チベット高地における超高エネルギー宇宙線の観測

• 研究課題/領域番号: 01044039
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 湯田 利典 東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (60092368)
• 研究分担者: 任 敬儒 中国科学院, 高能物理研究所, 教授 ; 梶野 文義 甲南大学, 理学部, 講師 (50204392) ; 坂田 通徳 甲南大学, 理学部, 教授 (60068111) ; 柴田 槙雄 横浜国立大学, 教育学部, 助教授 (50018016) ; 鳥居 祥二 神奈川大学, 工学部, 助手 (90167536) ; 水谷 興平 埼玉大学, 理学部, 助教授 (60008844) ; 堀田 直己 宇都宮大学, 教育学部, 助手 (60157039) ; 太田 周 宇都宮大学, 教育学部, 教授 (30008023) ; 南条 宏肇 弘前大学, 理学部, 助教授 (00106840) ; 笠原 克昌 東京大学, 宇宙線研究所, 助手 (00013425) ; REN Jing-ru Professor, Institute of High Energy Physics, Academia Sinica
• 研究期間 (年度): 1989 – 1990
• 研究課題ステータス: 完了 (1990年度)
• 配分額: 6,000千円 (直接経費: 6,000千円); 1990年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円); 1989年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
• キーワード: 羊八井 / 空気シャワー観測装置 / エマルション・チェンバー / 白鳥座X-3 / 一次宇宙線 / 加速・伝播 / シンチレーション検出器

研究概要

中国と共同で中国チベット自治区羊八井(標高4300m)に空気シャワー装置とエマルション・チェンバーの複合観測装置を建設する計画を進めている。主な研究目的は、
1)白鳥座X-3等宇宙天体からの超高エネルギー・ガンマー線源の観測、
2)10^<15>ー10^<16>eV領域での一次宇宙線特に陽子のエネルギー・スペクトルの測定と組成の研究、である。これらは高エネルギー宇宙線の加速・伝播の機構に関して密接に関連する重要な研究テーマである。
昭和63年度から3カ月にわたる科学研究費補助金により、この内の空気シャワー装置の基本部分を建設し、当面1)の宇宙ガンマー線源の探索実験を開始した。観測装置は平成元年4月までに当研究所で調整を済ませ、5月にこれを現地に送って8月から実験を開始する予定であったが6月上旬の天安門事件により、計画は大幅に遅れた。しかし、その後の回復により、同年10月に装置を現地に向けて発送し、12月から翌年1月にかけて一部装置の建設を行いテストラン開始した。平成2年5月から6月にかけて残り部分の建設と装置のキャリブレーションを行い、全体の調整の後、7月から本格的な観測データの取得を始めた。観測装置は65chのシンチレーション検出器からなり、内49台(面積0.5m^2)は15m間隔の碁盤目状に配置し、シャワー粒子の到来時間及び粒子数の大きさを高精度で測定できるようになっている。シャワー・コアーの選別のために49台の装置の周辺に16台の面積0.25m^2の検出器を配置している。装置のシステムをCAMACとTKOで構成しマイコンで制御し、デ-タは容量2GBの8mmビデオテ-プに記録・保存している。常に安定したデータを取得するため窒素ガスレーザー発生装置で疑似パルスを発生させ、これも検出器に随時送り、装置の稼働状況を常時監視している。この共同研究では日本側は主として観測装置を、中国側は土地、実験室、電源、測定器用架台等を準備した。
現在、100TeV以下のエネルギー領域での宇宙ガンマー線点源の探索を目的に約20Hzの高頻度でデータの取得を行っている。今までのデータの解析から、装置はほぼ予定通りの性能を備えていることが確かめられた。北半球で最も高い場所にある羊八井では、約30TeV以上のガンマー線が効率良く観測できるのが特徴で世界の多くの観測装置の中でもユニークな存在となっている。このエネルギー領域はシャワー粒子数が少ないため低い高度にある他の装置では観測が難しい。この意味で羊八井での実験はチェレンコフ光によるTeV領域の観測とPeV領域の間を結ぶ非常に重要な実験と認識されている。モンテカルロ計算との比較から100TeVのガンマー線シャワーのエネルギー決定精度が30%以上、空気シャワーの到来角度の決定精度も100TeVで約0.5度と非常に高性能に作られている。現在の装置で白鳥座X-3等からの定常的な信号を捕らえ、物理的な結果を得るには一年以上にわたるデータの集積が必要であり、最初の結果は秋ごろに得られる予定である。
昨年8月15日をピークに白鳥座X-3で電波バーストが観測された。過去にこのような電波バーストに伴って高エネルギーガンマー線の増加が記録されたという報告がある。この時期は我々の装置もデータを取得していたので早速その解析を行った。まだ、予備的な結果であるが、我々の実験ではこの時間にガンマー線の増加は観測されていない。低いエネルギーのガンマー線まで観測が可能な我々の装置はこの様なバーストが起こった時などは威力を発揮する。最近はガンマー線点源はガンマー線を定常的にではなく、バースト的に放出していると考えられている。この意味でもこの装置を常に定常的に稼働させておくことは非常に重要なことである。
現在の装置は当初予定の約4分の1であり、厳しい国際競争に勝ち抜くためには早急に有効面積を3x10^4m^2規模に拡大する必要がある。また、2)の研究テーマも早急に実現させる必要がある。今年の秋頃からこの為の予備実験を現地で行うべくその準備を始めている。

研究成果

• [文献書誌] 霍安 祥 他: "TIBETーASγ EXPERIMENT" 第21回宇宙線国際会議論文集. Vol.2. 427-430 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 日比野 欣也 他: "A new project to search for high energy gamma-ray point sources in Tibet" Nuclear Physics B. 10B. 219-227 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 西沢 正己 他: "A monitering system of the fast-timing scintillation counters used for detection of air showers" Nuclear Instruments and Methods. A285. 532-539 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 雨森 道紘 他: "Development and a performance test of a prototype air shower array for search for gamma-ray point sources in the very high energy region" Nuclear Instruments and Metuhods. A288. 619-631 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 雨森 道紘 他: "Status and performance of the AS array of the Tibet ASγ experiment," AIP国際会議論文集(米国物理学会). (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] A. X. Huo et al.: "Tibet AS gamma experiment" Proc. of 21st International Cosmic Ray Conf., Adelaide, 1990. 2. 427-430 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Hibino et al.: "A new project to search for high energy gamma ray point sources in Tibet" Nuclear Physics B (Proc. Suppl). 10B. 219-227 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M. Nishizawa et al.: "A monitoring system of the fast-timing scintillation counters used for detection of air showers" Nuclear Instruments and Methods. A285. 532-539 (1989)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M. Amenomori et al.: "Development and a performance test of a prototype air shower array for search for gamma ray point sources in the very high energy region" Nuclear Instruments and Methods. A288. 619-631 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M. Amenomori et al.: "Status and performance of the AS array of the Tibet AS gamma experiment" AIP Conference papers,. (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より