研究概要 |
今回のプロジェクトでは、両性類における内臓自律機能調節とその発達について、嘔吐、消化管運動、および内臓自律機能調節中枢の三点をとりあげ、脊椎動物内臓調節機能の基本的メカニズムを考察するよう研究を企画・実施した。 1.嘔吐について:アフリカツメガエル、トノサマガエルほか無尾類8種、およびカスミサンショウウオとニホンイモリの有尾類2種を用いて、ホ乳類で有効な吐剤である塩酸アポモルフィンと硫酸銅に対する反応、および嘔吐抑制剤メトクロプラミドの効果を生理・薬理学的、行動学的に詳細に調べ、両性類り嘔吐における一般的反応様式を明らかにした。これまでの研究で私ども(Hukuhara et al.,Jpn.J.Smooth Muscle Res.,9:1ー8,1973;Naitoh et al.,Mem.Fac.Sci.Shimane Univ.,15:57ー63,1981;Naitoh et al.,Physiol.Zool.,62:819ー843,1989)は、カエルの嘔吐メカニズムは基本的にはホ乳類と同様であると述べてきた。今回の研究はこれをさらに進め、カエルの嘔吐機能は系統発生上劣ると言われてきたこれまでの通説を否定するとともに、無尾両性類の嘔吐研究への有用性を示した(Naitoh et al.,Comp.Biochem.Physiol.,1991,in press)。 なお、嘔吐は本来摂食と密接に結びついているであろうという作業仮説のもとに、摂食調節に係わると言われるCCKが嘔吐に関与するかどうかを、CCKを注射投与したカエルの嘔吐行動の観察と脳内CCK結合部位についての免疫組織化学的手法により調べた。しかし、CCKの嘔吐への関与の有無について明確な結論は得られなかった。 2.消化管運動の発達について:オタマジャクシの成長に伴う消化管構造の変化には、部位なよって遅速がみられる。大腸では、変態開始以前に繊毛が消失する一方でカエル型の消化管運動(Hukuhara et al.,Jpn.J.Smooth.Muscle.Res.,8:85ー98,1972)が獲得されており、構造、機能ともに、成長途上大腸が最もはやく成体型に達すると思われる(Naitoh et al.,Comp.Biochem.Physiol.,97C:201ー207,1990)。また、カエル、オタマジャクシともに、大腸においては、消化管壁を構成する縦走筋および輪走筋が異なるリズム運動しており、両者が同期期して運動するホ乳類の場合と異なっている。メチレンブル-を用いた生体染色によると、ホ乳類に比べて無尾類の大腸壁内神経叢の網目構造は粗雑でかつ神経細胞数も少なくまた散在している。壁内神経叢が消化管運動の調節に深く係わることから考え、私どもは消化管を構成する縦走筋と輪走筋の協調運動は、壁内神経叢の発達と対であるという仮説を提唱した(Naitoh et al.,Comparative.Biochem.Physiol.,97C:201ー207,1990)。他方、胃および小腸は、形態、運動ともに変態期をとおしてカエル型に急速に移行・完成される。なお、オタマジャクシの胃、いわゆるマニコト、は変態後カエルの胃の中・下部に移行する。 3.内臓自律機能調節中枢の発達について:迷走神経核にもっぱら焦点をあてて組織化学的研究を進めた。カエルおよびオタマジャクシの迷走神経切断枝からHRPをとりこませ、HRPーDAB法を用いて迷走神経核の神経細胞を染めだしたところ、大・小様々な神経細胞が観察された。核内の神経細胞数は、カエルのほうで少ない。特に顕著な点として、オタマジャクシで前方に位置する神経細胞群がカエルでは欠けている。核内の神経細胞と消化管各部との対応関係については結論を得るに至っていない。現在、変態後消失する器官をめじるしとしてこの対応関係を継続研究している。HRPによる染色以外に、DiIおよびtetramethylrhodamineによる染色を試みた。しかし、DiIについてはおもに色素移動に要する時間が長いために十分の検索ができるまでに至らず、結論が得られていない。また、tetramethylrhodamineを用いた染色では迷走神経核と消化管を結びつける結果は得られなかった。これら両者の方法についてはさらに検討を加え研究を継続したい。
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