研究分担者 |
SONGKRAN Chi タイ国農業省, パトンタニ稲研究センター・遺伝資源, 主任
平岡 洋一郎 (佐藤 洋一郎) 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 助手 (20145113)
山岸 博 京都産業大学, 工学部, 助教授 (10210345)
佐藤 雅志 東北大学, 遺伝生態研究センター, 助手 (40134043)
島本 義也 北海道大学, 農学部, 教授 (00001438)
SONGKRAN Chitrakorn Pathum Thani Rice Res. Center, Thailand Lab. Head
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研究概要 |
熱帯アジアの在来イネ品種(Oryza sativa)とその補先野生種(O.rufipogon)の生態遺伝学的調査を行うために,ブ-タンとバングラデッシュの調査旅行を1989年の11月と12月にそれぞれ行った。またこの2回の旅行の機会と翌1990年5月に,タイ・中央平原に私共が設定した『野生イネの定点観測地点』を訪れ,環境条件および野生イネ集団の動態に関する継続調査を行った。 1.ブ-タン ー高度的には世界最高(約2700m)の稲作地帯を持つ点で興味深い調査地であった。今回は西ブ-タンの3つの谷に沿って,谷間の平地と斜面の階段状水田に栽培されている在来イネ集団22地点で調査を行い、158サンプルの種子を収集した。これらの稲に見出された最も大きな特徴は、同一集団内の形態的変異が大きいことで,遺伝的多称性が高いことがうかがえた。特に,脱粒性が高く不稔性のある個体がさまざまな頻度で混在していた。これら「雑草的」イネの起原は明らかではないが,異なる遺伝子型間の自然雑種に由来する可能性も考えられる。採集種子を用いて種子や幼植物に関する調査を行い,さらに栽培実験によって各種形質を調査した。その結果,高度の低い地域ではインド型品種が高度の高い地域では日本型品種が優占していることがわかった。その境界は1500〜2000mの地域であった。高度によるこのようなインド型ー日本型品種のすみわけは、ネパ-ル・中国雲南などの山地稲作地で共通に見出される傾向である。なお,ブ-タンには野生イネの分布は報告されていない。 2.バングラデッシューブ-タンとは対照的にバングラデッシュは,ガンジス・ブラマプトラなどの大河のデルタが拡がり,雨期には国土の大半が水没する。このような深水地帯で栽培可能な唯一の作物である浮稲品種に関する情報と種子の収集が私共の目的であった。また、バングラデッシュの浮稲品種の中には,酵素変異からみて他地域には見出せない(しかし野生イネでは稀ではない)アイゾザイム遺伝子を持つものが報告されているので(Glaszmann 1988)、バングラデッシュにおける野生イネと浮稲との遺伝的接点を探ることが第2の目的であった。主として浮稲栽培地帯と野生イネ分布地を目的として,sylhetーHabiganj,Mymenshin,Khulna 地方への3つ小旅行を行い14地点から96サンプルと(野生イネ30,栽培イネ66)の種子を収集した。他の国々と同称に,在来品種は改良品種に急速に置きかえられつつあるが、浮稲だけは大部分が在来品種であった。ベンガル農民の伝統的な分類法として,イネ品種は作季の異なる3群,Aus,Aman,Boroに分けられている。バングラデッシュでは生育期間の異なる2品種の混播栽培が伝統的に行われており、様々なパタ-ンがあることがわかった。【Aman+Aus】、【Boro+Rayada(生育期間が非常に長いAman)】などは、播種は同時で,生育期間の違いを有効に利用することを目的とする多収穫のための方法と考えられる。従来熱帯低地に分布するイネ品種はインド型であると考えられてきたが,今回のサンプルの中には、日本型品種に特異的に現われるアイソザイム遺伝子が低頻度ではあるが見出された。野生イネとの遺伝的な関係は,調査が終了していないので結論を出すにはいたっていない。バングラデッシュの野生イネには深水水田の中や周囲,またはその近くの池などに分布し,栽培イネの遺伝子移入が著しい。しかし,Habiganj地方の大湿地帯の中で,チョウセンアサガオの大集団の中に点在し栽培イネとは完全に隔離されていると思われる野生イネ集団を発見でき,貴重な種子を得た。 3.タイにおける野生イネの定点観測 ー変動する環境に反応して野生イネ集団がどのような動態を示すかを明らかにし,自生地における保存(Inーsitu preservation)の方法に関する基礎知識を得ることを目的として,1983年に8ケ所の調査地点を設け,継続調査を行ってきた。1991年現在,このうちの4ケ所の集団が絶減かそれに近い状況にある。その4集団はいずれも一年生型で,多年生型あるいは多年生ー一年生中間型は比較的安定した環境に生育している。アイソザイム遺伝子を標識として,集団内の微細な地理的分布を調査中である。
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