研究課題/領域番号 |
01041028
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柏崎 浩 東京大学, 医学部(医), 講師 (60004735)
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研究分担者 |
高坂 宏一 杏林大学, 保健学部, 教授 (00146557)
門司 和彦 長崎大学, 医学部, 助教授 (80166321)
ORIAS Rivera ボリビア国家警察病院, 医師
VARGASーPACHE ハ゜チエコ ボリビア高地生物学研究所, 所長
吉永 淳 国立環境研究所, 研究員 (70222396)
渡辺 知保 東北大学, 医学部, 助手 (70220902)
佐々木 昭彦 国立公衆衛生院, 生理衛生学部・体力生理室, 室長 (70150175)
古知 新 国際保健機構(WHO), 結核対策課, 課長
竹本 泰一郎 長崎大学, 医学部, 教授 (60010005)
ORIAS Jose Hospital Virgen de Copacabana, Policia Nacional de Bolivia
VARGAS Enrique Facultad de Medicina, Instituto Boliviano de Biologia de Altura
ORIAS Jose ボリビア社会保険病院, 医師
VARGAS Enriq ボリビア高地生物学研究所, 所長
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研究期間 (年度) |
1989 – 1991
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研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
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配分額 *注記 |
28,600千円 (直接経費: 28,600千円)
1991年度: 10,000千円 (直接経費: 10,000千円)
1990年度: 10,300千円 (直接経費: 10,300千円)
1989年度: 8,300千円 (直接経費: 8,300千円)
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キーワード | 高地における身体発育 / 低酸素下の血圧と食塩摂取量 / セレンとグルタチオンパ-オキシダ-ゼ / ^<18>Oと ^2H標識水による酸素消費量分析 / 栄養生態学 / キャッサバとシアン配糖体 / 味覚識別能 / アイマラ族とモセテン族 / 24時間エネルギ-消費量 / 酸素・水素同位体による二重標識水 / マス・スペクトロメ-タ- / キャッサバ / シアン配糖体 / 食物摂取調査 / 味覚試験 / 生活活動様式 / 生存維持機構 / 環境資源利用システム / 生理学的適応機序 / エネルギ-消費量 / 栄養学的適応機序 / 基礎代謝 / 味覚 |
研究概要 |
調査によって得られた資料(特に人口学的資料)および生体試料の多くは分析中であるが、主な分析結果は以下の様に要約される。 1.高地の牧畜村落における児童の身体発育は良好で、ボリビアの都市に居住する児童のそれに匹敵する。胸郭については同じような標高に居住するケチュア族の児童と比較して有意に小さい。低酸素分圧への適応として考えられていた大きな胸郭は、ケチュア族独特のものであり、アイマラ族に関しては必ずしもあてはまらない。 2.高地の乾燥地域では、生業はリャマ・アルパカ・羊の牧畜を主体としており、寒冷耐性品種のジャガイモをわずかに生産するのみである。一週間にわたる食物摂取調査では、エネルギ-、タンパク質など多くの栄養素の摂取量は充足していたが、カルシウムおよびビダミンAの摂取量が所要量を大幅に下回っていた。24時間心拍数の連続記録から推定したエネルギ-消費量の個人間変動は大きく、性・年齢により特別の偏りは確認できなかった。 3.アンデスなど高地に居住する人々は一般に低地(海抜レベル)に居住する人々に比較して血圧が低く、高血圧や冠状動脈疾患が少ないと理解されているが、調査資料を分析した結果、ボリビア・アンデスのアイマラ族の人々が低地居住者に比較して高血圧の有病率が低いという事実は確認できなかった。尿中排泄量から推定した、高地居住者のナトリウムおよびカリウムの摂取量は予想以上に高く、それぞれ低地居住者の2倍以上であった(高地居住者1日のナトリウム排泄量は260ミリモル、食塩15gに担当)。重回帰分析の結果、血圧は、年齢と上腕周径、居住地の標高(または、血中ヘモグロビン濃度)と有意な関連を示した。低酸素環境、ナトリウムおよびカリウムの高摂取量が血圧に対する影響を相殺している可能性があり、高地居住者のナトリウム、カリウムおよび他の無機質の生理的役割について詳細な検討を今後おこなう予定である。 4.セレンの栄養状態と血中グルタチオンパ-オキシダ-ゼ活性(GSHーPx)について、高地および低地居住者の比較分析を行った。血中セレン濃度は高地と低地居住者との間に有意差はなかった。しかし、赤血球中セレン濃度は低地居住者が高く、逆に血清中セレン濃度は高地居住者において高値を示した。血中GSHーPx活性については、ヘモグロビン1gあたり活性値は高地居住者において低値であったが、血液1mlあたり活性値では高地居住者が高値であった。高地での食物摂取調査によるセレン摂取量から高地居住者の全血中セレン濃度を推定すると、実測値は成人男性で47.7%、成人女性で42.5%高く、セレン依存の血中GSHーPx活性を高く保つため、血中セレン濃度を高く維持する機構がはたらいている可能性を示唆している。しかし、血中ヘモグロビン濃度が高いことにともなって増加すると考えられる活性酸素種除去に充分なGSHーPx活性が保持されているかどうかについてはさらに検討する予定である。 5.酸素の安定同位体( ^<18>O)および ^2Hによる標識水を投与した高地の対象者について、得られた尿サンプルをマス・スペクトロメ-タ-で測定し、算出した一日当たりのエネルギ-消費量(基礎代謝率の1.3ー2倍の範囲であった)は、ペル-・アンデスで観察や古典的酸素消費量測定によって推定された値より高く、個体間の変動も大きかった。限定された資源・生活資材を有効に利用するため、アンデスでは成人の多くは活動レベルが低い(つまり働かない)という通説はこの集団では当てはまらなかった。 6.キャッサバ(品種によってシアン配糖体の含有量が異なる)の利用をめぐって、栽培品種、摂取量、および味覚による識別能の調査を実施した。この地域の伝統的部族社会であるモセテン族と、高地からの移住者(ケチュア、アイマラ、チパヤ族)とを比較した時、モセテン族では苦い品種のキャッサバを栽培していないこと、味覚による品種の同定に誤りの少ないことが認められた。なお、移住者集団によって持込まれた一品種は、古くから栽培されている他の品種に比較してシアン化水素の含有量が高いことが分析によって明かとなった。高地においてもジャガイモについて同様の調査を実施しているが、作物に含まれる毒物除去の技術的方法、生体内での解毒、健康影響に関しては今後も検討する予定である。
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