研究概要 |
脳におけるカルシウム結合蛋白質の生理的動態に関する研究を以下の3種の蛋白質につき集中的に行った。 1.カルシニュ-リン(CaN) 平成元年度ではα,β両サブユニットそれぞれに対するモノクロ-ン抗体を作製した。そして,それらを用いた免疫組織化学染色により,αとβの存在分布に差異があることを描出した。また,α,βの生理学的条件下での分離を試み,LiCl_2のようなカオトロピックイオンが有用であることを示した。 平成2年度では,βサブユニットについてラット睾丸より従来報告されていたβと異なる分子(β_1と命名)を同定し,そのcDNAクロ-ニングを開始した。 平成3年度には,上記クロ-ニングを終了し,cDNAのシ-クエンス,とそれに基づくアミノ酸の一次構造を決定し,脳タイプ(β_2)と比べてC端に6個の親水性に富むアミノ酸が付加されていることを示した。また,脳CaNのαサブユニットにもこの2種のisoform(α_1,α_2)が存在することをWestern blot法により同定した。さらにこの年度においてはCaNのより動的な存在様式に関する研究を行った結果,主としてカルシウムイオン(Ca^<2+>)濃度に依存して細胞質から膜へと可逆的に移動するものがあることを同定した。またα,β両サブユニットの量比の検討を行うと,牛脳より精製したCaN(細胞質タイプとみなされる)ではα:β=1:1〜2であるのに比して,膜結合型CaNではα:β=1:4〜6程度であり,CaN分子そのものの存在様式にも多様性があることが示唆された。 2.ホスホジェステラ-ゼ(PDE) 平成元年度には,PDEに対する特異的モノクロ-ン抗体の精製を行った。 平成2年度には,抗体を用いたWestern blotや電気泳動法により,牛脳PDEには分子量のわずかに異なる(60,000と63,000)2種のアイソザイムが存在することを明らかにした。さらに平成3年度にかけて,63,000の分子量のPDE(PDE_1)はカルモデュリン依存性リン酸化酵素により,分子量60,000のPDE(PDE_2)はcーAMP依存性リン酸化酵素により,それぞれStoichiometricにリン酸化を受けることを示し,両アイソザイムが異なったコントロ-ルを受けている可能性を示した。また,免疫組織学的解析では,脳にはPDE_1の方がPDE_2より多く存在し,かつ局在も比較的はっきりしていることが判明した。 3.リポコルチン(アネキシン) 平成元年度には,リポコルチンI(LPーI,分子量35,000)とリポコルチンII(LPーII,分子量36,000)に対するモノクロ-ン抗体の作製を試みた。また,LPーI,LPーIIともホスホリパ-ゼA_2活性を抑制すること,かつLPーI,LPーIIがCキナ-ゼによりリン酸化されるとその抑制活性が減少することが判明した。 平成2年度には,LPーI,LPーIIのラット脳の発達に伴う変化につき研究し,LPーI,LPーIIとも生直後には多いが,成長するにつれて減少し,7〜8週になるとほとんど消失することを示した。この結果はLPーI,LPーIIのcDNAプロ-ブを用いたNorthern blot法にても確認され,新生児よりも胎生期の脳においての方がmRNAレベルがさらに高かった。 平成3年度においては,LPーI,LPーIIのモノクロ-ン抗体を用いた免疫組織化学的解析を行った。LPーI,LPーIIとも,胎生から新生児にかけての脳の,特にアストロサイトにおいて存在していることが明かとなった。 現在は,LPーI,LPーIIがさまざまな病態時にどのように変動するかをラット脳における疾患モデル系において検討しているが,アストロサイトの増殖を伴う系において,両蛋白質の増加が認められることが示唆されている。
|