研究分担者 |
ペラルタ J.T. フィリピン国立博物館, 人類学部, 部長
ホカノ L.F. フィリピン大, エイシャンセンター, 教授
エバンヘリスタ A.E. フィリピン国立博物館, 副館長
玉置 泰明 東京都立大学, 人文学部, 助手 (90192640)
清水 展 九州大学, 教養部, 助教授 (70126085)
片山 裕 岡山大学, 教養部, 助教授 (10144403)
亘 純吉 文化女子大学, 短期大学部, 助教授 (60099546)
菊地 京子 津田塾大学, 学芸学部, 助教授 (10161415)
佐々木 宏幹 駒沢大学, 文学部, 教授 (30052426)
村武 精一 青山学院女子短期大学, 教授 (70086924)
JOCANO LANDA F. University Of The Philippines
PERALTA JESUS T. National Museum, The Philippines
EVANGELISTA ALFREDO E. National Museum, The Philippines
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研究概要 |
本研究は,複合民族国家のダイナミズムを理解する上で,宗教観が果たす基本的な役割をより明確にすることを目的とする.フィリピン共和国では,1986年2月の政変以降の展開された「フィリピン的民主主義」のもとで,新たなる社会的統合(国民統合)が積極的に展開されつつある.この過程で宗教的・霊的な思考様式を背景とする社会的・文化的諸問題が常に浮上し,宗教的多次元性が民族間の対立と相互依存関係に深く関わり続けている.このように,フィリピン国民形成の基層に関わる諸問題は,宗教的・社会的状況を踏まえた上で論議を深化させなければならない. フィリピン社会全体は,社会の面で高度の整合性をもった性格のものでなく,きわめて緩やかな人間関係や社会関係の上に,多次元的な宗教観や価値観が加わって独自の社会的性格をかもしだしている.こうした緩やかな社会的統合に基本的な方向性を与えているものとして宗教意識とその受け皿である彼ら本来の価値体系とがあることが指摘できる.フィリピンでは,16世紀以来のカトリシズムが伝統的なアミニズムの世界と,6,7世紀以来のイスラミズムの世界とに深くかかわり,国民形成の状況をますます複雑にしているつまり,伝統的な東南アジア的宗教観に対し,中近東からのイスラム的宗教観および西欧世界からのカトリック的宗教観とが大きく影響し,その結果フォ-クカトリシズムまたはフォ-クイスラミズムと言われる宗教的状況を生み出している.他方,フィリピン社会においても,はやくから華人が移動定着し,文化の様々な側面に大きな影響を与えてきた.現在フィリピンでは,華人社会は建前としてはおおくがカトリシズムを信仰しているが,その根底には民間道教あるいは儒教倫理と交流する性格をたぶんに保持している.この様な複雑な宗教的・社会的状況のなかで,フィリピン国民形成は多様な側面を抱えながら進行している. 各研究分担者は,宗教人類学的および社会人類学的な方法と視座から文献資料の分析もさることながら,現地調査による資料収集と分析を基本的方法として,フィリピン人の国民・国家意識および宗教観の実態を研究した. 研究成果は,現在編集中の調査報告書に,その詳細がゆだねられるが,研究報告会やシンポジュムなどで行われた議論の結果は,次の通りである. (1) 政変後にみられる政治行動様式と国家意識は,都市部と周辺農村部とも「ウタン・ナロブ(恩)」「パキキサマ(義理)」に代表されるフィリピン社会の価値観が政治行動に強く反映し,国家意識に先行すること. (2) 国家レベルの国民形成運動は,伝統的な社会・政治関係であるパトロン・クライエントとネポティズムが錯綜した社会的な価値規範の前に,私的なレベルの問題として取り扱われる傾向があること. (3) 華人社会は,総人口の3%を占めるに過ぎないが,フィリピン経済の80%を支配すると言われている.その結果,富の社会的還元を,無償医療などの形で寺院を中心に行い,民族的共生を打ち出しつつ,華人社会の権益の保護はかっている.フィリピン国民としての意識よりは,伝統的華人社会にみられるような同郷,同姓にアイデンティテ-をおく傾向が強い. (4) ミンダナオ島では,第2次世界大戦後,イスラム社会にキリスト教民の移住はじまり,今日ではモザイク状の棲み分けがみられキリスト教民との対立が激しく,国家意識としての「ピィリピノ(フィリピン人)」より,「イスラム」の意識を強く表出させる.TV,映画などのマスメディアによるタガロク語や物質よるフィリピナイゼションを拒否する側面がある. (5) 政治がすすめる国民統合に対して,文化的にもっとも遠い距離にあるのが少数民族である.彼らの諸文化の動態的な維持・統合は,政治的・経済的フィリピナイゼイションの前に困難である.その結見すると,共生関係にある多数民との関係は,国民統合の過程で強制的な文化統合の側面をもつ.
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