「上座部仏教圏における宗教と社会ー東南アジア・雲南・スリランカの比較研究」

• 研究課題/領域番号: 01041109
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 国立民族学博物館
• 研究代表者: 田辺 繁治 国立民族学博物館, 第二研究部, 助教授 (00045262)
• 研究分担者: NIMAL Kastur ペラデニヤ大学, 医学部, 準教授 ; 林 行夫 国立民族学博物館, 第二研究部, 助手 (60208634) ; 長谷川 清 岐阜教育大学, 外国語学部, 講師 (70208479) ; 田中 雅一 京都大学, 人文科学研究所, 助教授 (00188335) ; 高谷 紀夫 広島大学, 総合科学部, 助教授 (70154789) ; 足立 明 北海道大学, 文学部, 助教授 (90212513) ; 渋谷 利雄 和光大学, 人文学部, 助教授 (70196450) ; 田村 克己 国立民族学博物館, 第二研究部, 助教授 (40094156) ; 今村 仁司 東京経済大学, 経済学部, 教授 (60096378) ; NIMAL Kasturiaratch Assistant Professor, Faculty of Medicine, University of Peradeniya. ; GANJANAPHAN アナン チェンマイ大学, 社会科学部, 準教授 ; 浜田 哲也 東京大学, 文学部, 助手 (70189611) ; 佐々木 高明 国立民族学博物館, 第二研究部, 教授 (10031692) ; 伊藤 幹治 成城大学, 文芸学部, 教授 (40044739)
• 研究期間 (年度): 1989 – 1991
• 研究課題ステータス: 完了 (1991年度)
• 配分額: 31,000千円 (直接経費: 31,000千円); 1991年度: 10,000千円 (直接経費: 10,000千円); 1990年度: 11,000千円 (直接経費: 11,000千円); 1989年度: 10,000千円 (直接経費: 10,000千円)
• キーワード: 上座部仏教 / 精霊信仰 / 東南アジア / 雲南 / スリランカ / 宗教と社会変化 / 儀礼

研究概要

最終年度の調査計画では、それぞれの研究分担者がこれまで蓄積された資料をふまえつつ、比較と総括的な視点で専門地域での調査研究に従事することがねらいであった。今回の派遣先である中国、スリランカ、インド、ミャンマ-、タイ、ラオスの各地においては、それぞれの研究主題について集約的調査が支障なく遂行された。
(1)中国(雲南省西双版納および徳宏地区)においては、タイ系民族の仏教年中儀礼と精霊信仰について、地域を異にする貴重な比較資料が収集された。(2)スリランカでは、激動するシンハラ社会を中心に経済開発政策と新仏教運動の台頭、エサラ・ペラヘラ祭と民衆宗教、寺院政策について、それぞれの実態を明らかにすることができた。(3)インドにおいて実施されたヒンドゥ寺院の実態調査では、とくに仏教と国家との関わりにかんする比較デ-タが集められた。(4)ミャンマ-では、首都圏での仏教儀礼と誓願を主とする精霊儀礼について、近年の政治変動下での変容について貴重なデ-タを蒐集することができた。(5)タイでは、開発政策の渦中にある東北部村落での伝統的仏教儀礼の変容と新仏教運動の展開について継続調査が実施されるとともに、守護霊信仰の変容についての資料が蒐集された。(6)ラオスでは、現地研究機関との密接な協力のもとに、各地の村落における仏教サンガ組織、精霊儀礼変化の実態を調査し、比較デ-タを得るとともに映像資料(ビデオ)も蒐集することができた。
最終年度およびこれまで実施されたそれぞれの分担者の専門地域における調査研究を通して得られた知見、および問題点をきわめて概括的に述べるとすれば、以下のようにまとめられるだろう。
(1)上座部仏教、精霊祭祀といった宗教的複合の理解は、その社会で実践されている儀礼と文化的に構成された知識の文脈から明らかになる。
(2)仏教儀礼および精霊祭祀は、現在進行中の都市およびその周辺社会での社会変化に対応して活発化し、変容し続けている。
(3)伝統的に上座部仏教と精霊祭祀は、さまざまなレベルと仕方で政治的権力・権威の正当化と関わっており、それらの変容は新たな形での政治権力の分散化の過程を含んでいる。
(4)仏教であれ非仏教であれ、いくつかの社会で近年活発化している宗教運動は、とりわけ都市の人びとにおいてはみられる経験の多様化と断片化を反映している。
上記のような知見と問題点にもとづく研究成果は、すでに研究分担者がそれぞれのかたちで公表しつつあるが、最終年度の調査をふまえた本調査研究の最終的成果として1992年末に刊行予定の研究代表者編『実践宗教の人類学ー上座部仏教の世界ー』(京都大学学術出版会)においてより広範かつ詳細に論じられることになっている。
三年間にわたる本調査研究活動を総括すれば、次のようになろう。
(1)複数の調査対象国での経験的調査が、現地の研究機関の協力のもとに円滑に行なわれ、社会主義国をもふくめた各国の儀礼、信仰と制度、それらの変容にかんする貴重な民族誌的デ-タを蒐集した。(2)蒐集された資料の比較・分析を通じてグロ-バルな社会変化と宗教の変容過程の視点を抽出することができた。(3)招聘された三人の現地研究者は、それぞれの調査対象国において蒐集されたデ-タを整理するとともに、研究会においてのディスカッションを通じて、各自の問題意識を展開させ、論文を作成・公表するという実質的な成果をあげることができた(上記の書物に翻訳掲載される)。(4)各年度ごとの中間報告をとりまとめるとともに、最終的な成果刊行にむけて、研究分担者がそれぞれにまとめつつある研究成果を公表する総括シンポジウムを実施した(3月11日〜13日於国立民族学博物館)。同シンポジウムには他地域を専門とする内外の研究者が参加し、比較研究の視点から、資料とその分析の視点について活発な討論が行なわれた。そのシンポジウムで得られたコメントをふまえて、研究分担者は現在、最終報告のための原稿を執筆中である。
ただし、(1)については以下のことを付記すべきであろう。本調査研究の当初の計画を変更せざるをえない大幅な予算縮減のために、それぞれの調査期間が相当程度縮小された。その結果、個々の研究主題にそったデ-タ蒐集が、質量ともに必ずしも充分に行なわれたとはいえない。経験的研究におけるより質の高いデ-タを得るために、さまざまな観点からデ-タを検討するための充分な時間が確保できなかったことは否めない。

研究成果

• [文献書誌] 田邊 繁治: "供養を解剖するーアニミズムからイデオロギ-へー" 季刊民族学. 57. 6-19 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 田村 克己: "負のナショナリズムー人類学者が政治を語るための未完成のノ-トー" 民博通信. 54. 60-67 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 田村 克己: "『固有』の信仰と仏教" 石井米雄/編『講座仏教の受容と変容2/東南アジア編』佼成出版社. 63-98 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 長谷川 清: "『伝統』の改革ータイ族の文化変化をめぐってー" 聖徳学園岐阜教育大学紀要. 21. 75-99 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 林 行夫: "内なる実践へー上座仏教の論理と世俗の現在" 前田成文/編『東南アジアの文化』(講座東南アジア学第五巻)弘文堂. 93-123 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 林 行夫: "仏教儀礼の民族誌" 石井米雄/編『講座仏教の受容と変容2/東南アジア編』佼成出版社. 127-161 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 田邊 繁治/編: "実践宗教の人類学ー上座部仏教の世界" 京都大学学術出版会, (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Shigeharu TANABE: ""Anatomy of Sacrifice : From Animism to Ideology"" Kikan Minzokugaku (Ethonological Quarterly). No. 57. 6-19 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Katsumi TAMURA: ""Negative Nationalism : Note on the Politics in the anthropological context"" Minpaku Tsushin. No. 54. 60-67 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Katsumi TAMURA: ""'Indigenous' Belief and Buddhism"" Koza Bukkyo no Jyuyo to Henyo (Formation and Reformation of Buddhism), Kosei Shuppankai. No. 2. 63-98 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kiyoshi HASEGAWA: ""Reform of 'Tradition' : A Study of Cultural Change among Dai People in Xishuangbanna, Yunnan"" Gifu Kyoiku Daigaku Kiyo (Bulletin of Gifu Educational University). No. 21. 75-99 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yukio HAYASHI: ""From Institution to Practice : The logic of Theravada Buddhism in Changing Societies"" Koza Tonanajia no Bunka (Lecture of South East Asian Cultures), Kobundo. No. 5. 93-123 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yukio HAYASHI: ""Ethnography on Buddhist Rituals"" Koza Bukkyo no Jyuyo to Henyo (Formation and Reformation of Buddhism), Kosei Shuppankai. No. 2. 127-161 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Shigeharu TANABE (ed): Kyoto University Press. Anthropology of Practical Religion : The World of Theravada Buddhism,
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] 田辺 繁治: "「コンムアンは精霊儀礼で自衛するー北タイ・チェンマイ」" 『調査情報TBS』. 374号. 2-8 (1990)
• [文献書誌] 渋谷 利雄: "「スリランカの民俗資料にみるエスニシティ」" 『東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究論集』. (1991)
• [文献書誌] 田中 雅一: "「司祭と霊媒」" 『国立民族学博物館研究報告』. 15巻2号. 393-509 (1990)
• [文献書誌] 田中 雅一: "「ヒンドゥの神々」" 谷泰/編『文化を読むーフィ-ルドとテクストのあいだ』 人文書院. 78-124 (1991)
• [文献書誌] 田中 雅一: "「ヒンドゥ王権再考」" 松原 正毅/編『王権の位相』 弘文堂. 3-33 (1991)
• [文献書誌] 長谷川 清: "「タイ族における民族文化の再編と創造」" 『文化人類学』. 8号. 116-126 (1991)
• [文献書誌] 浜田 哲也: "「西双版納の民間宗教職能者」" 『宗教研究』 (印刷中). 288号. (1991)
• [文献書誌] 浜田 哲也: "「上座部仏教圏のキリスト教ー方法論的覚え書ー」" 『宗教学年報』 (印刷中). 8号. (1991)
• [文献書誌] 林 行夫: "「『王』・功徳・開発ー現代タイ王権と仏教」" 松原 正毅/編『王権の位相』 弘文堂. 144-170 (1991)
• [文献書誌] 林 行夫: "「内なる実践へー上座仏教の論理と世俗の現在」" 前田成文/編『東南アジアの文化』(講座東南アジア学第五巻)弘文堂 (印刷中). (1991)