研究課題/領域番号 |
01041014
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大沢 雅彦 千葉大学, 理学部, 助教授 (80092477)
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研究分担者 |
原 正利 千葉県立中央博物館, 主任研究員
土田 勝義 信州大学, 教養部, 教授 (70089093)
沼田 真 淑徳大学, 社会福祉学部, 教授 (10009037)
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研究期間 (年度) |
1989 – 1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
11,100千円 (直接経費: 11,100千円)
1990年度: 2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
1989年度: 8,600千円 (直接経費: 8,600千円)
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キーワード | 垂直分布 / 森林 / 草地 / 雑草 / 気候 / 乾燥谷 / 地形 / ブ-タン |
研究概要 |
ブ-タンヒマラヤの生物分布帯に関する生態学的研究 II. 山岳地域は人間活動の影響によって文化景観に取り囲まれた隔離された自然系となりつつある。この最後に残された自然地域もその改変が進んでいる。その結果、下流域での洪水や社会問題などさまざまな形での影響がみられる。その点から山地生態系に関する研究が現在緊急に必要である。われわれはMAB計画のProject No.6、山地とツンドラ生態系に対する人為の影響、のテ-マとも関連を持って東部湿潤ヒマラヤ地域の植生と人為との関連についてこれまで、東ネパ-ル、ブ-タンなどで研究を行ってきた。 今回の研究目的は、ヒマラヤのうちでも自然がよく残されているブ-タンの気候、地形、土壌、植生など自然特性の分布とその成立メカニズムを明らかにする点にある。前回(1985年)の広域的調査にひきつずいて今回は標高1000ー3000m付近の亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林域を主たる調査域とした。これまでほとんど科学的な調査が行われたことのないブ-タンでは植生とその背景となる気候、地形などに関する世界でも初めての成果といえる。 ブ-タンは全体が洗濯板を南北に傾けたような地形をしており、ほぼ南北方向に主要河川が谷を刻んでいる。この谷の中流域、亜熱帯・暖温帯の領域には乾燥谷が広がっている。ブ-タンの主要な都市はこの乾燥谷に分布しており、周囲の湿潤な森林が発達した山腹斜面と際だった生態系をなしている。この乾燥谷の成因を気候観測と入手した気候デ-タを用いて降水量、気温、風などの各要因を考慮して総合的に解析した。乾燥谷での年降水量は少なく、12月から2月は顕著な乾期があるが、それだけでは乾燥谷の成因は説明できない。温度条件は季節にかかわらず谷底では上部斜面に較べると日較差が大きく、日中著しい気温上昇が見られた。また、日中には顕著な谷風(南風)が発達する。この気温上昇と強風による蒸発量の増大が水不足を引起こし、乾燥谷の成立の一因となっていることが明かとなった。このような条件に放牧や森林伐採など人為の影響が加わって乾燥谷が形成された。 また、この中流域には河床勾配のゆるい山間盆地状の地域が発達し、複数の河岸段丘が見られる。これが都市の立地となっているわけであるが、ウオンデイホダンの付近では中位段丘面の層理面が上流側に逆傾斜しているものが観察された。これは盆地下流側での第四紀における隆起の可能性を示唆する。しかし、盆地の発達が悪いことや低ヒマラヤ域が狭いことから、山地の急速な隆起が始まった時期は中・西部ヒマラヤに較べて、やや遅かった可能性も考えられた。また、段丘堆積物の性状から、上流域氷河の拡大縮小やプレ-ト境界で起こる大地震などと関連したカタストロフィックな洪水の存在が示唆された。 植生については日本の南半分に分布する常緑広葉樹林と同位的な亜熱帯・暖温帯(1000ー2500m)の常緑広葉樹林について詳しい調査を行った。これはまたブ-タンのなかでは最も人為の圧力が強く、失われる可能性が高い植生域でもある。この常緑広葉樹林はブナ科のシイ、カシなどが優占し、ツバキ科、クスノキ科などを交える林である。これらの森林には日本では見られない多くの熱帯要素が混交している。これらの種はシイ・カシの林冠から挺出したエマ-ジェントとなっており、種子繁植によって個体群を維持する。ところが集落の近くの薪炭林、焼き畑後の再生二次林などでは萌芽再生能力を持ったシイ・カシだけが再生して、これら熱帯要素のエマ-ジェントは伐採が繰り返されて消えてしまっている。 さらに伐採の頻度が増したり、放牧などの人為圧が強まると低木群落、草地へと変化する。集落の周辺では森林が農地と結合して焼き畑が行われるだけでなく、草地も農地とロ-テイションを組んでおり、草地が数年ごとに農地に変えられている。それにともなって出現する多様な草地の類型とその分布、成立についても基礎的情報を得た。 さらに今後は、1000m以下の熱帯、3000m以上の温帯域についても同様の調査を進め、ヒマラヤの環境傾度にともなう自然の成帯構造を明らかにする予定である。
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