研究分担者 |
REYNOLDS Jho アラスカ大学, フェアバンクス校・水産研究施設, 準教授
GHARRETT Ant アラスカ大学, 海洋水産学部・ジュノー校, 教授
井田 斉 北里大学, 水産学部, 教授 (90050533)
実吉 峯郎 西東京科学大学, バイオサイエンス学科, 教授 (20002339)
前川 光司 水産庁, 中央水産研究所, 室長
後藤 晃 北海道大学, 水産学部, 助教授 (30111165)
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研究概要 |
本研究ではアラスカ南東部,中部地域に生息するオショロコマと本種生息の南限域である北海道のオショロコマの集団遺伝学的特徴を比較した。その結果アラスカ湾またはこれとつながる入江に河口を有する河川に生息するオショロコマのアイソザイム多型にみられる遺伝的変異は小さく,且つ集団間の遺伝的距離も極めて小さいこと,また生息する河川は氷河を源流とするものが大半で,温度が低く,河川の生産力は極めて低いと考えられ,そのため,仔稚魚期の成長は河川に依存しているが成魚期の成長を海に依存する降海型を特徴としている。これに対して北海道のオショロコマは遺伝的に異なる3つの集団から構成され,それぞれの集団に所属する個体間では形態が明らかに異なっていることが,本研究の調査によって明らかにされた。この相違は一方では降海型を主として,集団の混合が推定されること,他方は陸封を主とし,生殖的隔離によって小集団内で適応し,特徴的に分化して生じたものと推定される。 一方,Dolacy(1941)がコデアック島カ-ラック湖にオショロコマとは明らかに異なる極イワナを報告しており,本研究では同じ湖でオショロコマと極イワナを同時に採集し,その形態的特徴を明らかにし,更に両種のアイソザイムの解析結果から遺伝子座が完全に置換している。幾つかの遺伝子を検出し,両種が生殖的にも完全に隔離されていることを明らかにした。両種は産卵期も異にしていると考えられた。8月〜9月の調査期間内で成熟に近い多くのオショロコマを観察できたが極イワナの生殖腺は指数は1〜2.8であり卵径も1mm以下と小さく,産卵期はオショロコマと比較して遅いものと推定された。更にオショロコマは降海型を主とするが,極イワナは完全な陸封型であり,胃中には産卵のために渕上したベニサケの卵が多数(93〜203個)観察され,卵と同時に呑み込んだ小石(約20個)も観察された。このことより極イワナは生殖腺の成熟に必要なエネルギ-として間接的に北大平洋の餌生物を利用していることが明らかとなった。カ-ラック湖に何故生態の異なるイワナが同所的に生活するようになったのか興味深い問題が提起されたが,この問題を堀り下げ結論を得るにはイワナの種分化が何故に起ったかを考察する必要があり極めて困難な問題と考えられる。 オショロコマの繁殖行動の観察は1989年9月25日から10月6日まで,ジュノ-近郊のSteep Riverの全卵域(約500)にわたって行い,14例の放卵放精行動をビデオおよび目視により記録した。オショロコマとギンザケの産卵期は同一河川内で重複しているが,オショロコマはギンザケを避けて産卵場を選択し,両種の自然交雑は避けられていた。オショロコマの雄には残留型が観察されたが,降海型との比率は1:5と低い傾向を示した。降海型の雌雄のペア産卵中においてサテライト(劣位個体)のスニ-ク(ぬすみ行動)の成巧率は低かった。またスニ-クに成巧した個体は相対的に体の小さい個体(残留型個体を含む)に限られていた。雌の一産卵床に放卵する回数が3回におよぶのはペア産卵に限られていた。アラスカ中南部域のTiekel Riverの支流で行った観察では,雌とペアを組む繁殖行動とペアの周りに位置して産卵の瞬間にび込んで放精するぬすみ繁殖行動が明瞭に区別され,前者の繁殖成功率は97%と高く,後者の成功率は平均で47%であった。また,雄の比率が若干高く(7:3),雄による食卵行動は,北海道の然別湖のオショロコマと比較すると活発ではなく,明らかな相違が認められた。繁殖成功率の高いペア産卵の雄は,繁殖行動中常に優位な立場にあり,体長は尾叉体長が210mm以上で,年令が6才以上と大型で年令の高い個体であった。本研究でオショロコマの繁殖行動としてペア産卵が最も安定した行動であり,低位にある雄によるスニ-ク行動に対して産卵雌はこれを避ける傾向のあることが明らかとなった。 降海行動,産卵溯上行動と関連して調べたグアニン形成に関与するプリンヌクレオシドホスホリラ-ゼの活性含量は降海と関連して河川間で差のあること,また,溯上時のカロチノイド色素量は大平洋サケで認められる程には大きく変化せず,色素量で産卵溯上を論ずることはできないことが明らかとなった。
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