,各種古生物毎の垂直分布図を作成した。得られた結果をスピッツベルゲン島内諸地域,北極海域諸地域(グリ-ンランド,カナダ北部,ロシア北部),テ-チス海域諸地域と比較検討した。得られた成果を要約すると次のようになる。 1。ペルム系と三畳系の境界。当地域の最上部層であるKapp Starostin層はテ-チス地域の基準に合わせると,Upper DzhulfianとDorashamian相当層を欠いている。下部三畳系Vardebukta層もまたLower Griesbachianを欠き,Upper Griesbachian相当層から堆積を開始したものと判断される。ペルム系と三畳系の累重関係はほとんどの所で準整合であり,地殻変動・削剥などがその間に行われた形跡は見出されない。 2。ペルム系の生層序と分帯。調査地域のペルム系は上位から,Kapp Starostin層,Gypshuken層,Nordenskioldbreen層に3分される。詳細な生層序の確立と分帯が可能なのはKapp Starostin層である。同層からは多くの海生無脊椎動物化石を採集し,研究中であるが,最も多く,分帯・対比に有効なのは腕足類であろう。今回の研究では同層中に下位から,1)Horridonia timarica帯,2)Paeckelmannella sp.帯,3)Megousia weyprechti帯,4)Pterospirifer alatus帯,Haydenella wilczeki帯の5帯が認められた。但し,5帯すべてが認められるのはFestningen地域のみで,他の地域では上位2帯または1帯が明らかではない。最下部のHorridonia timanica帯は北東部グリ-ンランドのMallemuk層群,カナダ北極域のAssistance層に当るのは明らかで,Kungurian期であることが判明した。また,上位3化石帯の腕足類化石群はテ-チスの基準でいうとMidianおよびLower Dzhulfianと時代が判定されている東部中央グリ-ンランドに発達するFoldvik Creek層群および,Capitanian(北米の基準)とされている上部Trold Fiord層(カナダ極地方に分布)の腕足類と極めてよく似ている。従って,Kapp Starostin層の最上部の時代は,従来考えられているように,Lower Kazanianではなくて,それよりもはるかに新しい,MidianないしはLower Dzhulfianと訂正されるベきものである。他に珊瑚・こけ虫・二枚貝など従来断片的な報告しかなされていなかったグル-プについても組織的な検討を行い,特に二枚貝の研究は,上記の対比論,時代論を補強する上で重要であることが判明した。 3。ペルム系と石炭系の境界。当該境界はSkansen地域において観察することができた。Nordenskioldbreen層中に境界があるが,どこに境界をおくかについては種々の見解があり,一致をみていない。今回の調査で紡鐘虫・珊瑚・腕足類などの化石を細かな層準毎の採集し,研究を続行中であるので,近い将来に何らかの結論が得られるものと期待される。 4。石炭紀後期〜三畳紀前期にかけての古環境変化。この件については,生相と岩相の比較解析が必要であるが,莫大な試料の処理と鑑定・解析が必要であり,なお時間を要する課題である。 以上の研究成果はとりあえず,1992年4月末に刊行される(現在印刷中)「Investigation of the Upper CarboniferousーUpper Permian succession of West Spitsbergen」を題する報告書により発表される。
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