研究課題/領域番号 |
01041029
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 忠夫 東京大学, 教養学部, 教授 (90106609)
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研究分担者 |
SPRADBERY J. CSIRO昆虫学部門, 主任
CROZIER R.H. New South Wales大学, 教授
東 正剛 北海道大学, 環境科学, 助手 (90133777)
山根 爽一 茨城大学, 教育学部, 助教授 (40091871)
安部 琢哉 京都大学, 理学部, 助教授 (00045030)
今井 弘民 国立遺伝学研究所, 細胞遺伝, 助教授 (10000241)
伊藤 嘉昭 名古屋大学, 農学部, 教授 (50115531)
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研究期間 (年度) |
1989 – 1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
9,100千円 (直接経費: 9,100千円)
1990年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
1989年度: 7,100千円 (直接経費: 7,100千円)
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キーワード | 社会性昆虫 / ハチ / アリ / シロアリ / 家族性ゴキブリ / 社会行動 / 染色体調査 / 巨大巣集合 / 09Huge nest aggregation |
研究概要 |
本研究は、ハチ、アリ、シロアリなどの真社会性昆虫の社会性の進化のル-トおよびそのメカニズムを考察するために、これらの原始的な種類を多数かかえているオ-ストラリアにおいて生態学的・分類学的な調査を行ったものである。昭和61年度より63年度にかけての第一次調査に引き続いて平成1年度と2年度に第二次調査を行った。なお、平成2年度は全体の総括作業に重点をおいた。以下、一連の研究成果の概要を各昆虫群ごとに記述する。 (1)狩りバチ類に関しては、特にチビアシナガバチ属の5種の社会構造および社会行動の比較研究を行った。その中で特筆すべき発見は、Ropalidia pleianaにおけるコロニ-増殖法であり、これは創設直後に巣を分割して行うという特異的なものである。このような増殖法に関しては、従来は社会性昆虫においてまったく知られていなかったものであり、国際的に大変注目された。このハチは、橋や岩の下に数百にもなる巨大な巣集団を形成する。それらは極めて密な集団であるのだが、個々の巣は独立した存在で、それぞれを占有しているメスたちは、別の巣に移ることはほとんどない。そこで、このような特異的な営巣様式の適応的な意味を知るために、一つの巣集団の中の個々の巣の生存率と繁殖メスの生産率を継続調査した。すると巣の生存率は極めて高く、古い巣、新して巣ともに90%にも達していた。そして、1コロニ-・サイクルの間における繁殖メスの数は11倍にも増加していた。本種におけるこのような巣集団の形成様式は、高い増殖率を実現させる上でたいへん有利であると考察された。 (2)アリ類に関しては、系統学的な観点から重要ないくつかの下等な種類を取り上げて研究した。キバハリアリ類は世界でオ-ストラリアのみにしかいない興味深いものであるが、各地のトビキバハリアリを調査した結果、極めて特異的な染色体多型が発見された。このアリは、従来はただ1種のみと考えられていたのであるが、染色体、形態、生態の面からいくつかの新種に分けられるべきものであり、染色体進化と種の分化との関係の問題に大きな手掛かりを与えてくれるものとして、重要なものであることが分かった。生態学的な調査としては、キバハリアリの1種であるMyrmecia brevinodaの巣を堀り、その全コロニ-を調べあげた。全部で257匹のワ-カ-がいて、それらは体の大きさの大小2型を示しており、小ワ-カ-は巣の下部の方に、大ワ-カ-は上部の方に多く分布していた。そして、小ワ-カ-は主に内部で巣作りを、大ワ-カ-は外部に出て狩猟・防衛・巣作りなどを行っていることを見つけた。一方、シロアリの塚の中に生息している8種のアリ類の調査をし、それらとシロアリ類の生態学的な関係を考察した。これらのアリ類は、塚を作るシロアリに対して大きな捕食者であるIridomyrmex sunguineaに立ち向って攻撃する。そのために結果として、これらのアリとシロアリの間には、相互扶助的な共生関係が成立していると考察された。 (3)シロアリ類に関しては、生態学的な調査として、山地熱帯多雨林におけるシロアリ群集の種類組成、生活様式、個体群密度、現存量などを調べた。全部で6種のシロアリが発見されたが、そのうち5種は下等なもので、東南アジア、アフリカ、南アメリカなどの熱帯多雨林でのシロアリ群集と比較すると、オ-ストラリアにおいては種類が極端に少なく、特に下等な種の割合が高いことが他の地域とは大きく異っていることが分かった。 (4)ゴキブリに関しては、シロアリ類の真社会性の起源を考察するため、それらの祖先的な生活をしていると考えられる食材性のオオゴキブリ属について調査を行った。全部で4種に関してコロニ-の組成について詳しいデ-タを取ったが、いずれも親と子が共存している家族を形成していた。そして、その親子関係は長期間続くものと考えられる。一方、従来その野外生態がほとんど知られていなかったヨロイモグラゴキブリの調査を行い、その生活様式が詳細に明らかにされた。このゴキブリは地中に営巣して家族を形成し、その生息密度の大きさ、体が巨大なこと、リタ-食者であることを考えると、社会進化を考える上で大変注目されるものであった。
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