研究概要 |
1981年以降増え続けているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSAは、大・中規模病院由来黄色ブドウ球菌(含MSSA)の70%以上を占めている。白血病,癌,あるいは大手術等に伴なう免疫力低下患者に於いて,時に重篤な感染症を惹起する事がある。従って,MSSAのみならず,MRSAを正確に把握することは,その対策を考える上で重要となる。その1つの方法が国際型別ファ-ジ(以下Basic(B)ファ-ジと略)による型別であるがBファ-ジの型別化率は40〜60%で,残りは型別不能株である。我々は黄色ブドウ球菌の型別が可能な新しいファ-ジを分離した結果,15種のファ-ジ(Kファ-ジと略)を検出し,その有効性を日本,オランダ,インドネシア3ケ国を中心に共同で検討した。その結果次の結果を得た。 A.MSSAに対する有効率 1.Bファ-ジで型別可能,型別可能株それぞれに対するKファ-ジの有効率は92%,60%で全体で74.5%の割合で有効であった。15種のKファ-ジの内,K4,K5,K7,K11,K14,K15 6種が全体の60%,K2,K12が次の順であった。一方Bファ-ジ型別不能株に対してK6,K7,K10,K12,K14の5種が溶菌能が高く,Bファ-ジより少ない種類で型別可能と判明した。 B.MRSAに対する有効率 2.Bファ-ジ型別可能株及び型別不能株の群馬大学由来株に対するKファ-ジの有効率は,それぞれ79.5%,52.1%でBファ-ジの有効率35.5%に対しKファ-ジは60.9%が有効であった。 3.全国国立大学由来MRSA215株に対するKファ-ジの有効率は,RTDで60%,100RTDで86%とBファ-ジの50.1%に比べ有意に型別可能であった。特に型別可能株の内,Kファ-ジに感性を示したものはK1,K2,K4,K9,K14,K15,型別不能株に対しては,K14,K15がそれぞれ全体の90%強を占めた。又コアグラ-ゼ型別とKファ-ジの有効性を検討した所,コアグラ-ゼII型に対してはK14とK15,コアグラ-ゼIII型に対してはK9,K14及びK15が,コアグラ-ゼIV型に対してはK15が有効であり,Kファ-ジによる特徴も検出された。一方外囲由来株はそのほとんどが(79.5%)コアグラ-ゼIV型であり,Kファ-ジはK9とK15が有効であった。尚これら各Kファ-ジには菌株によりK2又はK4が付加した型として検出されるものも分離された。 C.Kファ-ジの特徴 4.Kファ-ジの血清型別を検討した所,A型7種,B型8種であった。B型血清を示したKファ-ジは,プラスミドの導入は10^<-6>ー10^<-8>で可能であったが,A型血清を示したKファ-ジは,いづれも<10^<-8>でプラスミドの導入株は得られなかった。この結果はBファ-ジの場合と同様の傾向であった。 5.各ファ-ジの内,血清型A,Bより4種づつDNAを抽出し,そのDNAサイズを調べた所,いづれも約34kbの大きさであった。 以上の結果より,今回我々が分離したKファ-ジ15種の内,MSSAに対しては10種,MRSAに対しては5種,両者共通のKファ-ジを念頭に型別に有効なファ-ジは10種以内で十分と考えられる。一方Bファ-ジは現在23種用いられている事から,Kファ-ジの有効性が示されよう。 この研究の過程で,MRSAにはMSSAになりファ-ジDNAに対するDNA制限酵素を保有している事も判明した。この点については更に検討する必要があり,MRSAを分類する上でも有力な手段になるものと思われた。 更にKファ-ジが有効である事から,国際型ファ-ジ委員会(本部イギリス,ロンドンNIH)Dr.Marplesが,各国研究施設でその検討を確約してくれたことは,共同研究の大きな成果の1つといえる。
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