研究分担者 |
FERNANDEZ Do マドリード自治大学, 経済学部, 教授
MORENO Carlo マドリード工科大学, 経済・社会科学部, 教授
CENA Felisa コルドバ大学, 農学部, 教授
GOMEZ Antoni マドリード自治大学, 哲学文学部, 名誉教授
松永 登喜子 KDD学園, 非常勤講師
中川 功 拓殖大学, 政経学部, 専任講師 (30188891)
栗原 尚子 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (80017623)
立石 博高 同志社大学, 商学部, 助教授 (00137027)
戸門 一衛 常葉学園大学, 外国語学部, 助教授 (30188718)
藤沢 和 明治大学, 農学部, 教授 (60061959)
津守 英夫 明治大学, 農学部, 教授 (30183487)
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研究概要 |
1986年にECに加盟したスペインを対象に,近年の農業構造の変化を把握することを目的にしているが,日が浅いこともあり全国的な構造変化は発現するに至っていない。しかし,萌芽的変貌はいくつかの農業部門,農業地域において散見される。加盟前後から農業を取り巻く機構・組織の整備や各部門・地域ごとに対応策が検討され,実行されてきているが,全体的には次のような特徴が指摘される。 第1には,農業政策推進機構の整備であり,とくに地域農業の政策立案過程が定着したことである。EC共通農業政策を基調としつつ地方州政府の主導の下に研究機関,地方金融,農業団体も参画する地域農業振興が策定されるようになった。従来にはスペイン農業構造改善事業の推進機関として各州に設置されていた農業改革・発展センタ-(Instituto de Reforma y Desarrollo Agrario,IRyDA)や国立農業研修センタ-(Centro de Capacidad Agraria)等の諸機関が州政府へ移管されてきている。これは直接的にはスペイン農業の地域的多様性を踏まえたEC加盟に伴なう現実的な地域農業政策を必須としたことによるが,間接的には1978年憲法による地方自治への権限委譲の内実化のひとつでもある。 第2には農業経営への多様な資本形態の参入と組織化の進展である。国内外の商業資本による直営農園や契約栽培が急速に普及してきている。「ロンドン向けレタス工場団地」と形容されるアルメリア県沿岸地域のハウス栽培がその典型であり,オレンジ,生食用葡萄やなしの主産地では結果する以前に出荷契約を締結する「樹木買い(Compro de arbol)」(青田買いに該当)が比重を占めてきている。また,これらの栽培には点滴農法が導入され,造園,灌水網の敷設から肥料・消毒剤の供給等の内外の農業資材メ-カ-が介入している。長期借入金の斡旋や資材供給系列化が急速に進行し,多様な「垂直的統合」が現われてきている。 また,政府主導の農産物流通機構の合理化・近代化が進展し,産地集出荷市場・消費地市場が整備されてきている。商品生産地帯では搬入権を有しない零細農業経営体は協同組合や任意組合を経由しなければならず,輸出業務の事務委託を含めてそれらへの参加が増加してきている。スペインでは流通機構の合理化や協同化が著しく遅延していたが,EC加盟はそれらを大きく刺激してきている。 第3に,EC加盟への対応に著しい地域差が生じている。地中海沿岸地域ではECという巨大な農産物市場が拡大されたことから,蔬菜・園芸の生産拡大が進行し,とくに冬季には「ヨ-ロッパの生鮮蔬菜園」を建設しつつある。共通農業政策の完全適用への移行期間であり,国内における生産調整を前にしてこうした国際競争力を有する部門では増反が著しく,結果的には産地間競合を激化させている。また,綿花,水稲部門では高位生産力地帯への産地移動が出現してきている。西南部ではその位置や自然条件から亜熱帯農産物,観葉植物の増植等の積極的な対応を展開している。 EC諸国と比較した場合には穀物,酪農部門は生産力や生産費から劣位であり,これらを地域農業の基幹部門としてきた北西部や丘陵地域においては地域農業存続の危険性すら生じてきている。共通農業政策のひとつである「域内優先」によって穀物・飼料の主要輸入先を合衆国からEC余剰農産物へ変更してきているが,これらの地域ではEC諸国との競合が激化し,受動的・消極的対応としてEC補助金への期待や離農・廃農奨励金への傾斜が進行している。また,丘陵地域の振興策として狩猟観光地化の動きもある。各種の地域振興事業にEC地域開発基金が融資されてきている一方では,生産費のEC水準との比較から生産者価格の低下傾向が続くなかで,中堅的農業者を中心とする農業運動が活発化してきている。
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