研究概要 |
1.研究の目的:日本以外では報告されていない好気性光合成細菌が日本以外でも存在するかどうかを調べるために,オ-ストラリア沿岸の数ヶ所を選んだ。この理由は,日本の好気性光合成細菌は海洋細菌が多いからである。 2.研究の方法:海水・藻類などを採集し,減菌海水でホモジナイズし,10倍段階で希釈後,0.1mlを寒天培地にまいて25℃10日間暗所で生育させ,着色コロニ-をピックアップして純粋培養する。純粋培養液からバクテリオクロロフィル(Bchl)を抽出し定量する。光化学反応の測定は生菌又は細胞無抽出液を用いて通常の方法でおこなった。海水の塩濃度はサリノメ-タ-を用いて測定する。 3.研究の結果:(1)分布:オ-ストラリアの東西南北の主要な都市の近郊沿岸で採集をおこなった。具体的地点は,ダ-ウィン近郊,アデレ-ド近郊,タスマニア島,シャ-ク湾,パ-ス近郊,タウンズヒル近郊,ブリスベン近郊である。アデレ-ド近郊を除き,すべての地点で,海藻,海草,ストロマトライト,その附着物,海水,砂などから高い瀕度(全従属栄養細菌の %,多い時には約50%に達した。ストロストライトは高い塩濃度に生育しているが,このストロマトライトにも高瀕度で存在した。しかしスポンジやサンゴ礁には存在しなかった。さらに,アデレ-ド附近の内陸の塩湖にも存在しなかった。オ-ストラリア海洋研究所の採集地点では夏と冬に標品を採集できたが,冬の季節で藻類の種類が多く生長中の標品から多数の好気性光合成細菌が採集された。 東海岸に比べ西海岸での出現瀕度が著しく高かった。この原因については明らかではないが,西海岸の採集地点の塩濃度が高く,好気性光合成細菌は高濃度に適していることも考えられる。 アデレ-ド近郊では全く採集できなかったが,この原因についても不明である。平成2年に,南オ-ストラリアに大雨が降り,このため大量に淡水が沿岸に流れ出し,沿岸の塩濃度を著しく低下させた。我々もこのことを実測しているので,低塩濃度のため当該菌が一時的に死滅したとも考えられる。 (2)生理・生化学的特性:単離された菌は約300株であるが,すべてオレンジ又はピンク色を有していた。生菌の吸収スペクトルは370,590,800,850〜870nmにBchlのinvivoの吸収帯を示し,500nm附近にカロチノイドに由来するバンドを示した。Bchlの含量は高々1nmol/mg乾燥菌体であり,これは日本で発見された好気性光合成細菌の場合の1/3〜1/5である。オ-ストラリアの菌は一般にBchlの含量が低いのが特徴である。このことは好気性光合成細菌はより好気的環境に適応しつつある紅色非イオウ細菌てあるという仮説の傍証である。ほとんどすべての株は嫌気的条件下で光合成的に生育は出来なかった。暗所で好気的に生育した生菌,または無抽出物は,好気的条件下でのみ,光化学活性,たとえば反応中心やチトクロ-ムの可逆的光酸化反応を示した。いくつかの株は脱窒反応を示した。またそれぞれの株が暗所で最適な塩濃度で生育することが示された。 結論的にまとめるならば,オ-ストラリアの沿岸には日本で発見された好気性光合成細菌と極めて類似した菌が高瀕度で存在していた。今後すべきことは,これらの株のリボゾ-ムRNAの塩基配列を調べて,糸統分類学的位置づけをおこなうことであろう。
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