研究分担者 |
GIBB Alan ダラム大学, ビジネススクール(英国), 教授
CURRAN James キングストン, ポリテクニック(英国), 教授
BANNOCK Grah グラハム, バノック研究所(英国), 所長
ATTERTON Tim ダラム大学, ビジネス・スクール(英国), 講師
吉田 文和 北海道大学, 経済学部, 助教授 (70113644)
森 杲 札幌大学, 経営学部, 教授 (70000685)
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研究概要 |
本研究計画は平成元年から二年度の二年間実施された。 初年度に行った調査の概略は次のとおりである。平成元年六月に,日本側三名は室蘭地区の集中調査を実施した。これはイギリス側に比較研究のための基礎的な資料を提供するためであった。調査の焦点は,大企業の徹退あるいは規模の縮小による構造的不況を地元中小企業の振興でどの程度克服できるか,またその際に公共体の果たすべき役割は何かを明らかにすることであった。共同研究者の森はその後も室蘭の調査を続け,十一月と十二月にも同地を訪れ中小企業主との懇談,資料の収集に当たった。ここで明らかになったことは,室蘭においては多くの中小企業は巨大メ-カ-の規模縮小の後も「鉄の町・室蘭」というイメ-ジを利用して生き残っていく方向を示していることである。幾つかの企業は,親会社からの発注の減少をカバ-するために東京に連絡事務所を開設し新規の顧客開拓に努力している。室蘭市当局も,観光などの新しい分野に関心を寄せつつも,かっての企業城下町であったことの結果である特定の技術の集積をアピ-ルし,本州方面からの企業の誘致を積極的に行っている。そのための用地の開発はかなり進んでおり,現実に相当数の進出を見ている。しかし,このことによって地元中小企業から進出企業への労働力の移動といった新たな問題も生じている。これは,労賃の相違もさる事ながら,休日条件,職場の環境,福利厚生の違いなどが要因として働いており,地元中小企業に経営の近代化を迫っている。 平成元年九月に濱田と吉田が渡英した。両名ともダラムに滞在し,吉田は中小企業育成のための規制緩和がもたらす環境汚染問題を周辺地域に取材した。イギリスでは企業による環境汚染は深刻で中小企業も例外でなく,規制緩和との調和が困難な課題になっている。濱田は,第三市場に公開している中小企業を実際に訪問し,直接金融の実現が経営体質をどのように強化しているかを調査した。 平成元年の三月にはダラム大学のアタ-トン氏が来日した。イングランド北東部コンセット地区の再開発に実際に携わった経験をもとに意見交換をした。札幌大学においてセミナ-を持ち,約30名の出席をえて,両国の共通点・相違点が明らかにされた。コンセット地区はかって鉄の町であったが今ではその面影も無く,ただ土地だけを再利用して全然別の産業が育っている。それはまさにゼロからの再生であり,コストとリスクは非常に大きい。日本の場合は事態がそこまで行かないうちに手段を講じるべきだというのが一致した見解であった。 平成二年度には森がイギリスに出張した。コンセットを訪問し再開発公社の人々から再生計画の内容を,また実際に進出した企業から事情を聞いた。今年度の最大のイベントは,英国から二名の教授を招へいして一連の研究会を開催したことである。最大の成果があったのは,9月に札幌で開いた日英シンポジウムである。テ-マを「地域経済の活性化と中小企業の役割」と設定し,両国の経験をもとに集中討論を行った。この催しはひろく関心を集め,地元の新開社や銀行などが積極的に参加し,参加者は100名に達した。 地域に君臨する大企業の(特に重厚長大型)の衰退で地元の中小企業への期待が高まっている点では,北海道も北イングランドも同様であるが,中小企業政策と雇用政策が強く結び付いているという点でイギリスに特微が見られ,地域政策という視点が加わっていることは日本の特微である。 中小企業の役割は,雇用の安定,技術革新,企業文化の維持,という観点から21世紀に向けて一層大きくなると思われるが、そのわりには支援政策はまだ不十分である。過保護がよいというのではなく,大企業との間の様々な不平等さえもが完全に解消されていないのである。両国の研究者は今後とも関係を密にして有効な中小企業政策を探っていくことが必要であることを確認した。
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