北極圏における雪氷コアによる比較氷河観測

• 研究課題/領域番号: 01041101
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 国立極地研究所
• 研究代表者: 渡辺 興亜 国立極地研究所, 研究系, 教授 (60111861)
• 研究分担者: WOLD B. ノルウェー水資源局, 主任 ; THOMSEN H.H. グリーンランド地調査所, 研究員 ; 河村 公隆 東京都立大学, 理学部, 助教授 (70201449) ; HAGEN J.O. ノルウェー極地研究所, 研究員 ; 中沢 高清 東北大学, 理学部, 助教授 (30108451) ; 青木 周司 国立極地研, 研究系, 助手 (00183129) ; 佐藤 和秀 長岡工業高等専門学校, 助教授 (80113398) ; 和泉 薫 新潟大学積雪地域災害研究センター, 助教授 (50114997) ; 川田 邦夫 富山大学, 理学部, 助手 (20019003) ; 神山 孝吉 京都大学, 理学部付属地球物理学研究施設, 助手 (70135507) ; 成田 英器 北海道大学低温科学, 研究所, 講師 (20001662) ; 庄子 仁 富山大学, 理学部, 助教授 (50201562) ; 西尾 文彦 北海道教育大学, 釧路分校・教育学部, 教授 (40044789) ; 藤井 理行 国立極地研究所, 研究系, 助教授 (20125214) ; CLAUSEN H University of Cophenhagen, Geophysical Institute
• 研究期間 (年度): 1989 – 1990
• 研究課題ステータス: 完了 (1990年度)
• 配分額: 12,000千円 (直接経費: 12,000千円); 1990年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円); 1989年度: 10,000千円 (直接経費: 10,000千円)
• キーワード: 北極地域 / グリ-ンランド氷床 / 氷床コア解析 / 気候変動 / 環境変動 / 酸性雨 / 小氷期 / 火山活動シグナル

研究概要

1.平成元年度において、グリ-ランド氷床南部の北緯60度51.9分、西経46度15.9分の地点(Site J)において、夏季(5月〜7月)に氷床コア掘削を実施し、深さ101mおよび205mの二本の雪氷コアを採取した。また現地の、掘削地点付近において降雪および積雪の観測と雪試料の採集を行った。得られた雪氷コアおよび降・積雪試料について、現地で層構造解析、電気伝導度測定、pH測定および物性測定の一部を行うとともに、雪氷コアの一部を融解水試料としてまた一部を凍結した状態で国内に持ち帰り、さらに詳細な化学、同位体分析および構造・組織解析を行った。次にこれまでに得られた結果を示す。
2.表面層の層構造、酸素同位体組成(δ^<10>0)、トリチウム濃度および鉛210存在量の分析から、最近の堆積速度が推定された。結果は0.38〜0.40m/年の範囲でほぼ一致した。また205m深までのコア年代については直流固体電気伝導度のプロファイル解析からいくつかの火山シグナルが検出され、これまでにグリ-ンランド氷床の各地より得られた雪氷コアとの対比から、86.9mにTambora(1815年)、102.8mにLaki(1783年)が確定し、若干の不確かさが残るが195.3m深のRaudubjallar(1554年)が推定される。こうした年代による平均堆積速度(1783年ー1988年)は0.39m/年であり、表面層で推定された値とほぼ一致している。これらの結果が正しければ得られた205mコアは過去435年の積雪層ということになる。
3.Site Jの205mコアについての酸素同位体組成と夏の気温特性を示すと考えられる融解氷量比(MFP比)(コア中ではシ-ト状または柱状の氷として存在する)との関係が検討された。その結果、深さ約78mと150mにMFPの極小値が、深さ56m、100mおよび155mに極大値があらわれることがわかった。この変動は酸素同位体組成(δ^<10>0)の気候変動特性(より寒冷な気候ではより小さなδ値を示す傾向)とよく相関することがわかった。これらの結果を2項で述べた年代と対応させると西暦1690年付近および1840年項に小氷期(Little Ice Age)の中心があったことを示していることになる。
4.最近の地球の環境変動(降水の酸性化、オゾンホ-ルの形成、地球温暖化)に関連して、過去400年の極域降水の化学組成の変動を解析した。解析項目は雪氷コア全層に対する固体および融解試料に対する電気伝導度測定およびpH測定、化学分析項目としてはSO_4、NO_3、Na、Cl、Kなど海塩起源物質、人為生成物質である。これらいずれの分析項目物質についても1990年代初頭からの急激な増加(例えばSO_4濃度では1500〜1900年間の25ng/mlから1980年代の180ng/mlと6〜7倍の増加)が認められた。NO_3では50ng/mlから150ng/mlと3倍の増加を示し、自然現象ではなく、人為的な酸性化物質の大気への多量放出、降水としての沈積が生じた事を示している。その結果、産業革命以降の降水のpHは5.3から5.15に変化し、酸性度が2倍になったことを示している。新しい試みとしてSite Jコア中の有機成分、特に低分子ジカルボン酸その他の分析を行った。その存在量の変動の傾向としてはこれまでに解明されている気候および環境変動と直接結びつけ得る微候はような様子はみられないが、変動そのものに何らかの傾向があり、その解明は今後の課題となっている。
5.今回の総括研究ではこれまでに行われたコア解析結果の相互関係を検討し、氷床コア中から検出された物質の、変動傾向の発現機構について気候および環境変動との関係から解析した。今後の課題として、北極域という地域の環境特性(特に海洋ー大気ー陸域ー氷床の相互関係)と氷床コア中の物質の存在量、存在比との関係から北極域における物質の流入・沈積機構の解明、環境地域特性そのものの変動の解明にふさわしい観測ネットワ-クを見出すことの重要性が認識された。今後の計画に今回の総括成果を反映していきたい。

研究成果

• [文献書誌] T.Kawamura,T.Kameda: "Preliminaly results of structural analysis of an 85.5m deep ice core retrieves from Hoghetta ice dome" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] H.Shoji,H.B.Clausen,T.Kameda: "Accumulation rate at SiteーJ and Dye2,Greenland" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 藤井 理行: "グリ-ンランド氷床に過去の地球環境を探る" 極地. 50. 35-40 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 渡辺 興亜,西尾 文彦,藤井 理行: "極域の雪氷コアから過去の環境を探る" 日経サイエンス. 108-118 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Suzuki,K.Osada,Y.Fujii: "Dating of on ice core from the Hoghetta ice dome in Spitsbergen by ^<210>Pb analysis" Bulletin of Glacier Research. 9. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Kawamura,O.Yasui: "Organic acids and aldehydes in the ice core samples from the SiteーJ,Greenland" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Kawamura,I.Suzuki: "Lipid class compounds in the Greenland ice core samples ーa preliminary result" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Suzuki,et al.: "Methanesulfonic acid and major ions in the ice core from SiteーJ,Greenland." Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] O.Watanabe,Y.Fujii: "Outlines of the Japanese Arctic Glaciological Expedition in 1987" Bulletin of Glacier Research. 6. 47-50 (1988)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Kameda,T.Kawamura,Y.Fujii,H.Enomoto: "Shapes and distribution of air bubbles in an ice core from Asgardfonna,Spitsbergen" Bulletin of Glacier Research. 7. 221-226 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Kamiyama,Y.Fujii,O.Watanabe,K.Izumi,K.Satow,T.Kameda,T.Kawamura: "Inーsite measurements of electrical conductivity and pH in core samples from a glacier in Spitsbergen,Svalbard" Journal of Glaciology. 35. 292-294 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Kawamura,et al.: "Glaciological characteristics of cores drilled on Jostedalsbreen,southern Norway" Proceedings of the NIPR Symposium on Polar Meteorology and Glaciology. 2. 152-160 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] O.Watanabe,Y.Fujii: "Outline of the Japanese Arctic Expedition in 1989 (JAGE 1989)" Bulletin of Glacier Research. 8. 103-106 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Y.Fujii,et al.: "6000ーyear climate records in an ice core from the Hoghetta ice dome in northern Spitsbergen" Annals of Glaciology. 14. 85-89 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] O. Watanabe, Y. Fujii, F. Nishio: "Environmental history revealed from polar ice cores (in Japanese)" Scientific American (Japanese edition). 108-118 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T. Suzuki, K. Osada, Y. Fujii: "Dating of an ice core from the Hoghetta ice dome in Spitsbergen by ^<210>Pb analysis" Bulletin of Glacier Research. 9. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Kawamura, O. Yasui: "Organic acids and aldehydes in the ice core samples from the Site-J, Greenland" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Kawamura, I. Suzuki: "Lipid class compounds in the Greenland ice core samples -a preliminary result" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Suzuki, M. Igarashi, Y. Fujii, K. Kamiyama, O. Watanabe: "Methanesulfonic acid and major ions in the ice core from Site-J, Greenland." Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T. Kawamura, T. Kameda: "Preliminary results of structural analysis of an 85.5m deep ice core retrieved from Hoghetta ice dome" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] H. Shoji, H. B. Clausen, T. Kameda: "Accumulation rate at Site-J and Dye2, Greenland" Bulletin of Glacier Research. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] O. Watanabe, Y. Fujii: "Outlines of the Japanese Arctic Glaciological Expedition in 1987" Bulletin of Glacier Research. 6. 47-50 (1988)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T. Kameda, T. Kawamura, Y. Fujii, H. Enomoto: "Shapes and distribution of air bubbles in an ice core from Asgardfonna, Spitsbergen" Bulletin of Glacier Research. 7. 221-226 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Kamiyama, Y. Fujii, O. Watanabe, K. Izumi, K. Satow, T. Kameda, T. Kawamura: "In-site measurements of electrical conductivity and pH in core samples from a glacier in Spitsbergen, Svalbard" Journal of Glaciology. 35. 292-294 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T. Kawamura, Y. Fujii, K. Satow, K. Kamiyama, K. Izumi, T. Kameda, O. Watanabe, S. Kawaguchi, B. Wold, Y. Gjessing: "Glaciological characteristics of cores drilled on Jostedalsbreen, southern Norway" Proceedings of the NIPR Symposium on Polar Meteorology and Glaciology. 2. 152-160 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] O. Watanabe, Y. Fujii: "Outline of the Japanese Arctic Expedition in 1989 (JAGE 1989)" Bulletin of Glacier Research. 8. 103-106 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Y. Fujii, K. Kamiyama, T. Kawamura, T. Kameda, K. Izumi, K. Satow, H. Enomoto, T. Nakamura, J. O. Hagen, Y. Gjessing, O. Watanabe: "6000-year climate records in an ice core from the Hoghetta ice dome in northern Spitsbergen" Annals of Glaciology. 14. 85-89 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Y. Fujii: "Palaeoenvironmental studies on Greenland Ice Sheet Core (in Japanese)" Polar News. 50. 35-40 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より