研究課題/領域番号 |
01041026
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 誠 東京大学, 農学部, 教授 (00011883)
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研究分担者 |
KAN Ting T. パプアニューギニア大学, 水産学科, 上席講師
LAST Peter R CSIRO海洋研究所, 水産研究部, 研究員
馬場 治 東京水産大学, 水産学部, 助手 (40189725)
水江 一弘 長崎短期大学, 教授 (40039706)
田中 彰 東海大学, 海洋学部, 助教授 (90138636)
大竹 二雄 東京大学, 海洋研究所, 助手 (20160525)
佐野 光彦 東京大学, 農学部, 助手 (50178810)
小川 和夫 東京大学, 農学部, 助手 (20092174)
渡部 終五 東京大学, 農学部, 助教授 (40111489)
谷内 透 東京大学, 農学部, 助教授 (00012021)
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研究期間 (年度) |
1989 – 1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
12,000千円 (直接経費: 12,000千円)
1990年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1989年度: 9,000千円 (直接経費: 9,000千円)
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キーワード | 淡水 / ブルシャ-ク / リヴァ-シャ-ク / ノコギリエイ / オトメエイ類 / オセアニア / 分類 / 適応 |
研究概要 |
1989年8月から9月の2カ月間に北部オ-ストラリアの4河川およびパプアニュ-ギニアの3河川水系で、また1990年9月に西オ-ストラリア州の2河川、合計9河川水系で淡水産板鰓類(サメ・エイ類)の採集を試みた。2河川(オ-ストラリアのミッチェル川とオルド川)を除く7河川で合計67尾の板鰓類を採集した。種類は、Carcharhinus leucas,Glyphis sp.Pristis clavata,P.cuspidatus,P.microdon,Himantura chaophraya,H.uarnakの種類であった。このうち、西オ-ストラリア州のペンテコスト川では満潮時に河川に流入する海水中(38%)でノコギリエイの一種、P.clavata10尾を、またパプアニュ-ギニアのオリオモ川河口域(20ー25%)では2種のノコギリエイ、P.cuspidatusとP.microdonおよびオトメエイ属の一種,H.uarnakを各一尾採集した。残りの54尾は淡水中で捕獲した。最も採集数が多かったのは、P.microdonでクィ-ンズランド州のギルバ-ト川で5尾、北部特別地域のデ-リ-川で4尾、パプア・ニュ-ギニアのセピック川で12尾、マレ-湖(フライ川水系)で23尾、オリオモ川河口で1尾、合計45尾に達した。次に多かったのがブルシャ-ク、Carcharhinus leucasで、北部特別地域のアデレイド川とデ-リ-川で各2尾、セピック川で4尾の合計8尾を採集した。このほか、アデレイド川でGlyphis sp.またデ-リ-川でオトメエイ属の一種、H.chaophrayaも捕獲し、いずれもオ-ストラリアでの初記録となった。また、セピック川のブルシャ-クも初記録である。採集した3種のノコギリエイの標本を基にノコギリエイ科の分類学的再検討を試みた結果、ノコギリエイ科では2属6種が適格であるとの結論に達した。 これらの板鰓類の形態に地理的な変異は認められなかったが、ノコギリエイ、P.microdonでは吻の両側にある棘の数に性的二型が認められ、雄では19ー23(平均20、9)、雌では17ー21(平均18、9)であった。電気泳動によるアイソザイムの変異解析でも地理的変異はみられず、種内の遺伝変異は小さいものと推測された。この方法でみると、Glyphis sp.はC. leucasと類似したパタ-ンを示すが、P. microdonとは顕著に異なっていた。淡水産板鰓類の血清中のイオンや尿素の濃度を調べたところ、ナトリウム、カリウム、塩素の各イオン濃度は海産のサメの半分以下であり、尿素の濃度は3分の1であった。また、浸透圧は海産のサメの約半分で、淡水エイ、Potamotrygon類よりは高い値を示した。以上のことから、オセアニアにおける淡水産板鰓類は淡水に適応は指定るものの、全体的には充分と言える状態にはないと判断される。一方、海産のノコギリエイでは各イオンの濃度や浸透圧は環境水(38%)よりも高張であり、環境水の塩分濃度に容易に適応するものと考えられた。板鰓類の塩類排出器官である直腸腺を組織学的に観察したところ、粘液細胞がcentral lumenに存在し、efferent tubuleも発達しているので、調査した淡水産板鰓類では直腸腺は塩類排出器官として機能することが分かった。したがって、デ-リ-川とセピック川で採集したブルシャ-クとノコギリエイは短期間淡水に留まっていたに過ぎないものと推定した。また、これらの河川で採集したブルシャ-クとノコギリエイはいずれも性的には未熟な個体であり、脊椎骨に現れる輪紋を基にした年齢解析では、どの個体も0ー1歳と推定された。マレ-湖やオリオモ川河口域で採集した大型の個体を含めたノコギリエイの年齢を解析すると、成長量は1年目で年間18cm,10年目で年間10cmであった。淡水で捕獲されたノコギリエイの鰓から採集された寄生虫を調べたところ、2種の単生虫が見つかった。この内の1種は新属新種であり、もう1種は新種であった。さらに鰓に寄生していたコペポ-ダはオ-ストラリアでは初記録の種類であった。 以上の結果を総合すると、今回の調査で捕獲した板鰓類は淡水での生活期間は短いものの、独特の分布特性と生態を持つものと推察される。今後は近緑種が分布するタイやインドでの調査を行い、淡水産板鰓類の進化と適応を明らかにすることが重要である。
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