研究課題/領域番号 |
01041059
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野澤 謙 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (40023387)
野沢 謙 京都大, 霊長類研究所, 教授
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研究分担者 |
川本 芳 名古屋大学, 農学部, 助手 (00177750)
渡辺 毅 椙山女学園大学, 人間関係学部, 教授 (20027494)
松林 清明 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (50027497)
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研究期間 (年度) |
1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
5,400千円 (直接経費: 5,400千円)
1989年度: 5,400千円 (直接経費: 5,400千円)
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キーワード | カニクイザル / モ-リシャス島 / 内部寄生虫相 / 血液性状 / ウイルス抗体検査 / 血液蛋白多型 / 集団遺伝 / ボトルネツク効果 / 生体計測 / 体重歯牙萌出 / 成長加速 |
研究概要 |
1989年10月1日より31日にかけて、モ-リシャス島に生息するカニクイザルの捕獲調査を行なった。調査内容は、血液性状、糞便内虫卵検査、ウィルス抗体検査などを含む臨床獣医学的調査と生体計測による形態学的調査および集団遺伝学的調査である。以下に各個の概要を記す。 1.臨床獣医学的調査 内部寄生虫相、ウィルス抗体保有状況の検索は、サンプルを固定ないし凍結して持ち帰り、現在進行中である。血液性状に関しては、赤血球数、白血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値などでおおむね正常値の範囲内にあり、良好な健康状態を示唆している。モ-リシャス産のサルは、サトウキビを常食することから糖尿病の疑いがある個体が見られたとの報告があるが、血糖値やテステ-プによる尿糖試験ではいずれも陰性であった。 2.形態学的研究 41項目の生体計測デ-タと歯牙萌出状況のチェックを行なった。調査個体数は115であり、新生児から成体まですべての年令層の資料が得られた。詳細な分析は今後に残されているが、形態特徴の概要を以下に記す。 (1)毛色や毛束にみられる特徴は、ジャワ島のカニクイザルに類似している。 (2)永久歯全萌出の個体でみると、メスの体重は最低3.1kg最高4.6kg,オスの体重は4.9〜8.1kgの幅の中にある。 (3)歯牙萌出状況と体重の関係でみると4才で永久歯列が完成すると推定される。第3大臼歯未萌出のメスの妊娠例があり、初産年令は3才であろう。一般的にみて成長が早い印象を受けた。 3.集団遺伝学的調査 モ-リシャスに導入されたカニクイザル集団の遺伝的特異性を調査するため、島内で捕獲し、出自の明確な201個体より血液を採取し、電気泳動法を用いてタンパク多型を分析した。血液タンパクを支配する遺伝子を標識に用いて【○!1】モ-リシャスの集団が遺伝的にどれくらい純化されているか、【○!2】東南アジア原産地のいずれの地域に起源するか、【○!3】島内での局所的分化の進行が認められるか、の三点について検討した。 27種類の血液タンパクの合成を支配する31遺伝子座の変異を電気泳動法を用いて検索した結果、5遺伝子座に多型が検出された。また、モ-リシャス集団に認められた変異性はいずれもこれまでの東南アジア原産地集団の調査で既に発見されているもので、他地域には見いだされていない固有の変異型と判定されるものはひとつもなかった。 集団中の遺伝的変異性を測る多型座位の比率(Ppoly)は16%、平均ヘテロ接合率(H^^ー)は6.5%と推定された。東南アジア原産地の集団と比べるとモ-リシャス集団の遺伝的変異性のレベルは低いことから、島への導入、隔離により遺伝的均質化が進んでいることが予想された。また、PpolyとH^^ーの比較から、限られた数の遺伝子座だけが高度の多型状態にある傾向が認められた。隔離に伴う遺伝的浮動の初期相を反映したものと考られた。 モ-リシャス集団に検出された変異遺伝子の出現頻度は他地域で求られている値と相違を示した。隔離後の遺伝的浮動の影響で、集団の遺伝子構成は導入個体を供給した原産地集団の遺伝子構成から変化した可能性が考えられる。一方、検出された遺伝子の変異型の有無を他地域と比較した結果からモ-リシャス集団の起源を推定すると、祖先はインドシナ半島から大スンダ列島に及ぶ地域に由来する可能性が示唆され、小スンダ列島、フィリピン出自の個体が関与するとは、考えにくいと判断された。 また、今回分析対象としたサルをその捕獲地点で分類し、島内に生息する集団間の地域的な分化について検討した結果では、島集団の分節化を強く支持する証拠は得られなかった。しかし統計的に有意ではないものの、ホモ接合体の観察頻度が任意交配を仮定した場合の期待値よりも多い傾向が認められ、ランダムに個体が交配するような一つの大きな繁殖系を島の集団全体で形成するとは断定できなかった。
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