研究課題/領域番号 |
01044026
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
本間 三郎 千葉大学, 名誉教授 (70009075)
|
研究分担者 |
BLOM Siegfri ウプサラ大学病院, 臨床神経生理, 教授
HAGBARTH Kar ウプサラ大学病院, 臨床神経生理, 教授
武者 利光 東京工業大学大学院, 総合理工, 教授 (70016319)
中島 祥夫 千葉大学, 医学部, 教授 (60092079)
|
研究期間 (年度) |
1989
|
研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
|
キーワード | 双極子追跡法 / 脳内電位発生源推定 / テンカン波発現機序 / 補正因子 / 海馬 / Source Localization |
研究概要 |
脳内に発生した電位を一つの電流双極子と仮定し、頭皮上から記録される電位分布から脳内に電源の位置とベクトル・モ-メントを求める双極子追跡法(DT法)を完成し、頭部形状計測装置も併せて完成した。そこでこれら二つの装置をスウェ-デンのウプサラ大学病院・臨床神経生理学教室に空輸し、3名の患者につき延べ5回の研究を行った。同教室はスウェ-デンにおける難治性テンカンのセンタ-で、テンカン発作を抑えるため観血的な治療を行なっており、術前に硬膜下電極を頭蓋内に挿入しテンカンの責任病巣を決定している。我々が開発した双極子追跡法は非観血的に、非侵襲的に電源の位置を決定できるのでテンカン発作の責任病巣決定についてその有効性の検討が急がれた。 事前に硬膜下電極でテンカン波の記録がしてあった患者2名、硬膜下電極挿入前後にわたって脳波の記録できた患者1名について研究を行ない以下の結果を得た。 症例 1:38歳女性。難産。1歳のときからテンカン発作有り。入院時週に2回程の発作があり、薬物でコントロ-ルできず。CT、MRI上所見無し。通常のEEGで右側の側頭葉領域から棘波の出現。硬膜下電極にて右側の側頭葉下内側にある電極からのみテンカン波が記録された。右側の海馬に病巣があると診断された。DT法により棘波の電源を推定し、MRI像に重ねると右側の海馬で、硬膜下電極のうち、棘波を記録した電極に一致して求った。また、電源の時間的軌跡は海馬のニュ-ロン配列と極めて類似し頭皮上から記録された棘波は海馬ニュ-ロンに発生した細胞体ー樹状突起に流れた電流の総和によると推定された。これらの結果はNeuroscience Lettersに投稿し、現在印刷中である。その後、脳外科的に右側の海馬の一部が切除され、発作は消失した。切除組織から神経膠症が確認された。 症例 2:29歳女性。出産のときの異常なく、頭部外傷の既往もない。6歳のとき発作が始まる。通常のEEG検査で右側の側頭葉中央に徐波を認めた。CT像では右側のシルビ-溝の拡大を認めたが、MRI像では所見無し。薬剤無効で週に2ー3回の発作を認める。硬膜下電極挿入の手術前にDT法で電源を推定した。推定された電源は海馬付近で、症例1より中央よりに、あるときは左側または右側の海馬に存在した。術後の硬膜下電極から両側の海馬付近に病巣が決定された。現在二双極子追跡法で解析を終わり、論文を準備中である。また、術後に硬膜下電極より矩形波電流を微量流し人工的に電流双極子を作り、この双極子による頭皮上の電位分布から電源を推定し、X線像による硬膜下電極の三次元座標と比較し、DT法の補正因子を算出した。これらの結果は、IEEE Transaction of Biomedical Engineeringに投稿中である。両側に病巣があることから脳外的手術は不可能とされた。 症例 3:43歳男性。20歳のとき高所より転落し、頭部外傷。3週間意識不明。26歳のとき発作発現。通常のEEG検査で左側の前頭葉領域にテンカン波を認める。硬膜下分極では左側の前頭葉外側部から始まる発作波を確認。CT像で左側の前頭葉とその低部に低密度陰影を認める。週3ー4回発作出現。睡眠時に全身発作に移行すること多し。DT法での発作波の電源は脳実質に軟化巣があり、このため推定誤差が大きく、現在補正プログラムを開発し、検討中である。 これらの研究から非観血的、非侵襲的検査法である我々の開発したDT法は脳実質に大きな電導率の変化がなければ観血的方法である硬膜下電極法と同様に充分臨床応用できる装置であるが、電源推定の精度を高めるため、さらに補正因子の検討が必要であることが明らかになった。また、この種の研究は国外にはなく、わが国が最先端を行っていることを付け加えたい。
|