研究分担者 |
清水 透 東北大学, 非水溶液化学研究所, 助教授 (40118956)
藤井 義明 東北大学, 理学部 化学第二学科, 教授 (00098146)
THOMAS L Pou メリーランド大学, 生化学科, 教授
HATANO Masahiro Chemical Research Institute of Non-aqueous Solutions, Tohoku Univ.
POULOS Thomas L. Center for Advanced Research in Biotechnology of the Maryland Biotechnology Inst
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研究概要 |
緑膿菌より単離されたチトクロムPー450_<cam>のX線結晶解析の成功(T.L.Poulos et al.,J.Biol.Chem.,260巻,30号,p.16122〜p.16130(1985))は、100余種も単離されている他のチトクロムPー450類の機能・構造相関の研究に画期的な、しかも重要は指針を与えた。本来、2原子酸素分子を活性化し、1原子酸素を基質へ添加する酵素として知られているチトクロムPー450類はすでに百余種の分子としてそれぞれ単離され、それらのアミノ酸配列は確定しているが、上記のチトクロムPー450_<cam>を除いて、他はミクロゾ-ム、ミトコンドリア中に存在し、チトクロムPー450_<cam>のみが水溶性球状タンパク質で、他のチトクロムPー450類はいずれも膜結合性タンパク質で水に不溶であり、それらのX線結晶解析は現在までのところ成功していない。百余種のチトクロムPー450類のアミノ酸配列上の相同性は低く、たかだか20%以下にすぎない。 我々は肝ミクロソ-ムチトクロムPー450_d遺伝子の酵母中での発現に成功するとともに(T.Shimizu et al.,FEBS.Lett.,207巻,p.217〜p.221(1986))、ヘムに配位しているCys456(N末端から456番目のシステイン残基)の近傍の点変異並びに基質が結合すると考えられるThr319の近傍の点変異に成功した(T.Shimizu et al.,Biochemistry,27巻,p.4138〜p.4141(1988);H.Furuya et al.,Biochemistry,28巻,p.6848〜p.6857(1989))。 この平成元年度科学研究補助金(国際学術研究)により、未発表の2.6Å分解能のチトクロムPー450_<cam>の全原子座標(周辺の水分も含む)とそれらの座標のそれぞれに関する熱的揺動のデ-タをマグネティクテ-プとして供与していただき、我々はこのデ-タを用いてコンピュ-タグラフィクス解析を詳細に行なった。前述のように膜結合性のチトクロムPー450_dと水溶性のチトクロムPー450_<cam>との間において、アミノ酸配列上の相同性はたかだか20%以下である。しかし、チトクロムPー450_dのCys456近傍(へム近傍部)、Thr319近傍(遠位ヘリックス部)、Phe32
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5近傍(電子伝達部)の各部位の20余残基はそれぞれ対応して高い相同性をもつ。ここに着目してチトクロムPー450_<cam>の全原子座標を用い、部分的なアミノ酸置換に伴う立体構造変化の予知をコンピュ-タグラフィクス法で行なった。ヘム近傍部の変異体9種、遠位ヘリックス部の変異体11種、電子伝達部の変異体3種を調製し、各変異体を用いたアセトアニリド、ベンツフェタミン、7ーエトキシクマリンへの触媒活性を求めた(H.Furuya et al.,Biochemistry,28巻,p.6848〜p.6857(1989);H.Furuya et al.,Biochem.Bilphys Res.Commun.,160巻,2号,p.669〜p.676(1989))。また、電子スピン共鳴法、電子吸収スペクトル法などにより各変異体のヘム周辺の立体構造の相対的比較を行なった。(H.Sotokawa et al.,Bichim.Biophys.Acta,1037巻,p.122〜p.128(1990);T.Shimizu et al.,Biochemistry,投稿予定)。 以下の研究により (1)チトクロムPー450_dとチトクロムPー450_<cam>において、全アミノ酸配列上の相互の相同性は17%と低いが、活性中心であるヘム周辺(へム近傍部および遠位ヘリックス部)とヘム電子を伝達する経路となる電子伝達部の各20余のアミノ酸残基群の相互の相同性は極めて高い。そして、ヘム周辺のThr319はヘムに配位した2原子酸素分子の活性化に関与し、その周辺のアミノ酸残基側鎖の立体構造はチトクロムPー450_dとチトクロムPー450_<cam>とでほぼ同一である。 (2)電子伝達にはLys453が決定的に重要であり、この残基がチトクロムPー450還元酵素とチトクロムPー450_dとを接続させる役割を果たしており、またPhe325近傍の20余残基がチトクロムPー450還元酵素からの電子伝達に関与している。 (3)Cys456近傍のアミノ酸残基の側鎖極性がチトクロムPー450の触媒活性を制御している。 (4)遠位ヘリックス部およびそれに接する部位がチトクロムPー450の基質への反応性の制御、基質上での反応部位の決定に役立っている。 以上の研究をふまえ、平成2年3月にThomas L.Poulos教授が訪日し、平成2年度の研究計画を立案し、上記(1)〜(4)をふまえチトクロムPー450_dおよびチトクロムPー450_<scc>の単結晶調製、そのX線結晶解析を進め、上記(1)〜(4)を具体的検証することとした。 本研究の着実な進展はこの科学研究費補助金の交付によるものであり、感謝申し上げる。 隠す
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