研究課題/領域番号 |
01041114
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | (財)古代学協会 |
研究代表者 |
角田 文衛 古代学協会, 古代学研究所, 所長兼教授 (70072709)
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研究分担者 |
内田 杉彦 早稲田大学, 文学部, 非常勤講師 (00211772)
宮本 純二 財)古代学研究所, 研究嘱託
辻村 純代 財)古代学研究所, 研究員 (60183480)
樋口 清二 前東京国立文化財研究所, 修復技術部長
川西 宏幸 財)古代学研究所, 研究員 (70132800)
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研究期間 (年度) |
1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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キーワード | エジプト中部 / アコリス / 中王国時代 / 竪坑墓 / 木製葬送船模型 / 州侯 / 神殿域 |
研究概要 |
昨年度発見した中王国時代(約4000年前)の岩窟地下墓の発掘調査を継続し、平成元年度それを完掘した。3m四方の墓室をうめた土のなかから各種の副葬品、また床面から木棺3基を発見した。副葬品のなかでとりわけ注目されるのは、木製葬送船模型である。昨年度これを発見しその一部を取上げるにとどめたが、既存の他例と比較して、本品は最大級の大きさをもち、かつ抜群の写実性をそなえた稀にみる優品であると判断された。このたびの発掘によって、全容と細部が明らかになった。その結果、全長2m、幅20cmをはかる船体は異例に細長いものであり、船舶構造上河川航行に適した形態をそなえている。その点で、当時ナイル河を航行した船舶にきわめて近いとみられる。船の甲板上に総数40体ほどの人物像が確認された。櫂をもつ漕ぎ手、舵手、水先案内人、被葬者のミイラ、近親者などが見わけられる。各種の船具模型も多数出土した。そのなかには、これまで用途の判明しなかったものがあり、このたびの調査によって、用途の一部が判明した。船を岸につなぐ杭及び杭打ち槌であり、今後の研究によって、こうした知見がさらに加わるものと思われる。以上の点で、この葬送船模型は、古代船舶の実体を復原するうえできわめて重要な資料であり、化学処理を加えながらそのとりあげに成功したことは、大きな成果として特筆されてよい。 副葬品の内容は多岐にわたっている。そのなかで木製品はもっとも多様であり、筆記用パヒルスをのばす文具類、杖などは完形で出土した。断片のものまで含めて精細に復原すると木製品の品目がほぼ知られるが、その結果によれば、木製品のきわめて豊かな墓であったことが推測される。さらに、金属製品として、青銅製工具、石製品として水晶スカラベや用途不明の弧状品などが発見された。その他、中王国時代の土器類や玉類の出土もあった。墓室の床面には、木棺3基が据えられていた。残存状態は劣悪であったが、中王国時代特有の箱形木棺であり、うち1基は2重棺であることが、本調査によって判明した。 この墓は、後世の撹乱をうけていたけれども、盗掘が不充分であったことが幸いし、死者を埋葬した当時の内容をかなり復原することができた。すでに公刊した昨年度の発掘結果と考えあわせると、この墓に葬られた人物は、中王国時代の州侯級の有力者であったことは疑いない。アコリスの所在する中エジプトは、中王国時代に上下エジプトの有力勢力にはさまれ、政治的攻防がくりかえされたところであったと推定されているが、州侯級の有力者はアコリス近傍で知られていなかった。その意味で、この存在を立証した今次の成果は、中王国時代の復雑な政治史を解明するうえで、貢献するものと思われる。 また、墓の調査と関連して進めた神殿西端地区の発掘で、この地区を可能な限り深く掘り下げ、その結果、末期王国時代(約3000年前)の建築構造物を発見するとともに、神殿形成のあとを遺構や遺物によって追究することができた。なかでも末期王国時代遺構の発見は重要である。すなわち、末期王国時代においてもまた、中エジプトの地は上下エジプト勢力による攻防が絶えなかったところである。先年の調査で同時代の奉献碑2基が出土し、そのひとつは上エジプトの第20〜21王朝ピヌジェムI世により、もうひとつは下エジプトの第23王朝オソルコンIII世により奉献された碑文であった。古代エジプト史研究のなかで、上下エジプト勢力が並立した末期王朝時代は、なお不明な部分の多い時期であるが、中エジプトのこのアコリス遺跡で末期王朝時代と認定できる遺構が確認されたことは、奉献碑2基とならんで、末期王朝史研究に寄与するところが少なくない。 また、葬送船模型や木棺など各種木製品を土中からとりあげるにあたって、保存化学の技術が駆使された。わが国で通常使用される木製品保存の技術は、湿潤な風土の関係上、水分の多い発掘木材を想定したものである。したがって、エジプトのような乾燥木材について、その技術を適用しうるのかどうか、不安を残していた。そのために、現地で実験と試行をくりかえしたが、結果として、乾燥木材用に薬剤配分を変えることで切りぬけることができた。出土乾燥木材の処理について、貴重なデ-タを得た。
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