研究分担者 |
BRADSHAW Don Harvard University, Department of Psychol, 博士研究員PDF
関 道子 北海道大学, 教育学部, 助手
中野 茂 藤女子短期大学, 助教授 (90183516)
金谷 有子 国学院女子短期大学, 助教授 (00177502)
氏家 達夫 福島大学, 教育学部, 助教授 (00168684)
臼井 博 北海道教育大学, (札幌分校)教育学部, 助教授 (90070119)
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研究概要 |
1.表情・発声・動作によって示される情動の発達は個人的ならびに社会文化的な諸要因により影響を受ける。とりわけ初期の母子関係を中心とした子どもの經験は重要なものである。比較文化的に考えると成人の情動表出においてかなり対照的である日本と米国という二つの文化において,乳幼児期において情動がどのように社会化されるかを明らかにすることは情動の発達の機制に迫るのに適切な方法であると考えて本研究を実施した。 2.本研究に先立つ先行研究の中でわれわれは日本の5カ月ならびに12カ月の乳児を対象として怒り・恐れ・よろこびの3種の基本的情動を実験的に誘発させる試みをそれぞれについて2つの異なる条件で行うことができた。そこで本研究においてはこれと全く同じ方法を用いて米国の5カ月・12カ月児についての資料を収集した。これらの録画された資料を顔面に表出される情動をコ-ディングする方法であるAFFEXによって解析したところ,5カ月では米国の乳児とくらべ日本の乳児は怒りを含むネガティブな情動を表出するまでの潛時が有意に長く、また日米の乳児のわずか7%が怒りを表出したのに対し,米国の乳児の54%もに怒りの表出が見られた。ところが12カ月ではこのような文化差はほとんど見られなくなるのであった。これは情動の発達と文化的經験についての興味ある問題を提起するものと考え,本研究の後半において米国において10カ月児を対象とし方法に改良を加えて予備的観察を行った。これと対照されるべき日本の資料は,次年度に別途実施することを計画している。なお5カ月児の実験とあわせて家庭の日常的場面における母子の情動的相互作用についての90分の観察がなされているが、例数が少ないため断定的にはいえないが、日本の母親の乳児への情緒的働きかけは米国のそれと比べるとおだやかで,情動表出の強度も低いようである。 3.上述の母子の情動的相互作用の観察とかかわって幼児(23カ月児)の母親からの統制的働きかけに対して示す従順性について日米両サンプルについて一定の条件下で観察がなされたが、その分析結果から一般に日本の母親の統制はゆっくりとかつゆるやかになされるのに対して、米国のそれはすばやくてきびしいという差異がはっきりと見られる。さらに表情についても禁止という母親の意図が子どもによく伝わるようにはっきりとしている米国の母親に対し,日本の母親はほほえみを浮かべながらダメと言うような例でも分かるように表情だけからは禁止の意図ははっきりと読みとれないことが多いのである。また言語的な面から見ても米国の母親が強い調子で,しかもはっきりとくりかえして禁止の意図を伝えるのに対して,日本の母親はやさしくさとすという感じで,しかも言語的働きかけの頻度が少ないといった傾向がある。このように日米の母親の幼児への統制的働きかけに対照的な特徴があるにもかかわらず,幼児の示す従順性においては日米間にほとんど差が見られない。このことはそれぞれの文化における社会化のあり方について興味ある問題を提起していると思われ,さきの2で扱ったこととかかわらせて今後ぜひ詳細に検討していきたい。 4.発達の最初期からはじまる情動の社会化の過程から次第に複雑高度な社会化された情動が出現すると考えられる。それらは恥・うらやみ・ねたみ・罪障感などであるが,そこには大きな個人差・文化差があることが指摘される。そこでこうした種類の情動が出現しはじめる幼児期(3〜5歳)について日米両文化で検討することを計画した。そこで米国の研究者と協力して一種のドル・プレイ法を用いて,上述のような情動反応,道徳的反応,向社会的反応等について測定する試みを行った。但し方法の開発とテスタ-の訓練に時日を要したため,本研究の期間中には米国側の資料を収集するにとどまり,これと比較対照すべき日本の資料の収集は次年度にくりこされることとなってしまった。
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