中国における農業生態空間の展開と人の移動に関する歴史的研究

• 研究課題/領域番号: 01041048
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 古川 久雄 (1990-1991) 京都大学, 東南アジア研究センター, 教授 (00026410); 桜井 由躬雄 (1989) 京都大, 東南アジア研究センター, 助教授
• 研究分担者: 桜井 由躬雄 東京大学, 文学部, 助教授 (80115849) ; 梅村 坦 立正大学, 教養部, 教授 (90124289) ; 森安 孝夫 大阪大学, 文学部, 助教授 (70157931) ; 片山 剛 大阪大学, 文学部, 助教授 (30145099) ; 浜島 敦俊 (濱島 敦俊) 大阪大学, 文学部, 教授 (40012976) ; 河野 泰之 京都大学, 東南アジア研究センター, 助手 (80183804) ; 阿部 健一 京都大学, 東南アジア研究センター, 助手 (80222644) ; 山田 勇 京都大学, 東南アジア研究センター, 助教授 (80093334) ; 海田 能宏 京都大学, 東南アジア研究センター, 教授 (00026452) ; 高谷 好一 京都大学, 東南アジア研究センター, 教授 (90027582) ; 楊 直民 北京農業大学, 図書館, 館長 ; 彭 直民 華南農業大学, 副研究員 ; 游 修齢 浙江農業大学, 教授 ; 陳 文華 江西省社会科学院, 歴史研究所, 副所長 ; CHRISTIAN Da 就実女子大学, 文学部, 講師 ; 都出 比呂志 大阪大学, 文学部, 教授 (90025065) ; 福井 捷朗 京都大学, 東南アジア研究センター, 教授 (10027584)
• 研究期間 (年度): 1989 – 1991
• 研究課題ステータス: 完了 (1991年度)
• 配分額: 21,000千円 (直接経費: 21,000千円); 1991年度: 8,000千円 (直接経費: 8,000千円); 1990年度: 7,000千円 (直接経費: 7,000千円); 1989年度: 6,000千円 (直接経費: 6,000千円)
• キーワード: 農耕文化伝播 / オアシス潅漑農耕 / 湿地型穀作の水稲 / オルドス青銅器 / 騎馬遊牧 / 百越・百濮の南遷 / 新石器中期の草原化 / ドンソン文化 / タリム盆地シンクホ-ル仮設 / オアシス農耕 / 遊牧ベルト / 農耕遺跡 / 雲南の焼畑 / 中華人民共和国 / 東南アジア / 農業発展史 / 人口動態 / 商品作物栽培 / 農業生態空間 / 農業史区分 / 稲作起源

研究概要

本研究は従来の中国農業史研究が文献学の枠内でややもすれば訓詁学的に行われて実体のふくらみに欠けることに対し、フィ-ルド調査方法を優先し、生態環境への農業適応の状況、人間の移動と農業地域の展開を横軸にとり、ユ-ラシアの農業伝播と展開、中国社会の動・静の脈動と農業拡散を縦軸にとり、より動的、実体的に中国農業史を把握しようとしたものである。
調査は平成元年から3年度迄行われた。元年度は訪中中止の事態の為に、アジア穀作の二つの両極要素である乾燥地帯の穀作農業をイラン・イラクにおいて、湿地稲作をメコンデルタにおいて調査した。平成2年度は中原と華南において広域調査を、四川、広東、福建において定着調査を実施した。華南の広域調査では生態的、農耕文化的に東南アジアとの関係が深い稲作に焦点をあて、タイ・ラオス・ベトナム・ビルマへのチベット系民族による稲作拡散、島嶼部へのモン・クメ-ル系民族による稲作拡散を想定しうる技術、民族資料を収集した。中原では漢代稲作を陂潅漑の展開としてとらえた。定着調査では四川の都江堰潅漑網の成立過程を中原技術と在地技術の融合過程として把握する視点を提出した。福建では中国糖業技術の東南アジアへの拡散状況と明清時代の中国から東南アジアへの移民の動きを重ねる視点を提出した。広東では珠江デルタの口碑、文献資料を収集し、デルタの開発史を商品作物栽培の展開から跡づけた。
平成3年度は新彊と内蒙古で広域調査を、雲南と広東で定着調査を行った。新彊と内蒙古はそれぞれ、オアシスル-ト、草原ル-トとして東西文化交流に重要な役割を果たしてきた地帯であり、ユ-ラシアの農業伝播の幹線路である。オアシスと草原は先史時代から密接な人的及び文化的すり合わせを行いながら相補的に発展してきた。両者融合の状況はオルドス以西、甘粛、新彊に今も明瞭であり、前3千年紀の青銅器時代のオルドス青銅器文化は先史時代におけるオアシス農耕と牧畜複合の明瞭な証左である。雲南の定着調査は東南アジアへの農耕伝播の中継形態としての焼畑を調査し、また盆地底における潅漑水田の系譜を華北潅漑思想の侵入と結びつける資料を探索した。広東珠江デルタの調査は前年度にひき続く資料収集を行った。
本調査から得られた主要な仮設を以下に列挙する。
1.中国の砂漠と四川盆地は中世代含塩岩類の溶食によるシンクホ-ルである。
2.蒙古平原の草原地帯は新石器時代中期(半坡期)以降、人工的に作られた人工景観である。新石器早期には落葉広葉樹を主体とする落葉林帯であった。
3.新石器時代早期の華北おけるアワ・キビ農耕は西アジアのオアシス潅漑麦作の刺戟伝播によるものである。オアシス潅漑農耕は河西回廊を進んだが、関中、華北平原において天水依存型に変わった。
4.揚子江中下流域にアワ・キビ農耕の影響で水稲作が始まった。その立地は感潮湿地、云梦の内水氾濫帯が想定されるが、素早く漢水上流域の谷底湿地にも侵入した。
5.甘粛以西の彩陶は西アジアに至る迄、ジョッキ型容器、精巧なラセン紋をもつ壷型土器など類似性が高く、魚紋の多い、半坡の彩陶と系統が異なる。半坡期、甘粛を境として異なる民族グル-プの対峠があった。小区画潅漑耕作がこの時期には関中に迄入った。
6.竜山期には麦作が華北に拡大した。
7.青銅期時代に入って騎馬遊牧が現れ、牧畜民は強大な軍事力をもつ。オルドス青銅器、ルリスタン青銅器は騎馬遊牧勢力のユ-ラシア東西両端の文化を示す。この一部は雲南に入り石寨山文化を創り、紅河を下ってドンソン文化を作る。同時に穀作が東南アジア大陸部に広がる。
8.春秋戦国期には華南の百越、百濮が稲作をもって島嶼部へ拡散する。ドンソン青銅器による交易も始まる。他方、百越、百濮の装飾模様は華北や内蒙古へも伝えられる。

研究成果

• [文献書誌] 古川 久雄: "マライシアの農耕系譜" 東南アジア研究. 29(3). 235-305 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 都出 比呂志: "日本古代の国家形成論ー前方後円墳体制の提唱" 日本史研究. 343. 35-75 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 浜島 敦俊: "民清江南城隍考(中文)" 中国社会経済史研究. 1. 39-48 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 森安 孝夫: "ウイグル=マニ教史の研究" 大阪大学文学部紀要. 31,32. 1-248 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] クリスチァン・ダニエルス: "雲南省西双版納の製糖技術と森林保護" 就実女子大学史学論集. 5. 233-302 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 古川 久雄: "インドネシアの低湿地" 勁草書房, 1-258 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 古川 久雄(矢野 暢 編): "『講座・東南アジア学1巻 東南アジア学の手法』中「農耕の伝播と適応」" 弘文堂, 49-71 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 高谷 好一: "コメをどう捉えるのか" 日本放送出版協会, 1-226 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 浜島 敦俊: "民清江南城隍考補考" 汲古書院, 1-150 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 渡部 武: "画像が語る中国の古代" 平凡社, 1-282 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 古川 久雄: "ユ-ラシアの農耕伝播と展開" 京大東南アジア研究センタ-, (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 山田 勇: "熱帯アジアの多雨林世界" 創文社, 1-422 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Hisao FURUKAWA: "Genealogy of Agriculture in Malaisia" Southeast Asian Studies. 29(3). 235-305 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Takao MORIYASU: "Bulletin of Faculty of Letters of Osaka University" Hisitory of Mani in Uighur. 31, 32. 1-248 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Atustoshi HAMASIMA: "Reflections on castle Guardian of Jan-nan in Min Chin Period" Journal of chinese Social and Economic History. 1. 39-48 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Christian Daniels: "Sugar Making and Forest Conservation by Thai Ethnic Groups of Sip Song Pan Nah, Yun-Nan" 5. 233-302 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Hisao FURUKAWA: Keisso Publishing Co.Coastal Wetlands of Indonesia, 1-258 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Hisao FURUKAWA: Kobundo. Dispersal and Adaptation of Agriculture in Methodology of Southeast Asian studies, edited by YANO TORU, 49-71 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] 古川 久雄: "マライシアの農耕系譜" 東南アジア研究. 29(3). 235-305 (1992)
• [文献書誌] 森安 孝夫: "ウイグル=マニ教史の研究" 大阪大学文学部紀要. 31,32. 1-248 (1991)
• [文献書誌] 梅村 坦: "中国歴史博物館蔵吐魯番考古紀所集回鶻文古文献遇眼録" 中国社会経済史研究. 1. 157-163 (1991)
• [文献書誌] 古川 久雄: "インドネシアの低湿地" 勁草書房, 1-258 (1992)
• [文献書誌] 高谷 好一: "コメをどう捉えるのか" 日本放送出版協会, 1-226 (1990)
• [文献書誌] 山田 勇: "熱帯アジアの多雨林世界" 創文社, 1-422 (1991)
• [文献書誌] 福井 捷朗・河野 泰之: "「陂」による漢代の稲作" 『農耕の技術』.
• [文献書誌] 山田 勇: "中国南部の林地利用と森林破壊の史的展開" 『森林文化』.
• [文献書誌] 高谷 好一・古川 久雄 他.: "『アジアの農業史』"