研究概要 |
本研究プロジェクトの目的は,北半球温帯圏において最も日本列島の暖温帯要素・冷温帯要素と類縁関係の深い植物群が数多く分布・生育する北米大陸の東岸と西岸の両地域を選び,これらの第3紀周極要素の生育環境,群落,生態分布を解析すると同時に,構成要素のうち特にアジア関連植物の200種余りを選び,その生活史特性に関する詳細な研究を行うと同時に,これらの植物群の類縁関係を,変異の集団解析や細胞分類学的な手法のみならず,酵素タンパクの多型や分子レベル(DNA)の新たな解析法の導入を計って研究することにある。 研究成果 1.目的とした生品材料植物の採集は,単子葉・双子葉併せて54属,135種,シダ植物は15属35種と,ほぼ当初の目的は達成することができた。単子葉植物は,エンレイソウ属32種,チゴユリ属亜属Prosartes全5種,ユキザサ属3種,マイヅルソウ属2種,ツバメオモト属全4種,アマドコロ属2種,Uvularia属3種,Helonias属1種(ショウジョウバカマ属に近縁),Chamaelirium属(シライトソウ属に近縁)1種,カタクリ属6種,Scoliopus属2種,Medeola属1種,ネギ属3種,リシリソウ属1種,ユリ属6種,バイモ属2種,イワショウブ属1種,タケシマラン属1種,Calochortus属2種,ミズバショウ属1種,テンナンショウ属2種,ヒガンバナ科3種,コウヤザサ属1種,双子葉植物は,トチバニンジン属1種,カンアオイ属2種,ナンブソウ属1種,ルイヨウボタン属1種,イワナシ属1種,ノブキ属1種,ケマンソウ属4種,ミヤオソウ属1種,Vancouveria属2種,ツルアリドウシ属1種,スハマソウ属1種,ルイヨウショウマ属2種,オウレン属1種,ミツバ属1種,チャルメルソウ属1種,ズダシャクシュ属1種,アラシグサ属1種,ハエドクソウ属1種,モミジカラマツ属1種,ヒトリシズカ属1種,ノコギリソウ属1種,ノコンギク属1種を含む合計54属である。 2.これらの植物群のうち,生活史特性がほぼ完全に解析できたのがエンレイソウ属の30種で,この他同じくエンレイソウ科(狭義)のScoliopus bigeloviiとScoliopus halliiに関してもデ-タの集約が終了し,すでに論文として投稿中である。同じくエンレイソウ科のMedeola,ユリ科のUvularia属の3種U.grandiflora,U.perfoliata,U.sessilifoliaに関しても現在,生活史諸形質の解析とアイソザイムの分析が鋭意進められている。 3.チゴユリ属Prosartes亜属の5種の染色体数,核型,休止期の核の形態が詳細に観察されたが,その結果,北米産のこれら5種すべてが染色体基本数,中期染色体の相対長,休止期の核の形態など,すべての点でアジア産の種群と明瞭に異なり,別属とみなすのが妥当であるとの結論に達した。この結果は,後述するクロロプラストDNAのRFLP分析の結果ともよく一致し,分子系統学的解析法の有効性が証明された。現在,rbcL遺伝子のsequencingが進められており,その結果が期待される。 4.ここ1〜2年間における分子系統学的解析法の急速な進歩によって,上述した生品材料のうち,ユリ科,エンレイソウ科,サトイモ科の主だった植物群に関してはクロロプラストDNA(cpDNA)のRFLP解析,rbcL遺伝子の構造解析と種間および属間の類縁関係の解析が可能となった。特に,生活史特性の解析が進んでいるエンレイソウ属と,その他の近縁属のcpDNAの解析によって,グル-プ間の類縁関係の解析はもとより,生活史特性の進化がどのようなtempoとmodeで進んで来たかを評価できる重要な知見が得られたことになる。この他,ユリ科のアマドコロ連,ショウジョウバカマ連に関しても,各分類群の類縁関係と進化的距離を推定する上で極めて重要な知見が得られつつある。サトイモ科に関しても属間の類縁,種間の類縁を評価する上で重要な新事実が得られつつある。 5.温帯性のシダ植物は,オシダ,シシガシラ,イノデ,の各属で,葉の脈理の発達,地理的変異の解析が進められている。 6.調査地域の環境,群落,種の生態分布等に関しては別途集約が進められている。將来,さらに分子的解析法を導入した集団解析を進める上でも,重要な基礎的知見となるであろう。
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