研究分担者 |
宋 少春 徳島大学, 医学部, 外国人研究員
范 明遠 中国予防医学科学院, 微生物学流行病学研究所, 教授
林 碧瑚 中国海南医学院, 助教授
WALKER David 米国テキサス大学, 医学部, 教授
馮 慧敏 中国中山医科大学, 教授
内山 恒夫 徳島大学, 医学部, 助手 (90151901)
LIN Bi-hu Hainan Medical College, China
SONG Shao-chuen The University of Tokushima
FAN Ming-yuan Chinese Academy of Preventive Medicine, Institute of Microbiology and Epidemiolo
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研究概要 |
我が国で分離した紅斑熱群リケッチアは既知の病原性リケッチアとは異なり,新種であることが明らかになった。このリケッチアをRickettsia japonicaと命名した。紅斑熱群リケッチアはダニ類をベクタ-として,世界中に分布している。その分布域はリケッチア種により異なり,生物地理区に一致すると見られている。生物地理区の東洋区では,病原性紅斑熱群リケッチアは未だ分離されていない。本研究は,中国における紅斑熱調査によりR.japonicaの分布解明を目的とした。また,分離株同定に必要な種特異的単クロ-ン抗体作製を完了した。 1.研究調査の準備 中国南部の海南島におけるR.japonicaの分布調査を目的として,住民の血清抗体価測定を計画した。全島広域の住民から血液採取を行なうのは困難であり,各地病院の一般外来患者血清検体について抗体価の測定を行なうことにした。そのため,海南島各地の病院を訪問してリケッチア症の発生状況を調査し,血清収集を依頼した。また,辺境の病院において,患者から病原体を分離する方法を確立するため,研究分担者憑慧敏を廣州中山医科大学より招へいし,マウス腹腔内接種法と細胞培養法を組み合わせたモデル実験を行なった。その後海南医学院の林碧瑚を研究分担者に加え,細胞培養法による患者血液からの病原体分離法を教授した。 2.中国南部住民の紅斑熱群リケッチアに対する抗体保有状況の調査 海南島北部(海口)・東部(〓海)・中部(〓中)・西部(昌江)・南部(保亭)の病院から一般外来患者血清499検体を収集し,R.japonicaを抗原とする蛍光抗体法により抗体価の測定を行なった。その結果,保亭地方の107検体中にR.japonicaと反応する血清が1検体検出され,IgG抗体価は高値を示し,IgM抗体価も有意の値を示した。さらに海南島南部について再調査を行ない,通什地方において収集した血清311検体中にR.japonicaと反応する血清を1検体見出した。これら2検体の血清はR.rickettsiiとも反応したが,その分布は新世界に限られているので,R.rickettsiiの感染は除外できる。他の病原性紅斑熱群リケッチアとは弱い交又反応を示すに過ぎなかった。これらの調査から,海南島南部には低頻度ではあるが紅斑熱の存在することが示唆された。R.japonicaの存在については,病原体の分離同定が必要である。 3.海南島のリケッチア感染症 海南島南部の一般外来患者血清にはR.typhiと反応する検体が高率(2.7〜12%)に検出され,その半数はIgM抗体を保有しており,発疹熱の多いことが知られた。疑似リケッチア感染症患者の血清反応では,検体の60%以上がR.typhiと反応し,発疹熱と診断された。このように海南島南部には発疹熱が多発しており,紅斑熱は非常に少ないことが知られた。海南島には恙虫病も多いが,本調査ではその検討は除外した。 4.海南島における病原性リケッチア分離の試み 疑似リケッチア感染症の患者血液から細胞培養法により病原体を分離したが,現在まで紅斑熱群リケッチアは分離されていない。分離されたリケッチアは発疹熱と恙虫病の病原体であった。 5.中国東部住民の紅斑熱群リケッチアに対する抗体保有状況の調査 山東省済南市及び南西部の病院外来患者血清1100検体についてR.japonicaを抗原とする血清反応を行ない,済南市省立病院の500検体の血清が陽性反応を示した。しかし,これらの血清検体は海南島の検体に比べて抗体価が低い。R.typhiに対する抗体保有率は2〜6%であり,抗体価も低かった。今回の調査は山東省の限られた地域であり,紅斑熱の存否については,さらに検討を要する。 6.種特異的単クロ-ン抗体 R.japonicaに対する種特異的単クロ-ン抗体作製を完了し,海南島における病原体分離株の同定に備えた。
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